106話:ゲームの終焉
ホワイトと善永はしばらく見つめ合う。最初に口を開いたのは、善永だった。
「どうやったら、あの小惑星は消える?」
「さあ。それよりも、お菓子を食べませんか?」
ホワイトははぐらかす。善永がいらいらしていたとき、後ろから声が聞こえた。
「頭使えよ。善永。」
善永はびくっとなり、振り返る。そこには、黒部がいた。
「黒部!」
「三年生から話を聞いている。ルールを思い出すんだ。善永。ゲームをクリアしたとして、事態が収束するなんて文言どこにもない。現れた効果も消え去ることはないんだよ。つまり、ゲームにより現れた効果は全て、あの女の兆能力によるものだ。」
「それはおかしい!ゲームが終われば、兆能力は使えなく…はっ!」
「気がついたか?兆能力が使えなくなる…ただそれだけのことだ。ゲーム中に発生した効果が消えることを意味していないんだよ。発生した効果を消す方法はたった一つ、あの女を殺すことだけだ。」
「!」
ホワイトが瞠目している。
「ふふ。さすがですね。さて、後ろの小惑星を消す方法もわかったことですし、どうです?あなたに、私を殺す覚悟がありますか?」
善永は逡巡する。今まで多くの強敵と激しい死闘を繰り広げ、ときには「殺す」などと発したこともあった。そんな善永だが、いざ殺せと言われても、できないのであった。
「善永、無理なら俺が…がふっ!」
「黒部!」
黒部がその場でうずくまった。黒部の肩が出血していた。善永は慌ててハンカチを取り出し、それで止血する。善永は辺りを見回した。
「これで終わりだ!川路善永!」
ヴァン・ペルトがゆっくりと歩み寄ってきていた。善永はヴァン・ペルトを睨みつける。一方のヴァン・ペルトは笑っている。持っているアサルトライフルを構え、善永を今にも撃とうとしていた。
「やめときな。お前が俺を撃つ前に、俺がお前を撃つ。」
善永の発言に、ヴァン・ペルトは驚きの表情を浮かべるが、すぐに笑顔になった。
「善永、少しいい男になったじゃないか。」
「俺は生まれつきいい男だ。」
善永は目をつむる。そして、ヴァン・ペルトが発砲してくる前に、彼の左胸にアイビームを貫通させた。ヴァン・ペルトは、持っていたアサルトライフルを落とし、にやりとしながら消滅していった。
「…」
ヴァン・ペルトが消滅するのを見守った後、善永は改めて理事長の方を見た。小惑星は着実に迫ってきている。
「ついにやりましたね。今度は私ですか?」
ホワイトは常に笑顔をキープしている。そこに、恐れや動揺など見られなかった。善永は目をつむったままだが、なかなかアイビームを発射できないでいる。兆能力によって出現したヴァン・ペルトをやるのと、生身の人間であるホワイトをやるのとではわけが違うのである。
「あなたは本当にNo.3なのか…?」
「何を今更…綾小路レイ事件のこともご存じなのでしょう?あれは間違いなく私ですよ。あなたを抹殺するよう部下に命じたのも、間違いなくこの私です。」
善永はもどかしさを感じた。いくらなんでも潔すぎる。この人はただのいい人なんじゃないか、そう錯覚させられるほどだ。善永は拳を強く握りしめる。時間だけが過ぎ、小惑星の衝突も迫っているというのに、善永はアイビームを撃とうとしない。ホワイトは、じっと動かず、ただ善永を見つめていた。善永が躊躇っていたそのとき、
『頑張れよ。川路一族の意地を見せてやれ。』
「aibo…?」
善永のスマートフォンから声が聞こえてきた。aiboが勝手に起動して、善永の背中を押す。善永は少し戸惑ったが、目を強くつむった。
「わかったぜ…俺は、覚悟を決めた!」
善永は意を決して、和同文殊光線を発射した。
「あっ…」
それは、ホワイトの腹部を貫く。ホワイトに大きな穴を開けた。
「…そう…それでいいのです…あなたの攻撃は、決定打であって、とどめではない…法律や、神が許さなかったとしても…私があなたを許します…」
ホワイトはゆっくりと倒れていった。そして、爆発した。SOCIOLOGIの幹部は、他の構成員のように発火するのではなく、爆発するのである。迫ってきていた小惑星は完全に消え去り、きれいな夕日だけが窓から見えていた。
(これで終わった…全てが…)
善永はしばらくうつむいた。近くでは黒部が肩の怪我を押さえて、苦しんでいる。善永は、黒部を担いで、皆のもとに向かうのであった。
ところかわって、ある国、大きな高層ビルが立ち並ぶ大都市。あるビルの一室で、2人の男が何か話し合っている。
「…No.3が死んだか…これで、旧幹部は全滅してしまったわけだ。」
一人の男が口を開く。カーテンで隠れていて顔が見えないが、膝の上に白い猫を乗せていることだけはわかる。部下らしき男が嘆く。
「計画は失敗なのでしょうか…」
「いや。それは違うな。兆栄高校での計画は、No.3の死亡がゴールだ。」
「それはつまり…」
「ふふふ。言わなくてもわかるんじゃないか?No.3は用済みになった。ただそれだけの話だ。それに、No.3のバッジには細工をしてある。奴を殺した人間は、それに苦しめられることになるだろうな。いや、苦しめられるべきだ。あの細工にはかなり骨を折ったからな。二度とやりたくない。」
「そ、そうですか…」
男が猫を撫でながら、不気味に笑う。
「さて、No.3の計画も成功に終わったことだ。早速次のステップに移ろう。準備の方はどうかな?」
「はい。順調に進んでおります。来月には実行できるでしょう。」
「No.11、幹部になりたてだが、君は有望だ。これからの活躍に期待しているよ。」
「はい。SOCIOLOGIの名において、必ず計画を成功させてみせます…No.1…」
No.11の話を聞きながら、No.1のレオ・オーベルハウザーは猫を優しく撫でていた。
善永の挑戦状:主人公のハリー・スタンパーをブルース・ウィリスが演じた、小惑星の衝突を題材にした、1998年の映画は何?
前回の『善永の挑戦状』答え:アニマトロニクス




