第十四話 道すがら
宿屋のご主人に礼を言い別れた。
金物屋にも顔を出したところ、口入屋の店主が誰かに襲われたと言っていた。
まあ、金物屋の店主の手に、血の付いた布が巻かれていたのが見えたが黙っていた。
乗り合い馬車の乗客は、僕たち三人だけだった。
御者は赤字だと言って嘆いていたが、仕方あるまい。
こちらはゆっくり過ごさせてもらう。
激しく揺れる荷台でね。
「リョウ、この国のことについて聞きたいんだ。わかる限りでいい。教えてくれるかい」
「はい、わかる範囲でよければ。ただ、国とは違うと思います」
「国じゃない?」
「はい。領主様はいますが、王様も宗祖様もいません。どこの国にも入っていないと思います」
ふむ。「国」という言葉が通じるから、制度としてはあるんだろうな。
だが、王と宗祖?がいないと国にならんと言ったな。
独裁か宗教による縛りなのか。
いずれにせよ、人頭税なのか麦の収穫量なのか何かしら搾取はされているのだろうな。
「税金について、お前は何を知っているんだい?」
「税ですか? 街なら一級市民、二級市民の違いがあるのは知ってます。違いは税の額だって父さんは言ってました」
「家族の人数に応じて払うのかな?」
「たぶんそうだと思います」
人頭税か。
「街じゃなければ?」
「それは村とか集落を治める代官によって違うって言ってました」
随分と粗い税法なのかな。
まあ、袖の下も通じるんだろう。
「領主の街の近くから、あそこの街へ移ったと言ってたね。なぜ引っ越したんだい?」
「前の街でも猟師をしていたのですが、獲物がとれず税が払えなくなったからって言ってました」
「二級市民に落ちれば暮らせなくはなかったのですが、扱いがひどくなるから、それならいっそのことこっちの獲物がいる方へ移ろうって言ってました」
一級とか二級とかか。
貴族はまだいないのかな。それとも市民の区別だけなのか。
まあ、民主主義なんてのは期待できないな。
「そうだ、リョウ。お前加護について何か知ってるか?」
ヌタさんが尋ねる。
「加護ですか? よくわからないです。ただ、ある日突然加護を得る人がいるって」
「それは年齢とかなのか?」
「わかりません。父さんも母さんも加護はなかったですし、勿論、ボクもないですし」
「そうか。ちなみに加護を得ると何ができるんだ?」
それは非常に気になるね。
だが、金物屋の店主は、生まれた時に持ってるって言ってなかったかな?
リョウが間違っているのか、加護そのものの知識が知れ渡っていないのか。
僕たちの職業だかステータスにも関係するかも知れない。
そもそもアレが加護なのかどうか、気になる。
「子どもが話していたのを聞いたんですが、火をつけたり、水を出したり、何かをキレイにするとか何とか」
リョウだって子どもだろうに。
「そうか。お前は加護が欲しいか?」
「いいえ。貰えるかどうかわからないものを期待するよりも、勉強したり練習する方が手っ取り早いです」
「道理だな」
この子は本当に大人びている。
見ていて憐れに見えてくる。
「ツルミ様は祝福できますよね。うらやましいです」
「そうかい? 君も宗教の道に来るかい?」
「いいえ、イヤです」
「イヤなのかい」
思わず笑ってしまう。
坊主は嫌われているようだ。
「それはどうして?」
「祈っても、父さんも母さんも助けてくれなかった。ボクだって一人になって何度も祈ったけど……」
「そうか、そうだったね。済まなかった。だがそれも巡り合わせだと思う」
「そうだぞ。俺たちのところではな、七転び八起きって言葉がある」
「七転び八起き?」
「七回転んでも八回起きればいい。誰かに頼る必要もない。自分の足で立つんだ」
「頼らない……自分の足で……」
難しかったかな。
もう少し違う慰め方もあるだろうに。
ヌタさんはまったく。
「まあ、お前が勉強や修行を諦めなければ、道は開けるってのと一緒だよ」
「それならわかります。諦めないで続けるんですね」
「そうだ。諦めたらそこでゲームセットだ」
「げーむせっと?」
「いや、それはあれだ、俺たちの方言だ。終わりだよって意味だ」
「わかりました」
伝わらない言葉もあるんだな。
勝手に変換されるのと、通じないものがある。
リョウが言葉を知らないからか?
よくわからないね。
「ヌタさんは夜の見張りに備えて休んだ方がいい」
「そうだな。この揺れで寝られるかはわからんが、目を瞑るだけでも違うわな」
「ボクも見張りしますよ?」
「お前じゃ何かあっても対処できまい? もう少し鍛えてから頼むことにするよ」
少しがっかりした様子のリョウ。
さて、この後どうしてやるのが一番いいのかな。
「私も少し考え事をするよ」
「はい」
「気分が悪くなったりしたらすぐに声をかけなさい」
「わかりました」
* * *
二人とも目をつぶっている。
寝てはいないみたい。
とりあえずあの街からは逃げ出せた。
でも、これから先どうなるかわからない。
お坊さんと従者さん。
本当にそうなのかな?
ワタヌキはツルミ様を「ピカリン」とか呼んでいる。
決して従者が使う言葉じゃないと思う。
それに、二人ともここいらの人とは違う感じがする。
国が違うとか言ってたし、いろんなことを聞いてきたし。
どういう人たちなんだろう。
でも、今はこの二人を頼るしかない。
ボク一人で放り出されたら、すぐに人買いたちにさらわれてしまう。
そうなったら……
なんとか二人に捨てられないようにしないと。
* * *
子どもらしくないんだよなあ。
男っぽくもない。
猟師の子だと言うのに、知識も常識も多い気がする。
店主たちよりも言葉遣いがしっかりしているし。
両親は本当に猟師だったのか?
まあ、リョウが知らないだけかも知らんが、そうは思えないんだよなあ。
まあ、いいか。
考えるのは見張りの時にも出来る。
それに昭和屋を研究しなきゃならん。
マッチはもういらないんだが、レベルアップのためにも買い物をした方がいいんだろうな。
マッチ売りのおっさん。
冴えねえなあ。




