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鶴見と和狸  作者: きじとら
第0章
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第十六話 鈍る足


「御者はどうだ?」


 ずっと様子を見ていたリョウに尋ねる。

 

「変わりないです。痛みもなさそうで眠っています」

「そうか。リョウも疲れたら横になっていいからな」

「はい。わかりました」


 さて、困った。

 御者がいないとこの先に進めない。

 リョウも手綱は握れるが、一人ではこの後の行程をさばききれまい。

 

「危険ではあるが、御者の様子が落ち着くまではここにいよう」

「そうだね。君は本当に大丈夫?」

「問題ない。それに話すこともある」

「話? わかった」


 野盗とおぼしき奴らを殺した後、俺の変態レベルがあがった。

 そして名前も変わった。

 

 変態LV01から、獣化LV02に。

 変態はまだ人だった。

 だがもう人ですらなくなった。

 

 その代わりと言っていいのか、色々できるようになったようだ。

 その辺は王子と相談しよう。

 

「リョウ、俺たちはちょっと話し合いをしなきゃならん。今後のことを決めないとな」

「わかりました。こちらはボクが見てます」

「御者が起きたら呼んでくれ」


「で、どうしたの?」

「変態が獣化に変わった」

「名前が変わったの?」

「そうだ。ついでに出来ることも変わった。バイクはもう使えん」

「どういうこと?」


 出来なくなったこと、新しく出来ること、また試す必要があるものが増えたこと。

 かいつまんで話す。

 

「どういう意味なんだろうね」

「推測するなら、日頃の行いで出来ることが変わるんじゃないかと思う」

「うーん。僕は祝福を使いまくったから、本当に祝福が生えてきたということかな」

「断定はできんがな。それに獣だぞ? 人ですらない。まあ武器がないから今はその方が助かるんだが」

「殺生はおすすめしないけどね」


 そう言われてもな。

 こんな世界だ。自分の身は自分で守らなきゃなるまい。

 

「昭和屋の商品も入れ替わった。マッチも鉄瓶も買えん」

「ありゃ、それは困ったね」

「まあ、買いだめはしてある。それに新しく買えるようになったものの方が今の俺たちには有用だ」

「詳しくは後で聞くよ」

「そうだな」


 さて、これからどうするか。

 もう先延ばしにしてる場合じゃない。

 

 * * *

 

「僕はしばらくは一緒に行動したい。君のようには、この世界の常識を受け入れられないんだ」

「そうは言っても帰れるあてはないだろう?」

「そうだね。だからお願いになるけど、目途がたつまで一緒に居て欲しい」

「お前の言う目途とは?」


 それなんだよね。

 ゴールじゃなくてもいい。

 何があれば僕自身が納得できるのか。

 

 いや、納得はできない。

 数日前とは言え、突然この世界に来たんだ。

 原因は多分、僕なんだろうけど。

 

 そういう意味でもヌタさんにきちんとお詫びしなきゃいけないし。

 

 玉虫色の回答になっちゃうけど、ヌタさんに決めてもらえると嬉しいんだけどな。

 

「僕らがこの世界で暮らしていける、それが目途、かな?」

「随分と曖昧な目途だな。お前がいいって言うまで終わりがないじゃないか」

「ダメかい?」

「ダメじゃないが、お前中心で生きていくつもりはないぞ?」


 それはそうだね。

 

「正直に言う。おそらくこの世界に来たのは僕が原因だって話はしたよね?」

「ああ、それがどうした? もう謝罪は受けたぞ」

「そうは言っても、僕としては納得できない」

「納得出来なかろうが、なんだろうが、帰れるあては今のところないぞ?」


 それはそうなんだけどさ。

 僕自身が申し訳なさすぎるというか。

 

「多分、僕たちは現代では死んだんだろうね」

「そうだな。でもこっちでは生きてるだろ? ここがあの世か、それ以外かはわからんがな」

「でも、不便極まりないよね?」

「なんだ、産業革命でも起こすのか?」


 そんな知識も経験もないから無理だと思う。

 

「いや、少なくとも食事はもう少しまともにしたいし、せめてトイレぐらいは水洗がいいよ。あとはトイレットペーパー」

「お前、何気に無茶を言ってるからな? 食事は何とか出来るかもしれんが、水洗トイレもトイペも簡単には再現できないからな?」

「なら、そこを目標にできないかな?」


「無理とは言わんが、難しいな。だが、やる価値はあるな。まあ、そこまで具体的じゃなくても、楽隠居ぐらいにしとこうぜ」

「楽隠居? 老いるにはまだ早くない?」

「あっちで死んだんだ。こっちはおまけ程度でいいさ」


 随分割り切ってるんだね。

 でもこの文明レベルじゃ、高望みするだけで苦しいだけかも知れない。

 気を使ってくれてるのかな。


「いいじゃねえか。何ができるかわからんが、悲観するよりは楽しくやればいい」

「なるほど。一人だと心細いけど、二人なら知識も経験も補いあえそうだね」


「でも、ヌタさんはそれでいいの?」

「別にお前と生涯一緒に居るつもりはない。この世界を見て回るのも悪くはなかろう」

「それも面白いね。できれば拠点があればいいけど」

「じゃあ、それが第一目標だな」

「わかった。じゃあ、拠点づくりをめざそう」


 * * *

 

 とは言ったものの、現実問題、御者、野盗のクビ、そしてリョウがいる。

 これをどうするかは決めなきゃならん。

 

 王子様は俺に気遣うあまり、目の前のことは見えていない。

 正におぼっちゃまだな。

 

 仕方あるまい。

 

「じゃあ目の前のことを処理しよう」

「目の前のこと?」

「そうだ。まずお前は御者を見ててくれ。俺はリョウに聞きながら手綱を握ってみる」

「交易の街まではいくんだね?」


 何だ? 馬車を奪って逃避行でもするつもりだったのか?

 そんな簡単に足がつくことなんてしない方が得だぞ?

 

「まずは交易の街だ。それ以降はその街で方針を決めよう。金だって稼いでおいた方がいい」

「すごいね。よく考えつくね」

「お前が考え無しなだけだ」


 まあ、ゆっくりでもいい。

 交易の街に向かおう。

 馬の状態も見なきゃならん。

 プロのような速度ではたどり着けないだろう。

 

「あまり、ここに居て、残党が出てきても面倒だ。御者が大丈夫そうなら動くぞ」

「わかった」


 さて、リョウに教わるとするかな。

 獣化がどこまで力を発揮してくれるか。

 怯えないといいな。馬。

 

 * * *

 

 聞いちゃった。絶対これは聞いちゃいけないやつだ。

 

 ツルミ様もワタヌキも一度死んで生まれ変わったと言った。

 

 そんなの天使様か悪神しかいない。

 

 ツルミ様は天使様だけど、ワタヌキは悪神だ。

 きっとそうだ。

 

 

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