67話:グランド・ホテル 推察
そうしている間にも、探偵が状況の整理をしていた。
「振り返りましょう。列車は30分間停車していた駅を10:00に出発した。娘の死体が発見されたのはその1時間後である11:00。その間、愛人は10号車、メイドは8号車、富豪は12号車、秘書も12号車にいた。娘の夫―善永がこの役―は5号車。この中なら、確かに夫が怪しい。」
探偵が善永の方を見る。善永はぎょっとしたが、身の潔白を証明しようとした。
「確かに、位置関係で言えば俺が怪しい。だが、わかりやすすぎる。それに、俺以外のアリバイも完璧すぎやしないか?」
「なるほど…」
探偵は考え込む。荘介は、改めて他の人物に話を聞く。まずは富豪だ。
「私は、列車が駅を出てから娘が見つかるまで、ずっと12号車にいました。側に秘書もいたので、間違いないです。」
続いて、男Aが口を開いた。
「俺は、ずっと探偵さんと一緒に4号車にいました。途中、2号車にでも行ってみようかと思い、3号車の娘さんとすれ違いつつ、2号車へ。そこで軽食を購入し、戻ろうとしたときに、娘さんの死体を発見したのです。その道中、娘さん以外で見かけたのは、夫だけなんですよ。」
次に、探偵はなぎさに話を聞こうとした。
「あなたがメイドですね?あなたは何をしていましたか?」
なぎさはあたふたする。
「え?僕?僕は知らないよ?」
そのとき、なぎさの目の前に謎の紙が現れた。そこには文字が書かれており、なぎさはそれを読んだ。
「えーと、僕は列車が駅を出た時点では娘と一緒にいて、富豪に報告することがあったんで、12号車に向かっていた。そのとき、娘の死体が発見されたと。そのときいたのが8号車。」
今度は、善永の目の前に紙が出現した。善永はそれに書かれた内容を音読する。
「俺は、列車が駅を出た後、2号車で食事をとり、3号車で娘とすれ違い、5号車に向かった。こうして見ると、本当に俺が怪しすぎるな。」
「お前!台本にないことを読むな!」
「はいはい…」
作田が怒鳴るのを、善永はうんざりした様子で受け流した。
それぞれの話を聞いて、荘介が口を開いた。
「探偵さん、駅を出てから娘の姿を見たのは、男A、メイドと夫だけですよ。」
「!…確かにそうですね。3人とも、あなたが見たのは、本当に娘さんですか?」
なぎさは紙に目を通しながら話す。
「はい。本物です。娘さんは、赤のハンドバッグと青の髪飾りを身につけていました。それに、真っ赤な口紅も。」
男Aは何度も頷いていた。
「間違いありません。駅では口紅をしていませんでしたが、列車の中では確かにしていました。とても綺麗でしたね。」
「ええ。それはそうでしたね。でも、娘はなぜ口紅をしたのでしょう?」
探偵が疑問に思っていると、愛人が口を挟んできた。
「それは、俺に会うためでしょう。駅ではできなかったことを、列車の中で…すみません。これは私情ですね。」
「構いません。続けて。」
「すみませんね。駅では、娘は少し不機嫌だったのですよ。とても話しかけていいような状態ではありませんでした。列車に乗って機嫌を取り戻したのでしょう。そして、この私の体を求めたのでしょうな。」
そのとき、善永が愛人に掴みかかった。台本にそう書いてあったからだ。
「この野郎。俺の嫁に!あー、あほくさ。」
「ふふ、板についてるよ。えいちゃん。」
善永を周りの人物が制止する。そのとき、善永ははっとする。
(そういえば!)
善永は口を開く。
「娘は、いつ殺された?」
「!」
それを聞いて、探偵の体に衝撃が走った。探偵が目を見開く。
「ふむ。男Aの話に基づけば、男Aが2号車にいた間です。時間にしておよそ10:50でしょうか。その10分の間で、娘を殺すことは難しい。娘の夫、あなたでさえも。」
(これは!好感触だ!)
善永が荘介に耳打ちをした。
「娘が殺されたのは列車内ではなく、駅だと言え。」
荘介は、言われた通りに探偵に助言する。
「娘が殺されたのは、列車内ではなく駅だったのではないでしょうか。」
「なるほど!その手があったか!君を助手に選んで正解だったよ!」
「はは…どうも。」
探偵が続ける。
「そうなると、駅での動向を聞く必要がありそうですな。私は、男A、富豪と娘の夫、娘のメイドと一緒にいましたが、愛人と秘書、娘は見かけませんでしたな。」
善永の挑戦状:日本三大名探偵とは、明智小五郎、金田一耕助とあと一人は誰?
前回の『善永の挑戦状』答え:『青列車の秘密』




