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あぁ……我が先祖よ  作者: かましょー
上巻 〜血の呼び声〜
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第8話 『 変心 』

武尊は城の前までやって来た。


気づけば青年を追い越し、闘志に満ちた町人たちの先頭を切って歩いていた。


城門の前には、合いの子族の群れが静かに広がっている。異様な気配。だが、敵意とは違う――どこか抑えられた熱のようなものが、その場を満たしていた。




「こいつらは……鬼ではないというのか……」


武尊が低く呟いた、その時だった。




――バサッ。




重い羽音が、空気を震わせた。




「何かが来ます!」


隣の青年が空を指差す。その先――巨大な鳥。その脚に掴まる、一人の影。


やがて地へ降り立ったのは、異様な肌を持つ女だった。


武尊の手が、無意識に刀の柄へとかかる。


「な、なんだ……!」


土煙と共に着地した女――キビが、ゆっくりと顔を上げた。




「名はキビ。今から我と戦え」




静かな声だった。




「貴様も戦士だったな? 鬼と戦えるか試させてもらう」




「なんだと?」




「あの上の奴らに、人間の無力さを再度知らしめてやる」




「上の……?」




武尊はふと顔を上げた。キビの飛来してきた方向――天守閣の廻縁まわりえん


そこには、大名桃藤政健の姿。そしてあの赤鬼と青鬼の姿があった。


どういう訳か桃藤様と奴らが共にいる。


武尊は周りを囲む異形の人間達を見回した。




「真の鬼……そうか」




そしてゆっくりとキビに視点を合わせた。




「……有難い」




「有難いだと?」


キビの眉がわずかに動いた。


「あの戦いでおかしくなったか。どこまで人間は弱いんだ」


その嘲りにも、武尊は揺れなかった。


「俺は……鬼と戦うよりも、お前達と戦いたいからだ」


キビの目が細くなる。


「仲間がやられた。仇が討てる」




逃げ場はない。逃げる気もない。


――あの時とは違う。


虚ろだった目は、もうどこにもなかった。




「ははは!」


キビが笑った。


「あの戦いを見ても、そんな事が言えるのか」


刀に手をかける。


「いいだろう。来い」


鈍い音と共に、キビの歪な刀が抜かれる。


武尊もまた、自身の刀を構えた。




あの時、自分は死んでいた。死ぬべきだった。


だが――今は違う。


連真や仲間たちの命と共に、ここに立っている。


ならば。




今度こそ、最後まで戦える。




その思いが、奇妙なほど心を満たしていた。


わずかに浮かぶ武尊の笑みを見たキビの表情が、わずかに変わる。




「――斬るっ!!」


武尊が地を蹴った。




〝キンッ!!〟




火花を散らし、刃と刃が激しくぶつかり合う。その音に、周囲の町人や合いの子族の者たちが自然と円を描くように集まっていく。




武尊の剣は荒い。だが、迷いがない。


死を恐れぬ斬撃。


それを受けながら、キビの目に驚きが宿る。




「……さっきの男か?」


低く呟く。


武尊の剣には、“死を越えた者”の気配があった。


だが――


技量では、キビが上だった。


徐々に押し込まれる。刃がかすり、血が滲む。




「ッ……!」




弾かれた。




武尊の刀が宙を舞っている間、今度は短刀を抜き、キビに向かって行く。


激しく、何度も迫ってくる武尊の刃をなんとか交わしていくキビ。


武尊の殺気を帯びた剛力にキビは動揺しつつも、冷静に隙を狙い武尊を蹴り飛ばした。




地面に叩きつけられ、砂を掻く。


それでも――


「う……うう……!」


立ち上がろうとする。




すると目の前に 数人の影が割って入った。


「助太刀するぞ!」


「これ以上やってみろ! 俺たちが許さねえ!」


包丁、木刀、鍬。武器とも呼べぬものを握った町人たちが、武尊の前に立つ。


さらには、キビの背後にあの青年が刀を構えていた。




「……」


キビは無言でそれを見つめる。


その瞳に浮かんだのは――


驚きだった。


力では劣る。それでも、この闘志。


その事実に、わずかな揺らぎが生まれる。






その瞬間―― 




「辞めだ」




低く響いた声。


桃藤だった。


天守から降りてきた桃藤と、赤鬼、青鬼が戦いの場へ歩み寄る。


「もうよいではないか、キビ殿」


静かに刀を収めたキビは、チラッと桃藤に視線を向けた。


「……まぁ、少しは使えるかもな」


と吐き捨て、その場を離れた。




桃藤は武尊の前に立つ。


「お主、名は何と申す」


「……武尊と申します」


「そうか」


静かに頷く。


「武尊よ。お主は貴重な戦力だ。これからは――生きるために戦え」




その言葉が、胸を打つ。




「……」




俺は――


何のために戦っていたのか。


“生きるために戦う”


それは――死んだ者のための戦い方。


死ぬための戦いではない。


武尊は静かに目を伏せた。




桃藤は、青年へと視線を向けた。


「そなたは」


「は、隼人(はやと)と申します!」


慌てて頭を下げる。


桃藤は小さく笑みを浮かべた。


そして周囲を見渡し――声を張る。




「我らは、もはや臆病者ではない!」


その声に、空気が変わる。


「先祖が遺した血が、我らを戦士に変える!」


人と合いの子、双方を見据える。


「共にこの地を守り抜こう!」


“おおおおっ!!”と歓声が上がる。


「鬼はいつ来る!?」


群衆の中から誰かが叫ぶ。




桃藤が視線を赤鬼へ向けた。


「恐らく、三日ほどだ」


「……三日か」




桃藤の表情が引き締まる。


「隼人よ」


「は!」


「大和へ向かってくれるか?」


「や、大和へ……!?」


ざわめきが走る。


不倶戴天(ふぐたいてん)の敵であろうと関係ない。この事態を広めねばならぬ」


隼人は迷う。


「し、しかし、あそこへ行って戻るには三日では……」


桃藤は何も言わず、何かを見据えたような眼差しで隼人を見つめた。


隼人はそれを感じ取り、返事をするしかなかった。


「し、承知!」


武尊が片膝を付いた。


「し、しかし桃藤様、このような事態を大和が信じるかどうか…!」


桃藤もそれは感じていた。このような常識を外れた出来事をすんなりと受け入れる方が難しいと。


そこへ、一人の合いの子が進み出る。


「私も行く」


青みがかった肌の少年。


「ほう…、名はなんと?」


「……ナギ」


「ナギよ。その勇断、ありがたく思うぞ」


隼人はナギへ手を差し伸べた。


「隼人だ。ナギ殿、感謝する。共に参ろう」


二人は馬小屋へ急いだ。




桃藤は再び群衆へ向き直る。


「三日――ここで備えるぞ!」


 その言葉に人々が、合いの子族達が互いを奮い立たせるのであった。




その後方で一人、海の方角へ佇む武尊の姿があった。




「……」


その顔つきは砂浜で怯えていた時とは比較にならないほど凛々しく、毅然としたものに変わっていた。

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