第十八話 夜更けの会議
「流石に眠気には勝てないか」
「リョウも気を張ってたんだろ」
「で、話って?」
「昭和屋と獣化だ」
獣化の方が説明が面倒だ。後回しにする。
「うん、何が今の僕たちに都合がいいって?」
「まず、商品が増えた。しかも昭和屋と言いながら、もっと古い時代になった」
「へえ。それのどこが都合がいいの?」
「道具類が出てきた」
「例えば?」
うまく説明できないな。
「カンナとかノミみたいな大工道具。刀鍛冶が使うような道具類。あとは農具だな。勿論それ以外もあるが、全部は説明が面倒」
「ふーん。まあ売りやすくはなったのかな? でも、それぐらいだったらこっちでも普通に売ってるんじゃないのかな?」
「最初のあの街しか知らんから何とも言えんが、もっと文明的にはレベルが低いと思うぞ」
簡単なクサビは見かけた。だが釘らしきものはなかった。
家も家具も、整ったものはなかった。
木の肌をそのままにしたものも多かった。
ニス塗りなんて勿論ない。まあこっちなら漆みたいなもんか?
その辺を説明する。
「気にしてないだけかも知れないよ?」
「そうかも知れんな。だが、釘があるだけでもだいぶ違うぞ?」
「なるほど。似たようなものは作れるかも知れないけど、割と大変そうだもんね」
「ああ、まあ、モノづくりにこだわりがないなら、全く売れないだろうけどな」
「だが、それが売れるとしてだ、限定的じゃないのかい?」
「そうなんだよ。単価も低いだろうし、一般家庭にはいらんものだな」
「だけど使えなくはなさそうだね。家庭向けはないの?」
「そうだな。包丁の類はあった。だが、これは今もあるだろう?」
そう考えてみると、どうにも使い勝手が悪いな。
数をこなすか、金額なのかわからんが、レベルアップを待つしかないか。
「もう一つの獣化は?」
「……になれる」
「なんて言ったの?」
「オオカミと……になれる」
言いたくねえなあ。
「ごめん聞き取れなかった。狼と何?」
「オオカミとタヌキの化身になれる」
「へえすごいじゃないか。狼は強そうだ。タヌキはどうかわからないけどイヌ科ではあるんだろう?」
「科とかはよく知らん。まあ、獣化してみる。実際に見てくれ」
「獣化!」
今回も叫ばなきゃいけない気がした。
リョウが起きない程度の声を出す。
「うわっ! 怖いよ、その姿。それに服がビリビリに破れちゃったけど、大丈夫なの?」
解除する。
「え? どうして破れた服が元に? 物理無視?」
「細かいことは気にすんな。というわけで近距離の攻撃手段を手に入れたぞ」
「いいのかな? それ。多分、相手は怪我じゃすまないと思うよ?」
「仕方あるまい。命のやり取りをしてる時に手加減はできん」
まあ、命のやり取りをするかどうかもわからんけどな。
「そうだね。僕だって聖人君子じゃない。わかった。その辺は一緒に責を負うよ」
「別に気にすんな。お前は業よりも徳を積め。その方が祝福が伸びそうだ」
「そうだね。まあ色々試していこう」
リョウが動いたように見える。
さては見てたか。
しゃあないな。
* * *
「おい、ウエイクアップだ。言葉のチョイスを間違えるなよ」
「ん? どういう? ああ、なるほどわかった」
リョウが起きてるんだね。
別にもういいんじゃないかな。
「リョウ、気になるなら起きておいで。ただ、眠いなら寝た方がいい。今日じゃなくてもお前にはきちんと話すから」
リョウが起き出してきた。
「いえ、眠いは眠いですけど、寝てる間にワタヌキに食われるよりは抵抗して死にたいです」
「だってさ」
「お前をとって食ったりしないさ。まずそうだし」
「やっぱり人を食うんだね。ワタヌキは」
言い方ってものがあるだろうに。
ワザとやってるね。
「まあ、明日もあるから簡単に説明する。ただ、これを聞いたらお前はしばらく私たちと一緒に旅をしなきゃいけなくなるが、良いのかい?」
「しばらくとはいつまでですか?」
「どうだろう。一年ぐらいを目途にはしたい。それは本音だ。だが、どこに行けばいいのか、何をすればいいのか手がかりがまったくないんだ。だから絶対一年とは言えない」
考え込んでいるようだ。
「ツルミ様はボクを助けてくれました。できるなら今度はボクがツルミ様を助けてあげたいです」
「おい、俺は?」
「ワタヌキは強いだろう? 悪魔より怖かった」
「ははは、子どもには強烈だと思うよ」
「まあ、いいさ。じゃあ、とりあえず一年くらいは旅に付き合ってくれるかい?」
「はい。よろしくお願いします」
「お願いするのはこっちだよ。なにせこの世界のことは全くわからない」
「この世界なんて言うと、また天使とか悪魔にされるぞ?」
そう言ってもね。
どう説明すればいいんだろう。
「よくわかりませんが、ツルミ様は天使様じゃないことはわかりました。ただ、ボクの世界のことは何も知らないんですよね?」
「そうだね。うまく説明できなくてごめんね」
「大丈夫です。ワタヌキは?」
「鶴見と同じところから来た。もうちょっと便利なところからな」
「便利?」
「ああそうだ。俺たちはこの世界よりも、少しだけ暮らしやすいところから来た」
「よくわからないよ」
「いいんだ。説明しても見せられないし、おそらく俺たちももう二度と帰れない気がしているからな」
「いつでもいいです、今度話してくれませんか? ワタヌキも教えてくれる?」
「俺は構わんが、一つだけ、どうしてお前は俺と鶴見とで態度を分けるんだ?」
「ツルミ様は祝福できるじゃないか。だからお坊様なんだよ。ワタヌキはギリ人間?」
「ギリって、リョウ、和狸も一応人間だよ? ああ見えてもね。それにリョウを連れて行くことに反対しなかった」
まあ、僕へは信頼、ヌタさんには愛情というか親近感。役割を分けた方がいいかな。
おそらく、ヌタさんの方にそのうち懐くだろうからね。
「ツルミ様がそう言うなら……」
「ひでえなあ。まあいいけど」
精神年齢が近いのかな?
まあゆっくり距離は詰めよう。
彼は大事な知識の源だからね。
「まあ、そういうわけで、これからどうするか決めなきゃならん」
「今夜じゃなくてもいい。明日か明後日には交易の街につくんだろう?」
「御者さん次第ですけど、それぐらいだと思います」
「まあ、まだ多少こっちのお金もある。そこを見てから決めても遅くはないからね」
「目標が決まらんとスッキリしないけどな。まずは状況把握は大事だな」
「わかりました。じゃあ、街についてからまた教えてください」
「わかったよ。もう限界だろ? 寝ろ」
「うん。寝る。おやすみなさい」
「ああ、ゆっくり休むんだよ」
さて、困ったね。
結局何も決められないな。
まあ、当面は「死なない」ぐらいの目標でいいんじゃないかな?
食とトイレも大事だけどね。
* * *
どうやら獲物は三人と御者か。
積み荷はわからんが、坊主の方は見たこともねえ法衣を着てやがる。
あれだけでも大金貨になりそうだ。
明け方までに一気に攻めればどうにでもなるだろう。
たまには美味い酒が飲みてえ。
早く仕事を済ませて、街に繰り出すとするか。
手下どもをたたき起こさなきゃな。




