66話:グランド・ホテル
一方、斎藤親子が階段のデッドスペースに到着した。
「ここです。」
「このドアの向こうには何もないはずだが…」
英一がドアを開ける。英一の予想通り、ドアの向こう側には何もなかった。一太が首を傾げる。
「おかしいですね…皆さんどこに?」
部屋を出られなくなった4人は、あたふたしていた。
「あの、出してもらえます?もう出たいんですけど。」
善永がドアノブに手をかけながら、作田に頼み込む。しかし、作田はにやにや笑っていた。
「同じ舞台でも、人が違えば様々なドラマが見える。僕は、それが好きでね。」
「はあ。」
「よーい、アクション!」
作田の突然すぎる言動に、4人は困惑した。早く出してほしいと、心の底から願っていた。そのとき、
しゅぽぽぽぽぽ!
部屋のどこかから、汽笛を鳴らしながら汽車がやって来た。それは、4人の目の前で止まった。
突然現れた列車に、4人は頭が混乱していた。
「うわあああ!どうなっているんだ!?」
作田は4人の様子を注意深く観察している。
「舞台は青列車…大富豪の娘が死亡した。その娘は、高価なルピーを持っていたが、それを盗まれてしまう。犯人捜しが始まるぞ。」
汽車から数人の男女が降りてきた。善永たちはそれをただ見ているしかなかった。
降りてきた一人の男―これをAと呼ぶ―が口を開く。
「犯人は、この男に間違いありません!この男は、殺された妻を疎ましいと思っていたのです!」
Aは善永を指差す。
「は、はあ!?」
列車が登場した時点で困惑しっぱなしの善永だが、さらに困惑した。そのとき、別の男が口を開いた。その男は、卵型の頭に、大きな口髭をたくわえていた。
「この男…どっかで見た顔だな…」
その男が口を開く。
「どうでしょうか。確かに、彼にはアリバイがありません。ですが、決定的すぎる。証拠とは、不満の残るものなんです。」
「最後の一文、聞いたことあるセリフだな…そうか。あの探偵か!」
その男を仮に探偵と呼ぼう。
あまりの急展開に、早明浦がため息をついていた。
「ついていけん。こうなったら、無理矢理にでも出させてもらう。」
早明浦は、青色のオーラを発しながら、持っていた竹刀に帯電させる。そして、そのまま作田にそれを振りかざそうとした。
「カット!」
作田がそう言ったとき、列車から降りた人々が早明浦に襲いかかり始めた。
「!?…なんなんだよ!」
早明浦は竹刀を振り回すが、人々はそれを巧みにかわし、早明浦に掴みかかった。
「何してんだ!撮影中だろ!」
「エキストラがしゃしゃり出んな!黙って立ってろ!」
各々罵倒しながら、早明浦を殴りつけていた。
「早明浦!」
善永たちがそれを止めようとするが、できなかった。ついに、早明浦はぼろぼろになって倒れた。呆然としている3人に、作田が言い放った。
「いいかい?この部屋では、僕が監督であり、絶対だ。それに従わなければ、君たちはそうなる。さあ、再開しよう。アクション!」
その瞬間、Aが口を開いた。
「そ、そうなると、誰が怪しいんですか?他に怪しいのは、娘の愛人、娘のメイド、娘の父である富豪とその秘書ですが…」
探偵が荘介の方を見た。
「どう思う?」
「…え?俺!?」
荘介は、しばらく考え込んだが、何も思いつかなかった。そんな荘介に、なぎさが耳打ちした。
「とりあえず、怪しい人を指差したら?」
荘介は、愛人に指を差す。愛人は必死に否定していた。
「私が!?とんでもない!娘の死体が発見されたのは3号車だろう?そして、死体が発見されたのは11:00!私はそれまでずっと、10号車にいたんだ!」
「ふーむ。君、もう少し考えて指を差しなさい。」
「す、すんません…」
探偵に注意されて、荘介はげんなりした。なぎさが再び、荘介に耳打ちした。
「秘書はどう?なんか怪しい。」
荘介は、秘書を指差した。
「私が!?とんでもない!私は、娘が死んだ時間、12号車にいました!」
荘介は再び探偵に注意される。これら一連の流れを見て、善永は戸惑う。
(くそっ!この兆能力なんなんだよ!ただ四次元空間を作るだけじゃないぞ!)
『グランド・ホテル』は、四次元空間を作り出すだけの兆能力ではない。自分自身が思い描くストーリーを、部屋の中で実現することができる。部屋の中にいる人間は、必ずそれに従わなければならない。また、ストーリーによって出現した人々は、何度でも復活できてしまう。
現在、部屋の中ではミステリー劇が始まっている。善永は容疑者の一人・娘の夫役になっていて、荘介は探偵の助手役になっている。
善永は作田の方を見る。
(無色オーラ状態のアイビームであいつを撃つか…)
善永は、ゆっくり目をつむる。
「そこ!寝るな!」
作田が善永を怒鳴った。善永は思わず目を開ける。
(野郎…よく見てやがるな。こうなったら、堂々とやってやるか。)
善永が紫色のオーラを発したとき、周りにいた人物が善永を睨んだ。
「ははは、冗談ですよ。」
善永は慌ててオーラを消滅させる。
(ちくしょう!このストーリーを終わらせるしかないのか!?)
善永の挑戦状:青列車の中で起きた殺人事件をエルキュール・ポアロが解決する、1928年発表のアガサ・クリスティの作品は何?
前回の『善永の挑戦状』答え:『グランド・ホテル』




