第13話 『不測の報』
夕日が吉備津城を桃色に染め、灯られていく篝火の光が城下町を赤く染め始めていた。残された時間はあと1日。
真の鬼との決戦を前に、城内は緊張と活気に満ちていた。町人たちは鍬や包丁を手に訓練を続け、武士や力のある町人たちは鉄蔵の鍛冶場で強化された刀や槍を手に試し切りを繰り返す。合いの子族の主要戦士たちは、それぞれの持ち場で人間たちに戦術を指導し、動物たち——雉、猿、犬——は斥候として城周辺を巡回していた。
夕日が差し込む北の森で、巴の弓班とキビは最終確認を行っていた。雉が木々の間を激しく飛び回り始めた。
「なんだ?」と弓に手をやる巴。その時、キビのもとへ雉が鳴き声をあげて飛んでくる。降り立った雉を見つめながら、キビが会話をするように喋り始めた。
「……南の海に、鬼の船の影が見えたか。予定より早く来るぞ!恐らく…今夜。丑の刻か」
キビの言葉に、巴の目が細まった。
「鬼門の時刻か、考えたな。暗闇や就寝時を狙ったか。なら、急ぐぞ!城に戻り、桃藤様に報告だ!」キビらは雉に合図を送り、森を後にした。
天守閣に再び集まった一同、桃藤が地図を広げる。卓上のミイラ化した鬼の手首は、まるでこの戦いの重みを象徴するように置かれていた。
「カカ、偽情報の伝達は無事完了か?」
カカは一瞬目を伏せ、深呼吸してから答えた。「はい。黒鬼には、人間や合いの子らの準備が遅れており、問題なく正面から責められると伝達致しました」
ゴウキが腕を組み、口を開いた。
「黒鬼は単独で動くことを好むが、スピードと力は我々より上だ。一撃で武士数人を薙ぎ倒し、改造した矢でもその皮膚を貫くのは難しい。だが、奴は戦場を俯瞰する癖がある。こちらの動きを読み、即座に戦略を変える。その場合も動きも頭に入れておくんだ」
桃藤は地図に目を落とした後、武尊へ目を向けた。
「武尊よ、お主が武士として今この状況を一番理解しておる。罠手前で町人や戦士、この戦略を仕切れるか?」
武尊が力強く頷く。「承知しました。町人や豪族ら武士達も、昨日とは別人のように闘志を燃やしています。私が先頭に立ち、鬼を罠へ誘き寄せ、鬼の足を一瞬でも止めます」
キビが少し顔をしかめながら口を開いた。「人間の数には頼れるが、黒鬼の力は想像以上だ。もし奴が数に関係なく突撃してきたら……偽情報が効かなければ、どうする?」
それを聞いていたカカは、一瞬言葉に詰まりつつ、目を上げて答えた。「その時は、私が黒鬼を引きつけます。奴は私を信頼しているはず。直接対峙し、時間を稼ぎます。そこを皆で狙えば……それが、私の償いです」その声には、裏切りを悔いる強い決意が滲んでいた。
桃藤はカカをじっと見つめ、静かに頷いた。「よし、カカ。お前の覚悟、しかと受け止めた。だが、無駄に命を捨てるな。お前もまた、この戦いの鍵なのだ。……皆の者、準備は良いか?」
その後、予定より早くやって来る鬼との対戦に向け、各々準備をし、配置につくのだった。




