19話:奇妙な釣り人
善永と荘介は校内を歩き回っている。すれ違う度に、女子生徒から冷たい視線を浴びている。
「どうやら、本当に俺らが疑われているらしいな…」
善永がため息をつきながら言う。
荘介がスマートフォンの画面を見つめている。例の件についての情報に目を通しているらしい。
「被害が出るのはプールの女子更衣室らしい。そこに見張りを立たせていても、被害に遭ったらしい。」
「ならば、俺たちにはできない。つまり、何者かの兆能力だな。」
「ああ。」
善永は立ち止まった。荘介が振り返り、善永に呼びかける。
「善永、どうした?」
「許せねえ…兆能力の悪用だけは…!」
善永は怒りに震えていて、唇を強く噛んでいる。それを見て、荘介が微笑んだ。
「腐っても首都警察の息子だな。」
「腐ってもってなんだ!」
2人はわいわいしながら歩いている。やがて中庭に出ると、奇妙な生徒が目に入った。中庭には小さい池があるのだが、そこに釣り糸を垂らしているのだ。
「あいつ、何を釣ろうとしてんだ?あの池には魚なんかいないだろ?」
「地球だろ。」
善永は興味本位でその生徒に近づこうとする。
「おい!やめとけ!ああいうのは触れない方がいい!」
荘介は止めようとするが、善永は耳を貸さない。
「あのー、三年生の人ですよね?」
善永が声をかけるが、その釣り人は返事しない。白い帽子を被っていて、顔がよく見えない、謎の多い人物だ。
「何釣っているのですか?何かいるの…」
善永が聞き続けていると、その生徒が口を開く。
「オウィディウスって知ってるかい?」
突然の質問に、善永は困惑するが、答えた。
「はい。古代ローマの詩人ですよね?」
「正解だ。」
その生徒は笑っている。
「彼は言った。『機会はどこにでもある。常に釣り針を垂らしておけ。思いがけない場所に魚はいる。』とな。」
「はあ。」
善永は呆然としている。
「つまり、何を釣るかは重要ではない。釣り糸を垂らすことが重要なのだよ。すると、答えは自ずとやってくる。」
「そうですか…」
善永はすり足でその場を離れた。荘介が耳打ちする。
「だからやめろと言ったんだ…さあ、行こうぜ。」
2人がその場を後にしようとしたとき、生徒が口を開いた。
「おっ、釣れた!縞々かー、悪くないな!」
「!」
2人は振り返る。生徒が釣竿を引き上げており、釣り針には下着がかかっているのが見えた。
「お前が犯人なのか!」
善永が問い詰めようとする。釣り針から下着を取りながら、生徒は言った。
「近づくな。君はいらない。」
「兆能力の悪用はご法度だ!」
「けっ!よく言うよ…君たちだって同じ穴の貉だろ?」
「お前と同じにするな!確かに、俺たちのはグレーだが、お前のは完全に真っ黒だ!」
善永が怒りで我を忘れていた。対して冷静だった荘介が口をぱくぱくさせている。
「善永!こいつ、兆能力を使っているぞ!中庭で!」
「んな馬鹿な!ここならオーラ感知機も反応するはずだ!」
荘介の発言に振り返っていた善永は、改めて生徒の方を見る。
「!」
その生徒は、確かに青色のオーラを発している。だが、それなのに、オーラ感知機は作動していないようだ。
「どういうことだよ!なぜ、堂々と…」
生徒は口を開く。
「そうか、君たちは知らないのか…いや、ほとんどの生徒が知らない事実か…」
その生徒は再び糸を池に垂らした。
「させるか!」
荘介がハイパーウィップを発動させ、鞭を手に持つ。
「善永、事情はわからないが、兆能力を使えるぞ!」
「!」
生徒が釣り糸をじっと見ながら言う。
「近づくなと言ったはずだよ。」
そのとき、荘介が消えた。善永が目を離した隙にだ。
「荘介!」
善永が辺りを見回すが、荘介はどこにもいない。
(どうなっている!こいつ、何をしたんだ!)
生徒は釣り竿を強く引っ張っている。大物が引っかかったようだ。生徒がその大物と格闘している間にも、善永は荘介を探し続けている。いずれ、生徒が釣り竿を勢いよく引っ張り上げた。
釣られたのは、荘介であった。
善永の挑戦状:なぜか黒海に面した港町に追放された、『愛の歌』や『変身物語』などの作品がある古代ローマの詩人は誰?
前回の『善永の挑戦状』答え:近藤勇




