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あぁ……我が先祖よ  作者: かましょー
中巻 〜運命の刻〜
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第24話 『漆黒の鬼』

「ぐはっ」


倒れていた桃藤が血を噴く。


「桃藤様!?」

武尊が駆け寄る。

桃藤は刀が刺さりながらも意識を取り戻していた。


巴はキビの足に突き刺さった刀を抜き取りながら冷静に口を開く。

「今すぐここから出るぞ。まだ黒鬼への秘策は終わっていない」

桃藤以外の連中が巴に視線を向ける。

「南條が息絶える前に妾わらわに明かした。黒鬼を蹴落とした後に、確然たる終止符の為に城に火を放つと」


それを聞いたキビが桃藤に睨みを利かせる。

「桃藤!我らも道連れにする気だったか!」


桃藤は血を垂らしながら痛々しげに口を開く。

「そうは企んでおらん…、しかし…諸々の命と引き換えに、鬼との終焉を迎えるのであるならばと…、拙が身をも辞せずとも…」


「勝手なことを!」

憤るキビの後方ではゴウキが陰英をかかえあげる。


「とにかく今は城を出るのが先決だ」

そのゴウキの言葉に皆動き始めた。


「桃藤様…」と桃藤の肩に手をやる武尊。

「放っておけ!」と怒鳴るキビ。武尊の表情には戸惑いが滲み出ていた。



 黒鬼が落下した城下では、鉄蔵ら合の子族達が突き刺さった黒鬼を城内の初重へ押し込んでいた。

突き刺さった三人には油がかけられる。


その時、一人の合の子が叫んだ。

「はっ!うあああ」


黒鬼の指が動くのが見えたのだ。

その声で一斉に城の外へ出ていく合の子達。

「な、何をしている!早く放て!」


扉の外では、火矢を握った絆岳が立っていた。


「まだだ……!」と声を張ったのは鉄蔵だった。

鉄蔵は可能な限り桃藤を待った。

桃藤からは天守から姿を現さなくても城を燃やせと下知が下っていた。しかし自分の合図で桃藤の死が、そして城の焦土が決する事の重圧感に鉄蔵は押し潰されそうであった。

「まだだ…まだ…」


〝ピクピクッ〟と今度は黒鬼の腕が動き始めた。黒鬼は…死んでいない。


扉を閉めようと構えている合の子達が怯え始める。

「鉄蔵よ!も、もう待てんぞ!」


「くっ、やむを得ぬ。絆岳よ!火矢を放て!そして扉を閉めるのだ!」


悲壮な決意がにじむ表情で弓を構える絆岳であったが、その視界に赤い影が見えた。

「待て!見えた!」

弓矢を下ろす絆岳。


階段から降りてきたのは陰影を抱えたゴウキの姿。


「おお!来たか!早くこちらへ!」

鉄蔵が手を挙げ駆けつける。

続いてキビを支える巴の姿。

「も、桃藤様は…」

そして最後に姿を現したのは桃藤を背負う武尊であった。

「桃藤様!」

「まだ生きておられる、金槍医きんそういの元へ」


降りてきた武尊達の傷だらけの姿。想像を絶する死闘が繰り広げられていた事は誰の目にも明らかであった。

大きな棘に突き刺さったソウガ、カカを横に、を沈痛な面持ちで初重を出る一同。


「扉を閉めるぞ!絆岳よ、放て!」

再び火矢で狙いを定める絆岳康乃。

「くたばれ……鬼よ」

〝ピュンッ〟と放たれた火矢は見事に閉まりそうな扉の間を通り抜け、油が撒かれた串刺しの黒鬼に刺さった。

瞬く間に炎に包まれる初重。それはあっという間に城の二重目に燃え移っていく。


「離れるぞ!」

鉄蔵の声で全員が大手門の外へ避難していく。


農夫の源次が顔を上げた。

「し、城が…燃えている…」

武士や合の子族の為に、必死に松明を焚き続けた源氏は眞栄田の背後で膝を付いていた。

「吉備津城が…なんという事だ。鬼に降ったか!?」

眞栄田や生き残っている武士らの前には2体の鬼。同じく焼ける吉備津城を見る鬼達は何かを感じたのか、どこか動揺した表情が窺える。

眞栄田はその鬼の様子に違和感を感じ、この城の炎上は決して由々しき事態ではないと察した。



〝ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ〟



城内から恐ろしい唸り声が聞こえてくる。

「な、なんてやつだ…ここまでとは」

後退りする鉄蔵。そして、収めた刀の鍔に指を置く武尊。

〝燃えろ…〟〝燃えちまえ!〟〝ついに死ぬぞ!〟と、周りから段々と声が上がる中、ゴウキが閉じた大手門を睨みつけた。


「違うぞ…」

その言葉を聞いた武尊も同じ事を感じていた。この黒鬼の唸り声は、また動き出す声だ……。


その時だ。

〝バンッ!〟という爆音と共に燃え上がる黒鬼が大手門を突き破り突進してきたのだ。


「なに!?」


〝ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〟


燃えた黒鬼が合の子らを薙ぎ倒し、武尊の方へ向かってくる。


「避けろ!」

キビの声に反応し黒鬼をなんとか避ける一同。

燃え盛る黒鬼はそのまま城下町の方へと走っていく。


「まさか、海の方へ!?」


キビが追いかけようとするも足が痛み動けずにいる。

「そのまま逃げるかもしれぬぞ!くそ!」

自分の足を掴むキビの横で、武尊が辺りを見回す。2頭の馬が見えた。

「逃してはダメだ!」

咄嗟に出た言葉と共に馬に飛び乗り、駆けだす武尊。


「やめろ!一人は危険だ!」と、ゴウキが武尊を止めようとするも、負傷した胸傷がうずく。

「ぐっ…!」


巴が無言で馬の元へ向かった。


「……」


この行為が危険だと感じながらも馬に跨り、黒鬼と武尊の後を追いかける。


〝何かくるぞ!〟

眞栄田が刀を構えると、2体の鬼は逃げるように海の方へ向かい始める。


すると低い唸り声と共に火だるまの黒鬼が走ってきた。

「な!?全員引け!」

間に合わず黒鬼とぶつかり、火が移る武士もいるなか、なんとか避ける眞栄田。


「あ、あれが黒鬼か!?」


そして後方からは馬の足音。

馬に乗った武尊が通り過ぎていった。

「武尊!」

武尊は黒鬼から目を離さず、馬を走らせる。



「逃すものか…!今逃したら、ここまでの戦は無駄になってしまう!」



数多の屍の上を走り去っていきながら黒鬼との距離を徐々に近づけていく。

その後方で馬を走らす巴。


気づけば裏門で生き残っていた鬼も数体こちらへ逃げるように向かってきていた。

「黒鬼なしでは何も出来ぬか、臆病者め」

巴はタイミングを見計らい、瞬時に弓矢を放っていく。


 やがて、海の匂いが強くなり、浜辺が見えてきた。まだ体に火が残っている黒鬼はそのまま砂浜へ転がり込む。残りの鬼達は自分たちが乗ってきた船へと向かっていく。


「はぁ…、はぁ…」

体の火が消え、黒い巨体に煤が被り、漆黒となった姿の黒鬼。だいぶ弱った足取りで船へと向かう。



「待てえええええ!」



馬に乗った武尊が刀を抜き、まるで鬼のような形相で迫っていく。


「ふうううううう……」

黒鬼は自分の手の爪がほぼ欠けているのを見て鬼の一体の腕を掴んだ。


「借りるぞ」

「!?」

〝ブチッ〟とその鬼の手首を引き裂き、武尊へと投げつけた。

その鬼の爪が馬の首を切りつけ、武尊の頭を掠めた。

「うっ!」


馬はその場で転がり、武尊も放り投げ出された。

倒れ込んだ武尊は、その衝撃で視界がぼやけ始める。

その中に頭上を通り越える馬の影、巴弓矢が見えた。


馬から身を投げ出し、最後の矢を放つ。




「当たれ……!」




黒鬼は分かっていた。武尊の後方から狙い撃ちする巴の存在を。

その矢は、先ほど手首が取れた鬼が盾とされ、その頭部に突き刺ささった。

黒鬼の手前に転がり込んだ巴。

もう武器は持ち合わせていない。


黒鬼が巴に追い被さる。

武尊は脳震盪を起こし、徐々に視界を失っていった。

「や、やめろ…」

武尊は這いずりながら手を伸ばす。

走馬灯だろうか。

浜辺での死闘。仲間達が倒れていき、連真の首が飛ぶ陰が脳裏に、いや、目の前で起きているかのように浮かんできた。


「や、やめてくれ……」

武尊は倒れたまま、徐々に閉じていく目を一生懸命開けようとしている。


黒鬼は巴に顔を近づける。

「ここまでか……」

覚悟する巴の首に手をやった黒鬼だが、背中の弓に目をやる黒鬼。

「貴様のその顔、その奇妙な武器と共に生きてきたのだろう……。ふふふ。ならば、生きて地獄を味わうがいい」


黒鬼は、すっと巴の右腕に手をやった。


ボヤけた視界の中で、巴の叫び声が響き、そのまま完全に意識を失う武尊であった。

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