60階層へ
俺はフェンティオたちが作業してる小屋に急いだ。ポポゼウルやリムたちもいる。
「ショウ様、私も見ましたが、新しいことが分かりました。検証は必要ですが、今まで知られていない伝承です。」
「それは凄いですね。どのような内容ですか?」
「上位迷宮についてはあまり知られていなかったのですが、上位迷宮についての記述があったのです。それによると、どうも60階層には新たなゲートがあるようです。いままで通常の迷宮では60階層にゲートは見つかったことがないので、驚いています。」
「60階層にゲートですか、どこへ行けるのでしょう?」
「それは良く分かりません。なにしろ文字の全部が解明されているわけではないので。同時に真の道は上級迷宮から通じる、とも記述がありました。」
「そうですか、それは興味深いです。」
「これは更に迷宮攻略を進めないといかんのう。」
リムが興奮している。落ち着いてくれ。
「そうだな、みんなで相談しよう。」
「私はトロンビアに戻りますが、この者たちは引き続きここで解読を続けます。51階層以降に挑戦するのであれば、前回お話した即死攻撃の危険性と、通常迷宮でも51階層からは4種の魔物が出るので、5種の魔物が出る可能性があります。成功を祈ります。」
「ありがとうございます、そのことを肝に命じて、準備します。」
翌週、家族全員を山小屋に集めた。モウルは迷宮で来たが、スティリアスは迷宮を封鎖しているので、奥の手を使った。袋に詰め込んで運んだのだ。袋に入れる前に、着いても叫び声を上げないように念を押した。またエリーンに何を言われるか分からないからな。
集合をかけて全員が集まるまでにそれぞれの持ち場の段取りがある。俺も数日空いたのでロンドビーに会いに行ったことにして、サンフランシスコで集中的に銃のコーチを受けた。シェイトンに行く以外は、しっかり家族の絆を確かめるようにエリーンに厳しく言い渡されており、誰とどうした、と報告しないと怒られる。俺にプライベートは無い。
「ふん、ようやく力の抜き方が分かったようだな。」
カークはぶっきらぼうに言う。
「これならある程度使えそうだ。銃はどれにする。」
「えーと、銃の準備してくれるんですか?」
「アリソンからの頼みだからな。心配するな金は貰ってるし、足も着かないぞ。」
「そうですか、パワーがあって、弾倉が大きいのが良いです。」
「あまり大きいのも使いにくいから、これなんかどうだ。」
棚のなかから一丁の拳銃が出てきた。」
「ルガー57だ。弾が9ミリよりは強力で、10発装弾できるぞ。」
しばらくその拳銃で試射をして俺はそれに決めた。弾丸も500発貰って山小屋に持ち帰った。これで少しでも役に立ったら良いんだが。
そして、カソーピアの侵攻後初めて家族が揃った。
「えーと、今日はこれからの方針を話し合うんだったよな。」
「はい、そうです。」
エリーンが答える。
「どうしてペルカのとことか、モウルのとこは勢揃いなんだ?」
「もし、迷宮に行くなら、また呼ぶのも面倒なので。」
「いや、各地の守りは大丈夫なの?」
「それは、シュレンジュさんがきっちりと配置してくれていますから。」
「シュレンジュ、そうなの?」
「はい、カソーピアから船団が出たあと、コンポロかモウル領に着くまで10日はかかりますから、大丈夫です。」
「わらわの部下がしっかり見張っておる。」
ジェイパスが胸を張る。なぜか人魚も3人いるぞ。
「そうか、ところでジェイパスの横にいるのは誰だ?」
「迷宮で使えそうな部下を連れて来たぞ。」
なんでそうなる!
「いや、まだ迷宮に行くことは決まってないだろ。」
「善は急げというからのう。」
こっちの人は迷宮が怖くないんだろうか。俺なんかできれば行きたくないんだが。
「そ、そうか。まずは行くかどうか話し合おう。」
しかし、俺の声はかき消され、陣立ての相談が始まった。
かろうじて、カソーピアの船団が動いたら、リショウムの迷宮経由で一報がはいる段取りだけ決めた。もう知らんぞ。
「余裕があれば、一気に60階層を目指しましょう。」
サイクスが提案する。経験者の言葉は重い。
「確かに何度もこの主力を迷宮には送れないですから、それは良いですね。」
エリーンとシュレンジュが賛成する。まずいな、主流派が手を組んだ。俺は慎重にと言ったが、反主流派の声は誰も聞いてくれない。これは夜に仕返しだな。55階層到達時に行くか戻るか決めることになった。
「30階層までは、一気に一日で行って、そこで物資を補給します。40階層までは海の民の蟹を前に出して、時間のかかる魔物は回避しながら1日で進みます。41階層からは海の民の二人にも中層の魔物捕獲をしてもらいながら50階層まで2日で進みます。50階層までの地図はほぼ出来上がっているので問題ないと思います。」
エリーンの説明に参加者が頷く。
「51階層からは即死攻撃対策で全員、人魚の涙を付けてください。予備も20ほどあるので、これが尽きるまでは前進します。51階層以降はどんな能力を持った魔物がでるかわからないで、海の民の魔物を前面に出して、まず様子を見ます。魔物の能力に応じて対応を決めます。」
俺と、妖精3人、人魚3人、ケンタウロス4人、エルフ3人、ドワーフ5人、オーク4人、ノーム4人、獣人3人が60階層を目指して翌朝リショウムの迷宮に入った。ついにポポゼウルの手を借りなくても3パテが作れるようになったぞ。予定通り40階層までは問題なく2日で走破した。ジェイパスの部下のジェイローリアとジェイサーマスは35階層までで、使役2まで持っているエリート人魚だ。しかし通常は蟹しか使役していないので、ここから中層魔物の捕獲を試みながら進んだ。HPが高いトラの捕獲を目指した。
「ジェイパス、部下たちも中層魔物は5体行けるのか?」
「いや、わらわのようにステータスが上がってるわけではないので、3体が限度じゃろう。」
「それなら虎1とクワガタ2で頼む。」
サフィアスがメレンタスと共に魔物を上手く回避しながら迷路を進んでいったので、危機に会わずに2日で50階層まで着いた。ロルとテクが騒いでいる。
「ショウさん、おかげで我々は光魔法3と闇魔法3を手に入れました。」
テクが嬉しそうに言った。
「そうは言ってもテク兄はデバフだからのう。」
リムはテクに対してはなぜかマウントを取りに行く。
「リム、今度はちょっと凄いぞ。相手のスキルを封じるデバフだぞ。」
テクも小さい体で反論する。
「おお、テク様、それは凄い。」
まわりの者が声をあげた。
「でもクールタイムが1時間あるんですが、」
俺は小声で言うテクの言葉を聞き逃さなかった。
「みなさん、人魚の涙は付けましたか?準備が出来たら51階層に降ります。」
一同は緊張しながらも力強く声を上げた。




