84話:世界に一つだけの兆能力
鈴木がにやにやしながら口を開いた。
「人間は、社会において何らかの『職業』に就き、それに応じた『役割』を期待される。例えば、ダンサーが見事な踊りを期待されるようにな。」
善永はタップダンスをしながら話を聞いている。鈴木は続けた。
「俺の兆能力は『職業』と『役割』を、任意の対象に、自由自在に押しつけることができる。ただし、同じ『職業』を複数の人間に押しつけることはできない。俺はこの兆能力を、『ユア・アイズ・オンリー』と呼んでいる。」
善永はバレエを踊りながら、驚いていた。
「はぁ…はぁ…そんな兆能力があるのか!」
善永は息が切れてきている。いつ疲れてもおかしくない。それを見て、鈴木が笑う。
「どうだい?しんどいだろう?だが、俺が兆能力を解除しない限り、君は死ぬまで踊り続ける。『死の舞踏』とは、このことを指すのかもしれないな。」
鈴木は、ダンスのキレが悪くなってきた善永を眺めている。一太がその善永に掴みかかろうとする。
「ダンスは楽しませていただいたよ。そろそろ、斎藤に殺してもらおうか。」
一太が善永の首に手を伸ばしていたとき、善永の蹴りが炸裂した。それは、一太の手に命中し、一太を後ずさりさせた。
「な、なぜだ!」
善永はにやけている。
「そうだよな。ダンサーには、見事な踊りが期待されるよな。逆に言えば、踊りだったら何やってもいいんだよな?だったら!カポエイラで攻撃されても文句言えないよなあ!?」
善永はカポエイラで一太に攻撃したのである。
「こいつ!さすが、門番を倒すだけあるな!」
「門番だと?」
「知らなくてもいい。どうせここでお前は死ぬ。」
一太が再び善永に掴みかかろうとした。しかし、善永は、アイビームで牽制することによって、それを阻止した。
(よし!今度は、ビジョン・シェアで斎藤さんの視界を封じてやる!)
善永がビジョン・シェアを発動しようとしたとき、鈴木が呟いた。
「…厄介だな。それ。川路善永。君は、F1レーサーだ。どこの所属がいい?俺はロニー・ピーターソンが好きでね。ロータスなんかどうかな?」
その瞬間、善永が目を開けた。善永のテレポートビジョンは、目をつむった状態でなければ発動することができない。
「なぜだ!」
狼狽している善永を、鈴木が滑稽そうに見ていた。
「F1ドライバーが目をつむったらダメだろう?」
一太が改めて善永に近づく。善永は命の危機に直面していながら、ハンドルを握る動作をしている。もはやこれまでと思ったそのとき…
ぴかっ!
一太の手にビームがかすった。思わず一太は手を引っ込める。鈴木がビームを飛んできた方を見る。そこには、指を差していた有賀が立っていた。
「鈴木君?どういうことかな?何をしている?」
「せ、生徒会長。こ、これは…」
鈴木は狼狽している。すると、善永たちの体が自由に動くようになった。一太も善永を襲うのをやめる。
「大丈夫ですか?申し訳ございません…」
「いいんですよ。斎藤さん。」
有賀は鈴木を睨む。
「兆能力はわからないが、無色オーラで発動していたらしいね。驚いたよ。私以外にも、レベル3の者が、生徒会にいたとはね。」
鈴木は紫色のオーラを発し、有賀に何か言おうとしたが、そうする前に有賀のビームが飛んできた。
「ひっ!?」
鈴木はその場から逃げ去る。鈴木に指を差しながら、有賀はそれを追いかけ始めた。
「待ってくれよ。謝るのであれば、痛い目には合わせない。だから、こっちに来なさい。」
鈴木は側にあった階段を駆け下り、ひたすら逃げていった。有賀もしつこく追いかける。
「まさか、あいつに助けられるとはな…」
走り去っていく有賀を見送りながら、善永は汗を拭っていた。
一方、逃げていた鈴木は有賀の方を振り返り、睨んだ。
「生徒会長、俺をやる気ですか?」
有賀は鈴木に指を差した。
「君の返答次第だ。」
すると、鈴木はにやりとした。
「そうですか。」
そのとき、4人の生徒が、鈴木を守るように、立ちふさがった。その4人を見て、有賀は指を下に向けた。
「君たちは!」
そこにいたのは、副会長の近藤、書記の土方、新見、そして山南であった。全員生徒会の人間だ。
善永の挑戦状:「スーパー・スウェード」や「サイドウェイ・ロニー」の別名がある、スウェーデン出身のレーシングドライバーは誰?
前回の『善永の挑戦状』答え:フラメンコ




