第16話 『罠の牙』
いくつもの鏑矢が血の匂いが混じった夜霧を貫いていく。
「構えろ!」
武尊の声で抜刀する武士ら、合いの子族の戦士達。
「早く来い…切り刻んでやる」
そう呟いたのは、桃藤の藩により没落した武家の男、眞栄田利家だった。浪人となり手配書にも回された眞栄田だが、鬼との決戦に加わる事を条件に身分回復が出された為、この戦さに参戦する事となった。
「油断するな、眞栄田。今まで斬って来たモノとは全く異なるぞ」
「化け物だろう?その分思う存分斬れる。こんな楽しい事があるか?」
他の者とはまた違う、眞栄田の殺気立った顔つきを見て、恐ろしくも、また頼もしくも思う武尊であった。
「何か来る!」と構える二人。
霧を掻き分け姿を現したのは弓隊の与一だった。
「鬼が来ますぞ!ご準備を!」
城前に仕掛けた多くの落とし穴を避け、武尊達を通り越して城へ向かう与一と数人の弓隊達。
「他の者は!?まさか巴が!」
その時、前方から姿を現したのは絆岳、そして巴と数騎の弓隊だった。
「生きていたか!」
巴が馬を走らせながら武尊に告げる。
「半数以上が鬼に絶たれた!覚悟しろ!」
「くそ!」
「我は城の裏手へ加勢する!絆岳はここへ残れ!」
巴はそう言い残し、城の方へ向かって行った。絆岳は武尊の後方へ周り、鬼の襲撃を待ち受ける。
その直後、それは残酷な光景と共に訪れた。
鈍い色をした鬼達が凄まじい形相でまるで見せつけるかのように弓隊の骸を抱えて走って来る。
先頭の鬼が町に響くような声を上げた。
「ついに刃向かったか合いの子!無力な人間共と何ができる!愚か者どもが!」
恐ろしい鬼の姿に圧倒されつつも構える武尊ら町人達。
「怯むな!構えるんだ!」
武尊の鼓舞で皆の武器を握る手に力が入る。
「来い、そのままだ、そのまま……」
武尊がゆっくりと数歩前に出る。
鬼達が担いでいた弓隊の骸を投げ捨て速度を増して迫って来た。
頼む……ここで罠に落ちなければ、勝ち目は遠のく…
武尊の刀を握る手に汗が滲む。
その時、鬼の集団が一斉に地面へ姿を消した。
「落ちた!」
鈍い声を上げ、落とし穴にある鋭い竹槍へと突き刺さる鬼達。穴の底の咆哮が段々と地上へ上がって来る。安堵する間もなく、急所を免れた一部の鬼は、体に突き刺さった竹槍と共に不気味な笑みで這い上がって来る。
刀を構えている眞栄田が前進する。
「まだだ!」
「ぐっ」
武尊の声にぐっと堪え、息荒く待ち構える。
鬼達が這い上がって来たのを見計らい、武尊が民家の屋根上に構えている町人らへ目をやった。
「捉え!!」
屋根上から漁師らが、まるで魚を捕るように鉄網を飛ばした。魚網で鍛えられたその投網は、見事なほど綺麗な縁を描き、鉄網が鬼達を捕える。
「今だ!いけええ!」
その武尊の号令で一斉に武士ら、合いの子族の戦士らが鬼達へ攻め込んだ。
血眼になり、先頭に出た眞栄田。その握った刀の先が鬼の胸へと突き刺さる。
「ぐううううう」と鈍く唸る鬼。
「うああああああ!」と、直後に武尊達も刀を鬼達へ突き刺していく。しかし鬼の皮膚は想像以上に硬かった。力強く突き刺しても、刀は僅か2寸程しか入らなかった。
日本刀が入っていかない。
武尊は一瞬戸惑いを見せたが、隣で鬼に負けないほど殺気立っている眞栄田の姿を見て正気に戻った。
「首から上を狙え!」
見事に罠にハマった鬼らに少し焦りが見えたように感じたが、それも束の間だった。後方からやって来た次陣の鬼達がやってくる。
「武尊よ!来るぞ!」
「眞栄田!ここを頼む!」
武尊は罠の手前に向かい次の鬼達の前に立ちはだかった。
「鬼共め!そうだ!そのまま真っ直ぐ来い!」
一か八かの嗾けだった。
罠にかかった鬼達を敢えて見せるように立ち、叫んだ武尊。息を呑み足元に力が入る。
走って来る鬼達はその光景を見て、隣接する町家を乗り越えて左右へ別れていった。
「よし!散ったぞ!」
鬼の軍が薄れた。
右にはキビ陣、左にはソウガが率いる合いの子族戦士が待ち構えている。
南條の見事な戦略の流れに感服すると共に号令をかける武尊。
「絆岳よ!今だ!」
屋根上に移動していた絆岳の弓部隊が、数が薄くなった鬼達へ矢を降らす。
穴の底で鬼が咆哮を上げ、爪を振り回すが、網がその動きを封じる。武尊が合図を出し、侍たちが一斉に刀で斬りにいく。
合いの子族が力強く槍を突き立て、町人たちが震える手で鍬や包丁を振り上げた。
最初の鬼が穴から這い上がり、武尊に向かって爪を振り下ろしてきたが、その瞬間、眞栄田が素早く横に飛び込み、刀で鬼の腕を切り裂いた。「左側だ、武尊!」眞栄田の声に武尊が応じ、短刀を鬼の脇腹に突き立てる。見事にも二人の息が合い、鬼の黒ずんだ血が地面を滲ませた。




