5長老
「それじゃ、我々も行きましょうか?」
港で船を見送っていると、ロンドビー船長が声をかけてきた。
「そうですね。行きましょう。」
宝石の木箱はハルカとメイガヘリスに渡してカティーサ号に乗り込んだ。シンリアス島行きに同行するのは、エリーン、シュレンジュ、ペルカ、サイクス、サフィアス、メイガロマトンだ。俺はひとりで行きたかったが、当然のように却下された、雑魚だからな。悲しい。リムもいつものように来たがったが、これも主流派からいつものことだが却下された。この布陣なら相当厳しい敵でも問題ないな。その上赤道を越えたところからジェイパスも部下を連れてついて来た。むしろ心配だ。
「風が暖かくて気持ちいいですね。」
サイクスが甲板でリラックスしてる。サフィアスはまたゲロってるな。俺はサフィアスの背中をさすりながら、サフィアスに話しかけた。
「この前はサフィアスが裏切り者の船長を見つけてくれてよかった。今回はもし見つけてもそこで指摘してはいけない。いいな。」
「どうして?」
「今回は知らない地に乗り込むんだから、慎重にしないとな。お義母さん、サフィアスをしっかり見てください。」
「そうですね。分かりました。」
前回は夜の闇に紛れてシンリアスを訪れたが今回は昼に堂々とやってきた。もしカソーピアの船団が襲ってきても、おおだこがたくさん出たら、逃げ出すだろう。
「たしかに凄いですな。海の民がたくさんついてきてます。」
甲板からロンドビーが海面を見ている。
「海の民はおおだこやカニを使役できるんですよ。なのでカソーピアの船には心配不要です。」
「それは心強いです。もっともこの船は逃げ足は速いですが。」
「俺も逃げ足は速いです。」
「前回は小舟で向かわれたそうですが、今回はどうしますか?」
「コントルホーンからは港に入ってくれと連絡を受けてるのでそうしましょう。」
ロンドビーは船員に入港の指示を出した。
港に入ると、コントルホーンたちが待ち受けていた。
「ショウ様、またお目にかかれてうれしいです。もっとも前回はお顔が見えませんでしたが。」
そうか、このオークがビルブティネルか、たしかに真っ暗だったからな。
「ビルブティネル殿、こちらこそよろしくお願いします。」
10人ほどオークがいるが、シュレンジュたちと比べると少しみんな肌の色が黒いな。やはり赤道に近いからなのかな。
「こちらの港はあまり使ってないのですか?」
「カソーピアは島の北と南の港に拠点をもっています。彼らはそこに穀物を集めるように指示しているので、この西の港はあまり使っていません。」
「北と南に拠点があるのですね。どれほど兵士がいるのですか?」
「それぞれ500人ほどと、聞いています。」
「前回は真っ暗だったので、見えませんでしたが、こちらは平野がずっと広がっているんですね。」
「この平野はこの島で一番大きな平野です。おかげで北や南の港までの穀物輸送に大きな負担になっています。」
「それは大変ですね。」
「今日は長老たちを集めております。ご案内します。」
俺たち一行は30分ほど内陸に向かって歩いた。両側には平屋の建物が広がっている。簡素な木造だ。先には大きな平屋の建物がある。
「こちらです。この建物はわが部族の集会所です。じつは長老が集まるのは通常島の真ん中の部族のところなのです。畑の民しかいなので、移動手段が徒歩だけなので北や南からくると一週間以上かかります。」
「それは、みなさん遠いところ来ていただいて申し訳ないですな。」
「いえ、真ん中の集会所はカソーピアに監視されていますから、こちらのほうが都合が良いです。」
俺たちは年季の入った暗い大会議室に通された。
「ここは天井が高いので涼しいですね。」
寒い方が得意なサイクスがほっとしている。確かに暑いな。少しすると5人の長老が従者を連れて入ってきた。5人の長老が席につき、従者たちは後ろに立った。
「それでは、私から他の長老を紹介します。」
ビルデティネルが4人を紹介した。北のカルトファン、南のリートリリン、東のセイトロバクス、中央のフィンゼィクだ。俺は同行者を紹介した。
フィンゼィクが立ち上がった。
「持ち回りの長老会の議長をしておりますので、代表してひとこと申し上げます。この度はお越しいただき恐縮です。私どもはコントルホーンからショウ様の素晴らしい統治を聞いており、またカソーピアを二度にわたって撃破されたお力も聞いております。その後の長老会議で、ぜひともショウ様にこの島を導いていただきたいということで一致いたしました。あつかましいお願いではありますか、この島を理解していただき、いつの日にかこの島を指導していただきたく、長老全員の総意であります。」
長老たちは全員立ち上がって、頭を下げた。
「みなさん、お座りください。話はコントルホーンさんに聞きました。最初は驚きましたし、俺なんかがそんなことはできるのかと思いました。しかし家族の中にもカソーピアの暴政に苦しめられている者がいましたので、家族の総意として皆さんのお力になれればとは考えてはおります。しかしながら俺たちがカソーピアを打ち負かしたのは、こちらの準備した戦場だったことも大きな理由です。おそらく今こちらに駐在しているカソーピアを排除するのはそれほど難しいことではありません。しかしその後、奴らの反撃を打ち負かせる力を持たなければ意味がありません。そのためには皆さんの事を深く理解して信頼関係を作らねばならないと考えております。」
カルトノフォンが俺の言葉に涙声で反応した。
「ショウ様、そのお言葉を聞けて、大変うれしく思います。我らをどうぞ導いて下さい。」
「少し具体的な話を聞いても良いですか?」
「どうぞ、なんなりと。」
「この島の迷宮はどうなっていますか。」
「いままで4か所の迷宮が見つかっています。北と南の迷宮はカソーピアが移動に使うので彼らが管理しています。東と西の迷宮はわれわれが入ることは禁止されており、まだゲートも開いていません。」
「しかし、迷宮を放置すると魔物が出てくるのでは。」
「はい、東と西ではたまに魔物に襲われて犠牲がでます。なので我々はそばに近づかないようにしています。」
「西の迷宮は近いのですか?」
「ここから歩いて1日ほどです。」
「畑の民はレベル上げている人はいるんですか?」
「カソーピアから畑仕事に集中しろと言われており、レベル上げは一切していません。この前コントルホーンがレベル上げていただいたのは例外的です。」
これでは迷宮は無理やな。
「この前人口は100万人ほどと聞きましたが、食料などはどうなのでしょう?」
俺の質問に長老たちは顔を見合わせた、フィンゼィクが口を開いた。
「この島は暖かいところにあり、耕作可能な土地も大きいのですが、毎年多くの穀物をカソーピアに納めるように義務付けられております。そのため100万人を食べさせるので精一杯です。」
「そんなに税が高いのですか?」
「我々の手に残るのは三分の一以下です。」
「それはひどい。」
俺は絶句した。
「こどもが成人できる率は4人に一人くらいです。」
オークは子だくさんだからな。
「これは提案ですが、西の迷宮を連絡用に開いてもよろしいでしょうか?」
「それは、私どもとしては問題ありませんが。」
「それなら、これから迷宮を開きにいきます。もう少し実務的な話を聞きたいので、シュレンジュ、サイクス、サフィアスを残していきますので、お付き合いお願いできますか。」
「それは、結構ですが、迷宮を開ける戦力はどうされるのですか?」
「海岸線で海の民がいるので、何人か手伝ってもらいます。エリーン、ジェイパスを呼んで来てくれる?」
「はい、あまりたくさん部下を連れてこないように言っときます。」
「そうだな、部下は二人くらいにするようにいってくれ。」
「わかりました。」
早速エリーンは部屋を飛び出した。
「六人で行かれるのですか?」
「はい、十分です。」
長老たちはまた顔を見合わせた。
「それと、お許しいただければ、コントルホーン殿にも同行いただき、迷宮のオーナーになっていただきたいのですが。」
「いや、迷宮のオーナーはショウ様でよろしいのでは。」
ビブルティネルが即座に反応する。
「迷宮のオーナーはその地の人がなるべきだと考えています。コントルホーン殿には危険もありません。」
「西の、良いお話ではないか。コントルホーンに偉業の手伝いをさせれば良いのではないか。」
リートリリンが助け舟を出すと、他の長老も頷いた。
「そ、そうですか。身に余る光栄ですが、そうさせていただきます。コントルホーンよ、良いな。」
コントルホーンは凍り付いている。
「私がいなくて道大丈夫?」
サフィアスが呟く。
「30階層までだから一本道だ、問題ない。こっちでがんばってくれ。」
サイクスが俺の意図を察知してサフィアスの肩を抱いた。
「それと、すこし失礼なことを申し上げるかもしれませんが、畑の民は雄が支配するところだと聞いております。ここにいるシュレンジュは俺の妻で、経営や外交の特技持ちです。シュレンジュの質問は、俺の質問と思って対応お願いします。」
「う、承りました。ショウ様は畑の民の妻もお持ちなのですね。」
長老たちの興味はそっちの方みたいや。少しすると外が騒がしくなった。
「長老様、魔物が!」
扉を開けて、オークの従者が飛び込んできた。
「あ、それは大丈夫なやつだと思います。」
俺たちは外に出た。エリーンの横でジェイパス達がファイアリザードに乗っている。
「こいつは走るの早くて良いぞ。3人乗れるしな。」
「それではコントルホーン殿もエリーンに乗って、道案内してください。皆さん、行ってきます。」
呆然とする長老たちを残して、エリーンとファイアリザードは東に向かった。1時間ほど麦畑が続く道を疾走した先には森が広がっている。
「この森には迷宮からたまに魔物が出るので、入るなと言われています。」
コントルホーンが道案内しながら説明してくれた。
そして俺たちは迷宮の入り口に到着した。
「さくっとゲートを開けよう。ジェイパス、ファイアリザードを前に出してくれ。その後ろにカニを2体ほど頼む。囲まれることもないだろうから、エリーンはコントルホーン殿を乗せて、最後尾で頼む。」
俺たちはファイアリザードの火炎が猛威を振るう中で迷宮を30階層まで3時間ほどで走り切った。
「さあ、コントルホーン殿、ゲートを開けて下さい。」
「本当に、私でよろしいのですか?」
「しっかりしてください。あなたは経営をもっているので、これからこの国全体を指導する立場にあるんですよ。自信を持って!」
俺に喝を入れられ、コントルホーンはゲートを開けて、所有者となった。名前はショウビアとコントルホーンが名付けた。オーク語で「ショウのもの」という意味らしい。勝手にしろ。それから2時間で地上に戻り、1時間後には町に戻った。日が傾いているが会議はまだ続いていた。
「皆さん、迷宮解放が完了したのでこれで一日あればこの町まで来れるようになりました。」
「もう、解放されたのですか?」
長老たちが驚きの声をあげたが、
「はい、確かに私がゲートを開けました。」
歓声が上がった。
「ショウさん、ヒアリングもちょうど終わりました。」
サイクスが笑顔で言う。問題なかったようだ。その後、別室に移動して夕食になった。当然だが質素な内容だ。
「このようなものしかなくて恐縮です。」
ヒルブティルネが申し訳なさそうに言う。
「いえ、私どもも同じようなものですよ。お気になさらないでください。」
干し魚がないのでジェイパスは海に帰っていった。すまんな。
カソーピアの船団が来ることもなかったので、俺たちはここで一泊することになった。
「みなさん、隣の建物に部屋を用意しております。ぞうどそちらでお休みください。」
一同は隣の建物に移動した。俺も移動しようとしたが、フィンゼィクが俺を呼び止めた。




