第十三話 旅仕度
宿屋のご主人はとても協力的だった。
スマイル込みだったから、当然なのかも知れないが。
僕自身、「籠絡スマイルA」がよくわからない。
悪いことに使ってるわけじゃないから、神っぽい誰かの機嫌は損ねないと信じよう。
「さて、まずは金物屋だね」
「残ってるといいな、リョウの服」
「どうでしょう。あんまり質の良い物ではなかったので、すぐには売れないと思うけど」
目的の金物屋に着く。
「店主、いるか?」
「おや? お坊様、きょうはどうしたんだい?」
「この子に見覚えはあるか?」
「ああ、猟師のところの。この子がどうしましたか?」
「ああ、口入屋から私たちが引き取ったんです。旅の案内人としてね」
一瞬、店主の顔がゆがむのが見てとれた。
「あの野郎。そうですかい。ではお坊様方が連れて行ってくださるんで?」
「そうだね、とりあえず領主の街までは一緒に行くつもりだ。無論、その後もこの子が出来るだけ不自由しないようにしたい」
「そうですか。この街のこととは言え、礼を言わなきゃなりませんね」
「それには及ばないよ。これも巡り合わせだ」
少なくともこの街の人全員が悪人、ってわけではなさそうだね。
「そこで、旅に出るにあたり、この子の衣類や家にあったものを買い取りたい。まだ手元にありますか?」
「全部じゃありませんが、大抵のものは残ってます。ですが全部は持っていけないでしょう」
「そうだね、量にもよるが、この子に選ばせたい。済まないが選ばせてやってくれないかな」
「いいですよ。さあこっちだ。ついといで」
店主がリョウを店の奥の倉庫へ連れて行く。
「ヌタさん、昨夜手に入れた鉄瓶あったよね」
「ああ、ここで捌くか?」
「うん、大した額じゃなくてもいい、お礼がしたい」
「タダってわけにはいかんぞ? あれは100Dもしたんだ」
「まあ、いいじゃない。祝福で返すよ」
「いくらになるかもわからんのに、空手形切るなよな?」
祝福がダメな場合は、そっちをあてにしなきゃいけないからね。
ここが済んだら、宿屋のご主人に勧められたところを回る。
口が堅く、実直な商売をしているところを教えてもらった。
十件ほどあるが、一か所で100D稼げれば御の字だ。
「まあお前がやるって言ったからな。それに昭和屋もいい商品がなかったし、しかたないわな」
「そういうこと。さあ、選び終わったみたいだよ」
リョウが帰って来る。
リュックを背負っているということは、あれもリョウの物なのか?
「おかえり」
「お二人とも、お待たせしました」
「店主、手間をかけたね。ヌタ、あれを」
「はい、店主。これを受け取ってくれ」
そう言って鉄瓶を手渡す。
「なんですかい、これ?」
「私の故郷で使われる湯沸かしです」
「湯沸かし? 湯は鍋で沸かしますが、こんなのは見たこともない、それに鉄ですか?」
「そう、鉄を精密な型に流し込み、耐久性と美術品としての価値を両立させてます」
現地の人にこれの価値がわかるかな?
「ちょっと拝見します……ほお、ずいぶん手が込んでる。それに鉄が真っ黒ってのが面白い」
「よくわかりますね。さすがご主人」
「いやあ、わかるのはそれぐらいです。でもいいんですかい? これかなり高価なものでしょう?」
「構いません。旅の仕度も、火つけ棒も、今日はリョウの物まで手を煩わせてしまいましたからね。私からできるお礼はこれぐらいしかないので心苦しいのですが」
本心ではある。
だが、ちょっとだけスマイル。
「いや、これはいただけませんぜ。ですがもしお売りいただけるなら、ちょっと待ってくださいね」
そういうと再び店の奥に向かう。
「こっちはこの子用の旅の道具です。勿論加護つきです。それと、少ないですが……」
そういって、金貨一枚を差し出した。
「いけません。これはお礼の品です。それにお金を頂戴するわけには参りません」
「何を仰います。お二人とも荷物を失くされたのに、これが残っているということは虎の子なんでしょう?」
「それはそうですが、礼を尽くすのは当然のこと」
「わかってます。ですが過分な礼にはその分をお返しするのが筋ってもんです。まあちょっと足りないかも知れませんが、旅の足しにしてください。喜捨でさあ」
「ありがとうございます。それならお気持ち、頂戴しますね」
「とんでもねえ。こんな貴重な品をありがとうございます」
まあ結果オーライだね。
リョウの服などもうやむやだが、喜捨としてありがたく頂戴しておこう。
* * *
午後は馬車の都合を確認し、明日出られることになった。
また、馬車の予定が決まれば食料も必要になる。
ハゲリンの祝福のついでに買い出しに回る。
祝福の成果は、金貨3枚、銀貨20枚。
買い出しや馬車の前払いで、差し引き4000Dあまり。
四十万もありゃあ当分は困らんだろう。
ついでに貴公子のレベルが上がったそうだ。
貴公子 LV02。
魔法でいいと思うんだが、スマイルAはスマイルHに変わったという。
BじゃなくてHなのか。
ハイパーか?
エアガンはそのまま。
新たに祝福Aが出たという。
今までの祝福は何だったんだ?
まあ、いいか。
俺の方は、一切変態してないからレベルも上がらん。
昭和屋も鉄瓶以降は何も増えない。
バイクで二人乗りが出来ればよかったのかも知れんが、ハゲ王子にリョウを抱えさせても、リョウに抱きつかせても、落車する可能性がある。
慣れない奴がバイクにまたがって、カーブや加減速に対応できるとは思えん。
俺だけバイクで行けば良かったか?
いや、夜の見張りで値引きしてもらったんだ。
そういう訳にもいくまい。
俺のレベルアップはしばらくお預けだな。




