第十話 小金持ち
「良い商売だったね」
「そうか? こんな小銭じゃあ何もできんぞ?」
結局大箱一つ50Dで買ってくれた。
二十箱あったので、それだけで1000D、つまり十万円ぐらいだ。
「十万円あれば、しばらく宿屋に泊まれるだろう?」
「宿屋には泊まれるが、一生この町で暮らすのか?」
「いや、それは勘弁願いたい」
「だろ? ここが悪いとは言わんが、色々足りなすぎる。あと設定がうざくなるのも面倒だ」
ヌタさんの言わんとしていることはわかる。
設定以前に、僕たちはこの世界のことを何も知らない。
できればこの世界に詳しい人を雇いたいところだが。
「まずは、今日一日回ってみよう。その上で暫定の目標を決めりゃあいい」
「ガイドが欲しくないかい?」
「いれば助かるが、信頼できるやつなんてすぐには見つからんだろう?」
「金物屋か宿屋のご主人に相談してみようかね」
まあ、宿屋のご主人の方が色々と顔が広そうだ。
「そうだな。あとは定番のギルドとかその辺も調べたいが、あまりうろうろするのもよくないな」
「ギルド? なんだいそれ?」
「その辺は、宿に帰ってから話す。お前はスマイルしまくってくれ。というか祝福の正体を知りたい」
「だから僕にもわからない。ただ、加護ってのがどの程度効果があるのか。まじない程度なのか、本当に効力があるのかってのがヒントなんじゃないかな」
貴公子や変態なんてのがあるんだ。
おそらく経験を積むことが大事なような気がするんだよね。
* * *
一通り回ってみた。
まあそんなに収穫はなかった。
あまりしつこく聞くのも警戒されてしまうからな。
昨日泊まった宿に戻り、今日も泊まることにした。
「さて、お前の感想を教えてくれ」
「僕の感想というよりは、認識の齟齬がないか確認しようよ」
「それでもいいぞ? 何からいく?」
「とりあえず一通り話す。違うと思ったら突っ込んでよ」
なるほど、その方が手っ取り早いか。
「わかった」
「じゃあ、まずここは日本じゃない。そして多分地球でもないんじゃないかな」
「そうだな。続けろ」
「技術、生活、文明のレベルっていうのかな? かなり低いね」
「どの程度だと思う?」
「うーん、歴史はわからない。でもガラスもない。大量生産のものも見当たらない。当然食料も計画的に作られたものじゃないような気がする」
俺も歴史は知らん。
だが、食料は何とも言えんなあ。
地域差もあるだろう。
領主なのか王なのか、はたまた豪族なのかはわからんが、税をどうやって集めているかにもよる。
「ふむ。で?」
「一方で通貨は流通している。ということはある程度まとまった国なり、制度があるんだと思う」
「そうだな。言われてみればその通りだ」
硬貨を見る限り、ある程度安価な金属が混ぜられているように見える。
強度を上げる口実なのかも知れんが、節約してるんだろうな。
「江戸初期以降、文明開化未満って感じか?」
「いや、もっと前じゃないかな。この集落だけじゃ判断できないよ」
「それもそうだな。地方なんていつでも後回しだろうからな」
「情報のスピードもあると思う。やっぱり現地人を雇いたいね」
確かに。
だが、どこまで信頼するか。
というか、どこで「切る」かを考えなけりゃあならん。
通じるかなピカ王子に。
「今後を考えればそれが一番早いだろうな。だがお前わかって言ってるのか?」
「どういう意味?」
「俺たちの秘密を知られたら面倒なことになるぞ?」
「面倒? そうかな?」
気づいてないか。
仕方ない。
「お前のスマイルの使い道はわからんが、俺は昭和屋がある。無理やり物を吐き出させる装置にはなりたくないね」
「ああ、なるほど。確かにそうだね。僕だってスマイルが進化する可能性があることを思うと危ないのかな?」
「どうだろうな。だが祝福ってのが気になる。現地人の加護があるんだ。祝福はさらに強いんじゃないか?」
やっぱり二人で話しても結論が出ないな。
「ならガイドは必須だよ。情報の質よりも一般的なことさえわかれば後は少しずつ調べればいいでしょ?」
「最初から詳しいに越したことはないが、お前に考えがあるのか?」
「まずガイドを雇えるか、そこから確認しようよ。その上で選べる範囲で相談しよう。アイデアはある」
「そうだな。出来ればギルドがあればと思ったんだが、ここだけなのか、それとも元々ないのかわからなかったからな」
今日の聞き込みではギルドの存在も掴めなかった。
「宿のご主人に相談しよう」
「わかった。もう夕食も終わって片付けてるだろうから今行くか」
「うん、明日からの予定も決められるからね」
部屋を出て、店主のいる食堂へ向かう。
「いかがされましたか?」
「店主、少し話を聞きたいが、今忙しいだろうか?」
「いえ、洗い物も終わり、明日の仕込みも火を見るだけですから大丈夫ですよ」
丁度よい時間だったようだ。
「ここから旅を続けていくにあたり、人を雇いたいと思ってな」
「案内人ですか? 荷物持ち? 人数とか日数は決まってますかい?」
「地図も失くしてしまったので、旅程も決められん。予定では一年ほどかけて国許へ戻る手筈だったのだがな」
「では随分な長い旅になりますね」
無理やり話をこじつけた。
一年が通じてよかった。
「ただ、金の問題もある。とりあえず大きな街へ行けば何とかなるんだが、ここからどれくらいかかるのかがわからん」
「そうですね。街の規模にもよりますよ。交易の街ならここから徒歩で一週間ぐらい、領主の住む街はそこからさらに一週間ぐらいですね。馬車ならもっと早く着けます」
金か。それとも野宿か。
「修行の身ですからね。徒歩の方がよいのですが、お金がないと色々と不便ですし、皆さんにご迷惑をおかけすることも多いですからね」
「難しいところですね。装備も人数によっては元手がかかるので、馬車で一気に行っちまった方が良いかも知れないですね」
「まずは案内人一人いれば十分です。ですので三人で領主の街まで行くのに馬車の代金はいくらぐらいです?」
そこが重要だな。
手持ちが足りなきゃ昭和屋を活かさなきゃならん。
だが、今はあまり情報も商品もバラまきたくない。
「乗り合いでしたら、一人200ですかね。三人なら600。ただし飯は用意する必要があります。大体三、四日分は必要です」
「ふむ、そうなると金貨で足りるかどうかですね」
「贅沢言わなきゃ足りるでしょう。あとは従者さんが夜の見張りに立つと言えば多少は割引されると思いますよ」
「ヌタ、出来るかい?」
「はい、勿論です」
ちきしょう。俺は損な役回りかい。
「あとは案内人ですね。それなら口入屋に声をかけてみてくださいな」
「口入屋?」
いよいよ江戸っぽくなってきたな。




