第21話 『散華と連撃 』
上空ではキビが巨鳥の相方、キギスにつかまれ、天守閣を目指していた。
霧が微かに視界をぼやかす。
〝ガッ!ガッ!ガッ!〟と大きな音が城の壁の方から聞こえてきた。
「あれは…!」
その音と共に見えてくる黒い影。
「黒鬼!壁を登っている!やはりそうか!」
更にその黒鬼の背中にひとつの影が。
「カ…カカ!」
キビの目が怒りと裏切りの炎に包まれる。
すると突然──霧の奥から、尖った木の枝が飛んできた。
「よけろ!」
〝ビュンッ〟
僅かに避ける事が出来たが、続けて石も飛んでくる。キビが横を見ると、一体の鬼が城の屋根からこちらをニヤつきながら見ていた。
「くそ!」
キビは爪から離れ、キギスの背中に飛び移ろうとするが、飛んできた石を避ける動きで乱れ、キビの体が空中に投げ出される。それと同時に向かってくる鋭い木の枝先。
それがキギスの体に突き刺ささった。
「!!」
キギスは苦しみながらキビを追いかけようとするが、方向感覚を失い、羽を散らせながら落ちてく。
キビは屋根に転がり落ち、刀を瓦に突き立てて滑り止めた。
“ギィ……”
最後の弱々しい鳴き声が、霧の中に溶けていく。
「キギス!」
彼女の声は震え、初めての喪失感が胸を刺す。
キビは鬼を睨むが黒鬼も目の前。
今、将軍の桃藤がやられると人間達は混乱し戦力が低下する。合いの子族との連携も機能しなくなってしまうだろう。その事を考えると天守閣へ急ぐのが最重要であった。
走り出すキビ。
「逃さんぞ!人間になった雌が!」
キビよりも鬼のスピードが勝り二人の距離が縮まっていく。
鬼が腕を振りかざし、キビは身を翻してかわす。しかし瓦の足場が崩れて体が傾いてしまう。
「そこだ!」
声が聞こえた。
武尊の声だ。
縦格子窓から正兵衛の縄鏢が鬼の首に絡みつき、陰栄の薙刀が鬼の肩に突き刺さる。
「引け!」
武尊の声で鬼が格子窓の方に引かれて叩きつけられる。
「ぐぐぅぅ、小賢しいゴミどもぉ…」
「キビ!上へ向かえ!」
キビは直ぐに上を向き、立ち上がって屋根を伝っていった。
「ぐおおおおお!」
鬼はその力で格子窓を折り、中へ転がり込んでくる。
瞬時に三人は陣形を組み、鬼を囲む。
「ゴミに手を焼く気分はどうだ?」
その正兵衛の言葉に怒り狂う鬼。まさにそれが狙いだった。鬼の隙を見計らい、同時に飛び出す三人。
爪が振り下ろされるが、武尊は低く身を沈めてかわし、短刀で膝を斬る。鬼がよろめいた隙に、陰栄の薙刀が首を狙う。
刃が皮膚を裂き、黒い血が噴き出す。そその血飛沫の中央から、正兵衛の短刀が鬼の喉仏を刺す。
鬼の巨体がゆっくりと傾ぎ、力尽きて倒れた。黒い血が屋根を染め、三人は息を荒げながら互いに視線を交わすのであった。
「鬼どもも、そろそろ本気で怖がってもらわねぇとな……」
余裕の表情が見えてきた正兵衛に冷静に声をかける陰栄。
「戒心していけ、正兵衛よ」
「あんたは祈って応援でもしといてくれ」
二人の掛け合いを斬るように、武尊が刀を収める。
「喋っている暇はないぞ、もう少しだ」
三人は視線を天守閣へ向けた。
外廻縁から、重い足音が響いていた。
黒鬼の巨体が、ゆっくりと廻縁を進み、
その後ろには、カカの小さな影が揺れている。
黒鬼は無言で天守閣の障子に手をかける。
カカは一瞬、躊躇うように立ち止まるが、黒鬼の存在に惹きつけられ、共に中へ入る。
天守閣の間では、桃藤がミイラ化した鬼の手首を握り、静かに立っていた。
“サァーー……”と、
障子が開けられ窓の外から、重い足音が中へと伝わる。
桃藤はゆっくりと振り返り、静かに口を開く。
「来たか……」




