78話:親子喧嘩
善俊と善永は、広大な敷地の中でも、一際存在感を放つ建物の中にいた。とても広く、2人が小さく見えるぐらいだ。
「ここに入るのも久しぶりだ。僕は、ここで特訓をしたものさ。」
2人がいる建物は、川路家専用の特訓施設だ。あらゆる兆能力を使用できるように設計されており、容易には破壊されない。
「それで、どうするんだ?」
善永はストレッチをしていた。それを見た善俊が鼻で笑った。
「わかっているんだろう?簡単な話だ。この僕に、一撃でも攻撃を当ててみろ。それができて初めて、お前はSOCIOLOGIに立ち向かうとほざけるんだ。」
善俊も軽くストレッチをして、目をつむった。
「さあ、いつでもこい。」
善永は目をつむり、視界を設置し始めた。まずは、自分自身を俯瞰できる位置―視界①―に、その次に、善俊を俯瞰できる位置―視界②―に視界を設置した。3つ目の視界―視界③―は、全体を見回せるように、施設の天井付近に設置した。
「親父の戦い方はわかっている。親父の兆能力『ビジョンジャック』は、相手の視界をジャックする。それによって、相手の死角を見極め、そこから攻めるのが親父の戦い方だ。だが、テレポートビジョンの俺に、その戦い方は通用しないぜ。」
善永の話を聞いて、善俊が笑った。
「そうだな。それで、どうやって僕に攻撃する?」
善永は、視界②と視界③から同時にアイビームを発射した。善俊は、その場を動くことなく、それをかわしてみせた。
「!?」
「ビジョンジャックは、お前が設置した視界もジャックできる。アイビームは直線的な攻撃だ。どこから飛んでくるかさえわかれば、脅威ではない。」
善永が歯を食いしばる。
(一筋縄ではいかないな!厄介なのは、ビジョン・シェアも通用しないことだ!ビジョンジャックなら、視界を自由に切り替えることができるからな!)
善永は、善俊に向かって走りだす。その拳には、オーラを纏わせていた。善俊は、腕を組んでただ突っ立っていた。善永は右ストレートを善俊にぶつけようとする。しかし、容易に受け止められてしまった。そのまま、右手を掴まれ、背負い投げされた。
「ぐはっ!」
善永は、受け身をとることができず、床に叩きつけられた。善永は、倒れたままの状態で、右足で蹴りを入れようとする。善俊は、それを左足で受け流しながら、その足で倒れた善永の腹部にかかと落としを食らわせた。
「ごふっ!」
思わず腹を押さえる善永だったが、その顔に善俊の拳が飛んできた。すんでのところで、その拳が止まる。
「これで、お前は死んだぞ。言っておくが、SOCIOLOGIの人間なら、容赦なく拳を打ち当てていた。わかったなら、諦めろ。」
善俊は、20年前に起きた首都警察とSOCIOLOGIの争いに参加した経験もある。それ以降も数々の死闘を乗り越えてきた猛者だ。そのような人物に一撃を当てることなど、全くもって簡単な話ではない。
善俊は拳を引き、その場を去ろうとした。施設を出ようとしたとき、背後から声が聞こえてきた。
「まだ終わってないぞ…」
善俊はゆっくり振り返る。
「やれやれ…反抗期も度を過ぎるとかわいくないな。」
善永は立ち上がり、ある紙切れを取り出した。それは、七不思議のことが書かれた紙だ。
「親父…これを調べていてわかったんだが、生徒の中にもSOCIOLOGIの人間がいる…」
「それで、自分たちにも関わらせろってかい?」
「そうだ。それに、この紙によれば理事長やその秘書も怪しい。俺たちで調べる価値が…」
善永の言葉を、善俊が遮った。
「学校関係者は、既に調査してある。その2人が兆栄高校にやって来たのは10年前だ。だが、SOCIOLOGIの人間は20年も前からあの学校に潜んでいるはずなんだ。」
善俊は善永にゆっくりと近づく。
「善永、この問題は、首都警察だけで解決させてみせる。だから、これ以上首を突っ込むな。」
「なら、なぜ首都警察をもっと動員しない?学校にいるのは、雄康のおっちゃんだけじゃないか。」
善永の質問に、善俊は立ち止まる。
「それができないからだ。」
「できないだと?」
「そうだ。兆栄高校は、首都警察の捜索を20年も阻んできた。生徒会によってな。」
「生徒会だと…?」
善永は唖然とする。
「なんせ、生徒の中には、政治家などのお偉いさんを親に持つ者がいるからな。公式に捜索の手を入れるのが難しいんだ。だからヤス君には、教師として潜入してもらっているのさ。」
善俊が話していると、アイビームが飛んできた。それは、善俊の左足を狙っていた。
「!」
善俊は左足をずれさせたが、アイビームが少しかすった。
「やっぱり、俺たち生徒の力が必要じゃないか!俺は、相手が誰だろうと死なない!死んでたまるか!川路の名にかけて!」
善永は、気迫を込めながら、叫んだ。善俊がため息をついた。
「そうか。それじゃあ、こっちはお前を殺す気でいくぞ。それで倒れるようなら、本気で諦めてもらうからな。」
そう言うと、善俊はオーラを肥大させた。
「『ブラインドジャック』…」
善永の挑戦状:一度関わり始めたことは途中でやめられず、最後まで責任を持ってやり遂げるしかない状況を表すことわざを、ある乗り物を使って何という?
前回の『善永の挑戦状』答え:断じて行なえば鬼神も之を避く




