94話:有賀の父
「お前ら!なぜここが!」
秘書が動揺している。その隣にいたモヒカン男がにやりと笑った。
「そうか。ハウリングだな?」
ハウリングとは、マイクが拾った音がスピーカーから出て、それをマイクが再び拾うことで発生する現象である。嫌な音が流れるのが特徴だ。盗聴器の場合、その受信機が発する音を、盗聴器が拾うことで発生する。つまり、盗聴器と受信機の距離が近くなれば、ハウリングが発生しやすくなる。
「音楽を大音量にして流すことで、音を拾いやすくしたってわけか。やるな。SOCIOLOGIに欲しい人材だ。」
モヒカン男が善永を拍手していた。善永は辺りを見回す。
(理事長はいない!?いや、今はそんなことよりも、こいつらを倒すことに集中だ!)
秘書が善永を睨みつける。それを、モヒカン男が制した。
「まあ待て、トミナガ。ここは俺1人にやらせてくれよ。いや、正確には俺1人で十分かな?」
「マキ!そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!?私たちの位置を特定できるような…ぐはっ!」
秘書―トミナガ―が話している最中、有賀は無慈悲にも光のビームを発射した。それは、トミナガの腹部を容赦なく貫いた。善永が有賀の方を見る。
「有賀!」
「何か文句でも?こいつらは敵なんだろう?」
トミナガが倒れた横で、モヒカン頭のマキが大笑いしていた。
「はははは!いいねえ!君!」
善永がマキに尋ねた。
「仲間が目の前でやられたのに、あんたは笑えるんだな…」
「はは!ふふ!…まあね。こいつは年齢操る以外何もできないし、別にどうでもいい奴だよ。」
(ってことは、風船を操るのはこいつの方か!ならば、こいつが斎藤先生を!)
善永が恨めしそうにマキを見ていると、トミナガが発火し始めた。善永は哀れみの目で、マキはゴミを見るような目で、それを眺めていた。しかし、有賀だけは違った。突然頭を抱え始める。
「うあああ!なぜだ!?チャイコフスキーの曲が頭に流れてくる!なぜだ!うわああああああ!」
「どうした!有賀!しっかりしろ!」
善永が有賀に触れようとするが、有賀はそれを払いのけた。
「触るな!くそったれが!チャイコフスキーめ!流れるなぁ!」
マキが思い出したように口を開いた。
「そうか!有賀って名前、なんか聞いたことがあったんだよな!お前、幾太郎のガキか!」
「なぜ父の名前を知っている!」
マキがほくそ笑む。
「知ってるもなにも、同胞なんだよ。いい奴だったなぁ。最期は壮絶だったんだよなあ?」
「やめろおおおおお!」
有賀は頭を抱え続ける。なぜ、有賀はこうも苦しむのか。
それは、10年前の出来事にあった。当時8歳だった有賀は、父の書斎に入り込んでは、読書をしていた。読書をしていたところを、よく父の幾太郎に怒られていた。それでも、有賀は書斎にこもるのが好きだった。なぜなら…
「お父さん!これ、なんの曲?」
「チャイコフスキーの『眠れる森の美女』さ。いい曲だろう?チャイコフスキーは、聞きやすいものが多くてね。」
書斎で流れているチャイコフスキーの曲に、心底惹かれていたからだ。有賀は、幾太郎のことを心から尊敬しているし、その人が教えてくれたチャイコフスキーを敬愛した。
そんなある日、有賀はいつものように書斎に向かった。しかし書斎の前に来たとき、あまりの焦げ臭さに鼻をつまんだ。
書斎のドアを開けると…有賀は、火に包まれた幾太郎と、それによって燃えている本を目にした。書斎にはチャイコフスキーの『眠れる森の美女』が響き渡っていた。
善永の挑戦状:チャイコフスキーの三大バレエ曲とは、『白鳥の湖』、『眠れる森の美女』とあと一つは何?
前回の『善永の挑戦状』答え:アイザック・ウォルトン




