モウル領奇襲3
ジェイローリアが最後のカニを陽動で船の左舷に出す。その間にペルカはクラーケンの触手につかまりながら右舷から船に近づいた。しかしそれも直ぐに気づかれた。リムは船尾方向から低空で近づいている。小さいので人間の目ではなかなか見つけにくい。クラーケンが浮上してペルカを甲板に投げ入れた。船上の騎士たちが対応しようとするが、ペルカは物理防御とハイスラシュをつかいその輪を難なく突破して、橙の僧正に近づいた。僧正は光魔法をペルカに浴びせるが、これも魔法絶対防御に阻まれた。僧正の目が大きく開かれたところにペルカがハイスラッシュで盾を弾き飛ばした。ペルカはそれを蹴り飛ばし、素早く海に飛び込んだ。ジェイローリアがペルカを抱え離脱する。その混乱を突いて、上昇してきたリムが渾身の闇魔法を僧正に浴びせる。僧正の人魚の涙が壊れる。僧正は急いで盾を拾おうとするが、その前にリムの2発目が僧正に命中して、僧正は黒く消えて消し炭になり、鎧のみが残った。船上の騎士たちは大混乱に陥った。
「おう、やったぞ!」
トランシーバーでその様子を聞いていた陸の味方からも大歓声が上がる。
「リム、悪いがあの船は闇魔法で沈めてくれ。誰も生かしては置けない。ジェイパスもおおだこで逃げ出した奴がいたら始末してくれ。」
「わっかたのじゃ。」
ふたりがハモる、お局言葉だからな。
「どうやって僧正を殺ったか知られると困るからな。」
俺は言い訳のように呟いた。
ほどなくして僧正の乗っていた船は沈没した。しかしほかの船は戦意が高く、それを知っても攻撃の手を緩めない。海岸ではドワーフたちが盾になって、遠距離攻撃陣を守りながら一方的な殺戮の様相になっている。
「一度港まで戻ろう。サフィアス、ペルカ大丈夫か?」
「私もうダメ。」
言いながらゲロ吐いてる。がんばったなサフィアス。
「私は大丈夫です。だいぶ海水飲みましたが。」
「一番の手柄はペルカだ。よくやってくれた。」
俺は少し離れてジェイローリアに乗っているペルカの手を握った。
俺たちは、戦いの最中のエリアを避けて、あらかじめ決めておいた海岸に上陸した。そこにはケンタウロスが数人待機している。
「リムとモウルは戦場に戻ってくれ。ジェイパスとジェイローリアはここで待機だ。残りは一緒に館まで戻るぞ。」
モウルはリムを抱えて、加速で走り去った。俺とサフィアス、ペルカ、ファロリアスはケンタウロスに乗って館まで戻った。
「みんなはここで待機だ。趨勢は決まったから、みんなの出番は終わった。よくやってくれた、感謝する。俺はちょっと物を取りに戻る。」
俺は下北沢に戻り、拡声器を持って戻ってきた。戦場に向かおうとすると、ペルカたちは一緒に来るというので、ケンタウロスに乗って一緒に戦場に戻った。
後方でシュレンジュが戦況を見ている。
「シュレンジュ、どんな感じだ。」
「今回の騎士は魔法防御がそれほど大きくないようで、全体魔法攻撃を2回受けると倒れます。なので前面の山の民がそれほど数の差で押されてはいません。押されてくるとモウルさんと、タンディさんが銃で押し返すので、ほぼ一方的です。」
港から領内に入るところを狭く作ったのも、良かったのかもしれないな。
「そうか、ありがとう。」
俺は更に前に出て、モウル達のいるところに着いた。
「降伏勧告をするが、良いか?」
「はい、主様のお考えで結構です。」
俺はこちらの世界で初めて、言語選択で人語を選んで、拡声器を使った。
「カソーピアの民よ、もう橙の僧正は倒した。お前たちに勝ち目はない。降伏するなら命までは取らない。降伏せよ。」
指揮官らしき騎士が言い返してくる。
「だまれ、この世界を支配すべき人間に逆らう種族は全て根絶やしにするのが、我が国の掟である。わが国にはそのような蛮族に降伏して恥を晒すものはいない。最後の一兵まで戦うのが当然である。」
どこかの国で聞いたようなセリフだ。リムは人語も理解できるようで悲しそうな目でこちらを見ている。ほとんどの味方はどんなやり取りがされているのか理解できていない。
「主様、何と言ってるの?」
「全員死ぬまで戦うそうだ。」
モウルは目を落として呟いた。
「どうしてそうなるの?」
「俺にも理解できない。しかし洗脳が進むとそうなるのかも知れない。怖いことだ。」
サイクスが率いる援軍が駆け付けた時にはすべてが終わっていた。
「これは酷いですね。」
サイクスが呆然と言った。
「降伏を勧めましたが、誰も応じませんでした。」
「こちらの被害はどうだったのですか?」
「今回は早めに橙の僧正を倒せたので、犠牲者はいません。」
「それは何よりですね。」
「しかし、倒されても倒されても向かってくる敵と戦って心が折れた者が多数いるようです。」
「そうですか。戦争は勝ったほうも負けたほうも、大変ですね。」
そんな会話をしているとジェイパスがクラゲに乗ってやってきた。
「船団を追っていた部下が来たのじゃが、船団が方向を変えてこっちに向かってきているようじゃ。明後日には着く。」
「やはりそうか、知らせてくれたありがとう。」
「一部の部下がコンポロに向かって、向こうで待っている部下たちをこちらに呼び寄せている。明日の夜には全員来るじゃろう。」
「それはありがたい。一度館でどうするか打ち合わよう。」
モウルもサイクスを見て近づいてきた。
「サイクスさん、ありがとうございます。」
「まだまだ、気を抜けないみたいだから、一緒に頑張りましょう。」
サイクスが背の高いモウルの背中に手をあてて励ましてくれる。嬉しい光景だ。
オークや獣人たちが食堂に入りきれない人々に食事を準備し続けている。みんなが鎧を脱いでつかの間の休息を取っている。モウルの館には主だった者が集まってきた。
「皆さんのおかげで領民を守ることができました。本当にありがとうございました。」
モウルが深々と頭をさげる。
「何を言っておる、家族を守るのは当然のことじゃ。ペルカが凄く頑張ってくれたしな。」
リムが良いことを言う。板について来たな。
「いえ、私なんか言われたままにしただけです。」
「不死身のペルカは家族の救世主だな。」
俺が言うと、
「必要なら、また投げて下さい。」
「お、おう、できるだけそうならないようにするよ。」
微妙な雰囲気になった。シュレンジュが話題をかえてくれた。グッジョブだ。
「しかし、まだ安心できません。倍の兵力が近づいてきております。」
「おそらくもう上位の僧正は来ないと思います。今日殲滅した部隊が港と領主の館を押さえて、後続部隊が占領を確かにするような計画ではないでしょうか。」
サイクスが意見を述べる。
「その可能性が高そうだが、警戒を解くわけにはいかないな。それに先遣部隊が全滅したことを知らずに上陸させると、また皆殺しにすることになりそうだ。それもどうなんだろう。」
「こちらの力を見せつけて、撤退させるのが上策ですね。」
シュレンジュが相槌をうった。
「船乗りはおおだこやカニを恐れるから、沖合で部下にそれらを使わせるのも良いかもしれんのう。」
ジェイパスが提案した。
「それは良いかもしれないな。海上でおおだこやカニが列をなしてると、僧正でもいないかぎり突破には勇気がいる。」
「まだメディーサは捕獲できてないが、なんならゴーレムを投げ込むこともできるのじゃ。」
「ありがたいが、ゴーレムはまだ見せないでおこう。」
「そうか、レベルが上がったので、わらわは6体、部下二人も4体まで中級種を使役できるようになったので、必要なら言ってくれ。」
「そ、それはすごいな。」
これでメディーサが使えたら恐ろしいぞ。
「港以外に上陸できるようなとことはあるのか?」
「北の海岸線はなだらかな場所が少ないので、小舟でも上陸できるところは2か所くらいです。それも狭いので大軍の上陸はむずかしいです。」
さすがシュレンジュ、良く調べてある。
「それならそこには見張りを置いてトランシーバーを持たせてくれ。」
「はい、そういたします。」
「港は入り口が狭いので、今回山の民の援軍が来たから、そこは守り切れそうだな。」
「山の民が3倍になったから、余裕ある。」
モウルが答えた。
「銃の弾丸は大丈夫か?」
「3人ともまだたくさんある。銃は整備しないといけないみたいだけど。」
「そうか、この後持って帰って整備してもらうよ。」
あとでカークのところに銃を持っていくと、戦争でもしたのかと言われ、整備に時間かかるから、と新品を渡された。ありがたい。
「それじゃ、明日の夜にジェイパスの部下たちが来るまで、みんな英気を養おう。」
ジェイパスが何か言いたそうだ。
「モウル、それと干し魚を集めてくれ。」
ジェイパスが嬉しそうにした。打ち合わせが終わり散会したが、モウルとペルカが何か喋っている。
「ペルカ、本当にありがとね。」
「何言ってるの、長いつきあいじゃない。私は守る領地がないから、全力で戦える。任せといて。」
「私ももっと前で戦いたかった。」
「それは仕方ないよ。またチャンスあるよ。」
背の低いペルカがモウルの背中を抱きしめる。俺も泣きそうだ。




