71話:なぎさとサリー
荘介が目を見張っている。
「なぎさ…お前は鏡に閉じ込められなかったのか!?」
「理由はわからないけど、そうみたいだ!ただ、サリーは出現した!こいつは僕であり、僕最大の敵だ!絶対に僕が倒す!」
なぎさは杖を強く握りしめる。サリーがなぎさに向かって走りだす。なぎさは杖をサリーに向けた。なぎさの杖から炎の弾が発射される。サリーは、にやけながら、杖から炎の弾を発射させた。炎の弾同士がぶつかり合う。が、サリーの発射した炎の弾だけが残り、なぎさの方に向かってくる。なぎさはすかさず杖から水の弾を発射し、それを打ち消した。
(同じ兆能力、レベルのはずなのに…!あっちのが上手だなんて!)
サリーはなぎさの側にまで迫っていた。杖から刀身を露わにし、それでなぎさの体を斬り裂こうとする。なぎさはそれをかわしながら、杖をサリーに向けた。杖の先が爆発し、サリーに怪我を負わせることに成功した。一太が感心している。
(すごい…サリーに対応してきている!)
しかし、優勢なのはサリーであった。怪我を負いながらも、サリーはなぎさに手をかざし、お返しと言わんばかりに爆発を引き起こした。
「きゃあっ!」
なぎさは爆風によって吹き飛ばされ、鏡に体をぶつけた。サリーは倒れたなぎさのもとに向かおうとする。そのとき、泥が飛んできてサリーを足止めした。
「なぎささんが頑張ってるのに、私たちが頑張らないわけにはいきませんよね。」
「ええ。さっきまでの俺たちが情けなく思えますよ!」
サリーは一太と荘介の方に向かってくる。2人はそれぞれ構え、サリーを迎え撃とうとした。
その頃、なぎさは意識が朦朧としていた。
「う、うーん…」
朦朧としている意識の中で、なぎさは子どもの頃を思い出していた。なぜサリーという人格が出現したのか。一太や荘介に襲いかかるサリーを見て、走馬灯のように思い出されるのであった。
(子どもの頃、僕はお母さんが嫌いだった…)
なぎさの幼少期は、母に怒られる毎日であった。なぜか。
「なぎさ!その喋り方をやめなさい!女の子が自分のことを『僕』だなんて!」
「うん…」
「『うん』じゃない!『はい』でしょう!?」
「はい…」
当時、なぎさの母は、なぎさに丁寧な口調で話してほしいと願っていた。その思いが強すぎるあまり、大きな声で叱っていたのである。ときには、善永が閉じ込め部屋と呼んでいる、押し入れに入れられたこともあった。
なぎさはそれが嫌で仕方なかった。いずれ、自身の口調と母が望む口調の板挟みに苦しめられることになる。
「僕…違う!私は、雪代なぎさです。はい。ごきげんよう。」
なぎさは鏡の前で、母が望む口調で話す練習を続けていた。しかし、それは長続きしなかった。ある日…
「僕…じゃない!じゃないです!私は…私は…え…誰…?」
ぱりん!
なぎさの家中に、何かが割れるような音が響き渡る。なぎさの母が音のした方に駆けつけると、なぎさが鏡を割っていた。母がなぎさを叱りつける。
「なぎさ!あなた、一体何をやって…ひっ!?」
母が目にしたもの…それは、血まみれになりながら大暴れするなぎさであった。母はそれを止めようとするが、止められない。途中でなぎさの父も止めにきたが、大人2人がかりでもなぎさを止めることはできなかった。最終的には、近所に住んでいる善俊らが駆けつけることで、ようやく止めることができた。
その一件以来、なぎさの母は口調の押しつけをやめた。やめざるをえなかった。そして、なぎさは鏡を見る度に、もう一人の人格が現れるようになった。丁寧な口調ながら、手がつけられない凶暴な人格を。
これが、加賀美サリーが誕生したきっかけである。
そして今、そのサリーが荘介と一太を痛めつけていた。なぎさの側に、一太が吹き飛んできた。一太が鏡に叩きつけられ、ぱりんと鏡が割れる音が響き渡る。それを聞いてなぎさは目が覚めた。
「…斎藤さん!」
一太は意識を失っていた。荘介は、ふらふらになりながらも、サリーに立ち向かう。だが、倒されるのも時間の問題だ。なぎさがなんとか立ち上がる。
「サリー…君は、ありのままでいたかった僕の裏返し…!僕が倒さないと…僕がけじめをつけないといけない!」
サリーは荘介に炎の弾を当てていた。荘介は膝から崩れ落ちる。
なぎさは杖から炎の弾を発射した。それは、サリーに命中することなく、どこかに飛んでいった。サリーは鼻で笑った。
「サリー、君の負けだ。」
どこかに飛んでいったはずの炎の弾が、サリーに命中した。
「!?」
サリーは何が起きたのかわからないまま、消滅していった。
「皮肉なもんだね…まさか鏡に助けられるとは…」
なぎさは鏡の一つに目をやっていた。なぎさは、炎の弾を鏡に向けて発射し、その反射でサリーを倒したのである。なぎさは天童の方に目をやる。天童は、体育座りをしていた。
「終わった…私はこのまま死んじゃうんだ…うう…しくしく…」
それを聞いて、なぎさは作田のことを思い出す。そして、あの人の二の舞にならないようにと、天童に杖を向ける。水の魔法で消火できるように。
「ダメ!無意味よ!」
天童がそう言った瞬間、彼女の体が突然発火した。なぎさは急いで水の弾を杖から発射して、天童を燃やし尽くそうとする火を消そうとするが、火の勢いは一向に衰えない。
「そんな…!」
燃えている最中、天童はなぎさに伝えた。
「ごめんね…なぎさちゃんのことも好きだったよ…私も普通の生徒だったら、なぎさちゃんと友達になりたかったな…」
天童は燃え尽きた。真っ黒こげになった死体が崩れ落ちる。
「そんな…あんまりだよ…」
なぎさは、涙を流しながら、それを悲しそうに見るのであった。
善永の挑戦状:『魔法使いサリー』などが日本で制作されるきっかけにもなった、魔女のサマンサとその娘・タバサ、夫のダーリンが登場する、アメリカで放送されていたテレビドラマは何?
前回の『善永の挑戦状』答え:ダイダイ




