64話:隠れた本体
善永は、プールを俯瞰できる位置に、一つの視界を設置した。
(どこだ!?更衣室か!?いや、あそこから外を見ることができるとは思えない!)
善永は、あるところに注目した。そこは、プールの水だ。現在プールは使われておらず、底が見えないほど濁っていた。
(まさかとは思うが…)
善永は、荘介に叫んだ。
「荘介!一条鞭砲をプールに!」
「え?」
荘介はきょとんとしていた。
「早く!」
善永に急かされて、荘介は焦って鞭を出現させた。そして、プールに向かって一条鞭砲を発射した。それは、プールの水を割った。まるで、モーセが海を割ったかのようだ。それによりプールの底が露わになり、そこに一人の男がいたのが見えた。男は宇宙服のような潜水服と、酸素ボンベを身につけている。
「そこかぁ!」
善永は、プールを俯瞰できる位置に設置していた視界から、アイビームを発射する。それは、男の酸素ボンベを破壊した。男は焦った様子でプールから出ようとする。しかし、一条鞭砲により割られた水が、激しい波を立て、男の動きを不自由にした。それもあってか、妖精の動きも鈍くなる。善永は男に指を差す。
「今だ!誰か、あの男を捕まえにいくぞ!」
善永はプールに飛び込もうとする。だが、3人のうち、誰一人としてプールに飛び込もうとしない。
「お前ら!どうした!」
「…嫌だろ…汚い…」
プールの水は濁っている。飛び込みたくないというのは、至極真っ当であった。
「仕方ない!俺だけで奴を!」
善永は目を開け、改めてプールに飛び込もうとする。そこに、妖精が迫ってきていた。目を開けて兆能力を解除してしまったため、善永は妖精の存在に気がつけないでいた。荘介やなぎさが妖精を止めようとするが、真っ先に対応したのは宮ケ瀬であった。
「危ない!善永様!」
宮ケ瀬が、善永を突き飛ばした。善永は、プールサイドに頭をぶつけながら、吹き飛ばされる。善永を吹き飛ばした宮ケ瀬は、自身の周りに花びらを舞わせていた。これなら、妖精から身を守ることができる。だが、妖精はそんなに甘い敵ではなかった。花びらの動きを的確に予想し、それを避けながら宮ケ瀬に近づく。ついに、妖精の鋭い爪が宮ケ瀬を引っかいた。宮ケ瀬は悲鳴を上げながら、前のめりに倒れていった。
「宮ケ瀬!」
荘介が鞭を振り回して、妖精を追い払おうとするが、妖精はそれもかわす。次の標的を荘介に定め、急接近してくる。ところが、魔法少女になったなぎさが発射した炎の弾には対応できなかった。妖精は燃えながら消滅していく。
「許さん!よくも俺の友達を!」
体勢を立て直した善永が怒りの表情を浮かべながらプールに飛び込もうとする。しかし…
「!…砂?」
飛び込もうとした善永を、どこからか飛んできた砂が足止めした。
「プールサイドを走ってはいけないよ。善永君。」
一太の父でもある、生徒指導の英一だ。
「斎藤先生!?」
英一が操る砂が、妖精を一匹一匹包み込む。そして、そのまま絞め殺していった。しばらくすると、妖精は一匹残らず消滅させられてしまった。
「そんな…!」
男が動揺し、その場から逃げようとする。英一は、それを逃がさなかった。砂を巧みに操り、男を拘束した。
男はしばらく苦しがっていたが、あるとき突然発火した。
あまりにも突然すぎる発火に、英一以外の人物は固まっていた。なぎさに関しては口を押さえる。英一は砂を引っ込めた。真っ黒こげになった男が、激しい水しぶきをあげながら、プールに落下した。
「斎藤先生…あんた、そこまでしなくたって!」
荘介が英一を睨んでいる。そんな中、善永が口をぱくぱくさせていた。
「そんな、まさか…だって…」
英一が荘介の方を見て言った。
「これは、俺がやったんじゃない。この人間は、追い詰められると燃える運命だったんだ。」
「どういうことですか!」
荘介が取り乱す。英一は静かに答えた。
「こいつは、SOCIOLOGIの構成員だ。」
「SOCIOLOGI?」
荘介となぎさは、聞き慣れない単語に首を傾げていたが、善永だけは唖然としていた。
「そんな…だってそれは!20年前に壊滅したはずだ!」
SOCIOLOGI―Special Organization for Counter-Intelligence, Onslaught, Liberty and Offenders over Global and International―は、世界征服を目論む国際犯罪組織だ。20年前、兆能力犯罪への対策に特化した治安組織・首都警察によって壊滅させられたはずだったが…
「残党が未だに残っているのさ。」
「なんだって…?」
なぎさが叫んだ。
「それよりも、黒部君と宮ケ瀬さんを!救急車を呼ぼうよ!」
はっとした善永がスマートフォンを取り出し、電話を始めた。
英一は、男の焼死体を砂でばらばらにしていた。善永は、ドン引きしながら、その一部始終を見ていた。
(そこまでするかよ…それにこの人、なぜSOCIOLOGIのことを?)
善永は、父が首都警察官であるため、組織のことをなんとなく知っていた。しかし、英一は教師。SOCIOLOGIの存在は、警察関係者以外はほとんど知らないはずである。善永は、そこに不信感を抱いた。
しばらくすると、救急車が到着し、黒部と宮ケ瀬を搬送した。善永たちは心配そうにそれを見ていた。その横で英一が呟く。
「安心しろ。妖精の毒は、命を奪うほど強くない。数日すれば退院できるだろう。」
それでも、善永たちは救急車を心配そうに見送るのであった。
善永の挑戦状:乾燥地帯や草原に現れる、円形の禿げた地形のことを何という?
前回の『善永の挑戦状』答え:コティングリー妖精事件




