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鶴見と和狸  作者: きじとら
第0章
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第十二話 リョウ


「そうか。大変だったな」

 

 この子はリョウと言った。男だ。

 とりあえずホッとした。女なんてどう扱えばいいかわからん。

 

 そして、リョウは泣けないと言っていた。

 目が暗く沈んでいた。

 

 部屋に連れて行き、椅子に座らせると自分から話し始めた。

 捨てられないようにするためか、味方が欲しかったのか。

 つたない言葉で自分の状況を話した。

 

「僕たちは旅をしている。鶴見とそっちの髭面が和狸だよ」

「ツルミ? ワタヌキ?」

「馴染みのない名前だろうね。遠くから来たんだ」

「お坊さんでいいんですよね?」

「まあ、その辺はおいおい説明する」


 そういえばこの辺の人の名前を聞いていなかったな。

 店主としか言ってない気がする。

 

「リョウ、お前はいくつだ?」

「11です」

「両親は何をしていたんだ?」

「父さんは猟師をしていました。母さんはウチにいました」


 猟師か。ふむ。

 食事に肉が少ないのは猟師の数が少ないからか?

 

「お前は何をしていた?」

「普段は母さんの手伝いを。水汲みや洗濯です。来年から父さんの手伝いをする筈でした」

「12から働くのか?」

「はい、ここいらでは皆12までは家の手伝いをします。農家の家はもっと早いうちから働くみたいですが」


 江戸基準、それを基準にする必要はないんだが、12ではもう元服している年齢だろう。

 それは武士だけか?

 まあ、もっと小さい内から働いていたように思う。

 何か縛りでもあるのか?

 法か宗教か。

 

「リョウ。君には道案内を頼みたいんだ」

「はい、領主様の街だったら以前何度も行ったことがあるので大丈夫です」

「そうか。頼もしいね。あとは少し変なことを聞くかもしれない」

「変な事?」

「うん。僕らはここから遠いところから来た。なのでこちらの事情や常識がさっぱりわからないんだ」


 11歳と言えば小学校高学年だよな。

 ある程度の常識は知っているといいんだが。

 

「掟とか縛りはわかりません。働かないと教えてもらえないので。ただ、生きていくための法は母さんから聞かされています」


 掟? 縛り?

 職業によって独特のルールがあるのか?

 法を教わっているのは強みだな。

 子どもが知る程度でも俺たちには必要な知識だ。

 

「そう、その法がわからないんだよ。僕らの所は全く違う法律だったからね」

「法がわからないのに、違うってのはわかるんですか?」


 お、少年、するどいね。


「そうだね。お金の価値も生活のルールも違うんだ。ここに来るまでにだいぶ混乱してきた」

「大変だったんですね」

「なので、道案内だけじゃなく、そういった常識を教えて欲しい。無論わからないことはわからないままでいいよ」

「はい。わかりました。父さんからも知らないのに知ってるフリをするのは愚か者の行いだと言われてましたから。大丈夫です」


 親の考えなのか、宗教なのか。

 うーん、その辺の倫理観が見えてこないな。

 

「まあ、焦らずゆっくりいこう」

「あの……」

「何だ? 子どもが遠慮するもんじゃないぞ」

「ボクはいつまで雇ってもらえますか?」


 そこは大問題だよな。

 お前にとっても、俺たちにとっても。

 知らない土地で金もなく放り出されたら困るよな。

 

「君はどうしたいんだい?」

「ボクは出来るなら勉強がしたいです。できれば父さんのような猟師になりたい。でも弟子入りしないとなれません」

「生憎、私たちでは猟師の仕事を教えられないからね」

「なので、できれば弟子入りできるお金を稼げるまで、一緒にいさせてくれませんか? なるべく早くします」


 なんなんだこいつは。

 大人の邪魔にならないよう気を使い過ぎてるぞ。

 もっと子どもは素直に甘えていいんだ。

 

「弟子入りにはいくら金が必要なんだ?」

「人にもよりますし、道具も必要ですのでいくらとは言えないと思うんですけど、金貨十枚ぐらいが相場だと思います」


 金貨十枚?

 百万ってことか?

 そんなにするのか?

 

「それは大変な金額だね。今はそんなに払えるかどうか約束できないな」

「そうですよね……」

「だが、猟師になれるよう手伝いはしよう。どうだいとりあえず一年、一緒についてくるってのは」


 ハゲ貴公子、そんな約束して大丈夫か?

 俺たちでさえこれからどうするか決めてないのに、人の人生に口出ししている暇なんてあるのか?

 

「いいんですか? そしたら12歳の誕生日ぐらいには目途がたちますし、大人として違う仕事をしてもいいですし。ボクは助かります」

「じゃあ、決まりだ。これからよろしくな、リョウ」


 俺に断りもなく。

 まあ、反対はしないがな。

 

 だが金をなんとかしなきゃあな。

 ここに居るだけで一日120Dかかる。

 早く出た方が良いが、馬車の空きも調べなきゃならん。

 

 昭和屋を使いたいところだがなあ。

 リョウがいる限りは見せたくはない。

 

「司祭さん、どうする? 金を工面しなきゃならんぞ」

「そうだね。だが、その前にリョウの衣類を買い戻したい」

「金はある。余裕はない。アレをつかわなきゃならんぞ?」

「そうか。でも今回はちょっと僕にやらせて」


 こいつが金を稼ぐとするなら、スマイルか祝福か。

 

「どっちだ?」

「祝福を求めているならそちらにしようよ。修行の身でもある程度はできそうだ」

「そうなのか? まあ、ここにまた来るかどうかはわからん。俺は構わんが、リョウが戻りたいというかも知れんぞ?」

「リョウ、この街に思い入れはあるかい?」


 二人でリョウを見る。

 

「父さんと母さんのお墓があるけど、もう二人はいないから。それに死んだら天国に行くんですよね?」

「そうだね。悪い行いをしていない人たちは皆天国だ。だから二人とも天国にいる」

「なら、別にここに帰ってこなくても構いません。猟師にさえなれればどこでも」


 そういう宗教観なのかねえ。


「今日はリョウの服を買い戻すか新たに買おう。ついでに何件か祝福してまわる」

「できれば馬車の予定も確認したいな」

「そうだね。叶うなら早めに出たい。この街にもう用はない。リョウもそれでいいかい?」

「ボクは二人についていきます」


 健気だねえ。

 まあ、祝福がどれくらいの価値があるか。

 それで旅の資金も決まるんだ。

 急いでもいいことはない。


「では、宿屋のご主人に聞いてから出るとしよう」

「おう」



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