カソーピア襲来2
夕方になるとぱらぱらとオークが来た。50人はいる。
「おぬしらは戦いに参加せずともよいのじゃぞ。」
「お姫様、非力ですが、食事の準備や物資の運搬くらいはできますので。」
「すまんのう。」
「みんなに慕われる領主だな。」
俺が頭を撫でると、リムは無言で下を向き涙を隠した。
モウルとタンディも戻ってきた。
「明日の朝にはここまで来そう。二千以上いる。草原の民はいない。人間ばかり。」
「二千ですか、多いですね。どうしてでしょうか?」
「サイクス殿、どういう意味じゃ?」
「レンドル領を押さえるのにどれほど兵を動員したのか知りませんが、二千は大軍です。ここは初期の荘園なのにそれほど手をかけるのが不思議です。おそらく逃げだしている空の民もいるでしょうから、そちらが優先ではないのでしょうか?」
「なるほど、その通りじゃのう。」
俺には一つの考えが浮かんだが口に出せない。
「王の血統。」
いかん、メレンタスの口を塞ぐ距離ではなかった。
「うん、どういう意味じゃ。」
サイクスも気づいて目を落とす。しばらく沈黙が続いた。
「ショウ、教えてくれ。」
「カソーピアが何としてもレンドル公爵家の一族を押さえたいということかも知れないな。しかし安心しろ、家族みんなで何があってもお姫様を守るぞ。」
夜にはスティリアスとロストリンがフォイヘスに乗って到着した。これで主力は勢揃いだ。
スティリアスはフォイヘスを降りると、リムに抱きついた。
「大丈夫です。ご家族はきっと、避難されています。みんなで助けに参りましょう。」
「そ、そうじゃのう。頼むぞ。」
「お任せください。」
スティリアスの目が暗い中で燃え上がる、キャッツアイ怖い。これがほんとうのスティリアスだな。夜中には鍛冶場のドワーフや迷宮内のノームも到着した。戦力は400ほどに達した。
月の出ていない闇夜だが、携帯ランプをいくつか点けて軍議を開く。各地から援軍が出ているが明日の朝には間に合わない。
「みんな、この荘園とお姫様を狙うカソーピアを我らは全力で殲滅する。敵は10倍近いが、これまで準備してきた我々は必ず勝つ。」
集まったリーダーたちが雄たけびを上げる。士気は高いぞ。
「明日の朝にも敵は来るだろう。まず魔法攻撃が来るので、魔法防御の防具のないものは、敵の魔法使いを排除するまでは前線に出てはいけない。」
ドワーフの一部は不満そうだが、仕方がない。
「その後、敵は橋を渡ろうとするので、そこからは白兵戦を挑む。むこうは魔法防御しか準備していないので、戦いは有利だ。しかし合図するまではあまり前に出ないで欲しい。橋で固まって戦うのだ。」
狭い橋で戦っている限り、まるで迷宮で戦うのと同じだ。俺たちには経験がある。
その後、それぞれが持ち場を決めて準備をした。目の良いノームたちは前にでて、伏兵の接近に備えている。
俺はエリーンとリム、スティリアスと小屋で時間がたつのを待つ。スティリアスがずっとリムをかかえてくれている。リムは家族のところに駆けつけたいという衝動と領主としての役割の板挟みで押しつぶされている。かける言葉もない。
日が昇った。まだ暗い中を騎士が整列して迫ってくる。
こちらは街道から続く橋の手前で主力が待ち受ける。ドワーフやノームの兵たちは土塀の内側に座っており向こうからは見えない。
迫る軍の最前列の僧服が大声で叫ぶ。
「レンドル公爵家はもはや存在しない。速やかに降伏せよ。」
リムが反応しようとするが押しとどめる。
「挑発だ、我慢してくれ。」
「そうか、それならば、仕方ない。かかれ!」
僧服に反応して、前方数か所から俺たちのところに魔法攻撃が来る。10人ほどだ。
中層の魔物に比べたらダメは少ない。エリーンがひとつ全体回復をかけると、モウル、ペルカ、スリニー、アカシュ、ファロメイリン、スティリアスが駆け出す。そして、リム、メレンタス、サイクス、サウサ、は魔法攻撃を始める。敵の魔法使いの前には騎士が立ちふさがるが、ドワーフたちはその首を一撃で叩き落した、それ以外の戦士は加速でかわして、魔法使いにたどり着く。そして瞬殺する。のこった4人も魔法防御はあるものの、連続に高位の魔法攻撃に殲滅される。魔法使いが瞬時に殺され、僧服はたじろぐが、構わず指示する。
「押しつぶせ!」
騎士たちは橋に殺到する、一部は回り込もうと堀の端に走った。加速持ちは直ぐに戻って来たが、ドワーフ3人は橋手前で円陣を組み敵に対峙した。もともと人間とドワーフでは人間の分がわるい、その上、ステータスが2倍のレベル50ドワーフなので全く勝ち目がない。まるで蟻地獄に吸い込まれる蟻のように切り刻まれていく。橋に殺到する敵には、主力は少し引いて、土塀の陰から戦闘特技持ちのドワーフやノームが30人飛び出す。ここでは10メートル幅の橋の上で両軍が剣を交えるが、ここでもこちらは物理+7はあるので相手にならない。次々と死体が積みあがっている。堀の両端を渡ろうとする敵には土の塔からタンディやメイガロマトンが矢を撃ち込み、手前ではシュレンモハンやファロメイリンが待ち受けている。リムをはじめ魔法使いたちは水路向こうの敵に魔法を撃ちこみ続ける。これも4発当たれば確実に死ぬ。水路の中は敵の死体で埋まって、ついに水路を歩いて渡れるようになり、そのようなところを騎士たちは渡り始めた。それも土塀の上からドワーフやノームが対応し、ここでも物理防御の差で相手にならない。半時間で敵の数は半減した。
僧服は想定外の連続で、唇をかむ。
「いったん退却だ。全員引け!」
僧服の周囲を親衛隊のような一団がいて、僧服を守るように反転し、走り出した。騎士たちも逃げだした。
「レモルクス、ドロン、行くぞ!」
後ろに控えていたケンタウロス10人は主力メンバーを背中に乗せて追撃に移る。エリーンの背にはリム、サイクス、メレンタス、が乗る。おれはフォイヘスの背中だ。
一団となって街道を逃げるカソーピア勢の右からケンタウロスたちは追い抜かして、僧服の前方に主力を降ろす。
「余がレンドル公爵家皇女である。蛮族どもよ、ここで滅びよ。」
リムの口上を受けて声をあげて主力は敵に突っ込んだ。後ろからもドワーフたちが列を作り後方の敵を撃破していった。こうなったら逃げ場はない。
僧服のまわりの親衛隊は、鑑定するとレベル35くらいの特技、スキル持ちばかりだが、それくらいではこちらの相手ではない。最後に残った僧服はスティリアスが切り刻んだ。
昼前にはすべてが終わった。広い街道とその周辺は死体が広く広がっている。
「まだ終わってないぞ、これからだ。」
こちらの犠牲は4人だ。しっかり弔おう。昼過ぎになると各地からの援軍が続々と到着した。
「ご主人様、初戦の勝利おめでとうございます。モウル領、ペイニャから第一陣、森の民20人、谷の民50人、畑の民50人、山の民30人、到着しました。」
シュレンジュがモウル領からの援軍を率いてきた。まだペイニャの各地から来るようだ。
「ショウ様、コンポロより谷の民100人到着しました。10隻の船団が赤道を渡り物資、人を運んで参ります。」
ペンディウルが来てくれた。人が多いから物資はありがたい。
「ショウ様、はじめておめにかかります。フェンティオと申します。素晴らしい連合軍ですな。霧の民50人、草原の民30人、ポポゼウル長老の命で参りました。」
「まあ、あなた。」
サイクスがぼそっと言う。ええっ!!お義父さん。
「こ、これは、ようこそおいで下さいました。ショウです。ご家族にはお世話になっております。」
「あなた、ショウさんに覚醒してもらいなさい。そうしたらわかるわ。」
「父、疑い深い。」
サフィアスが止めを刺す。父親はつらいな。
「あ、あのよろしければ覚醒させていただきますが。」
「そ、そうですか、それではお願いします。」
フォンティオに覚醒をかける。ステータス倍に加えて、斬というスキルが加わった。
「本当に、直ぐにステータスが倍になった上に、スキルまで。ありがとうございます。」
「いえ、サフィアスのご家族ですから。」
「そうすると、メレンタスの説明は、、」
メレンタスはどこかに隠れたようだ。あいつめ。
その日は盆地と町の中間で野営だ。支援要員のオーク達が敵の死体を集めて山になっている。明日から大きな穴を掘るようだ。ケンタウロスが60体に増え輸送力も強化できた。スティリアスのいとこたちが牛車を引いて穀物を運んできた。なにせ千人近くなったからな。
「各地からの応援、感謝しかありませぬ。おかげで荘園の防衛に成功しました。これからは我が実家の奪回になります。趣旨が変わりますので、方々はよくお考えいただきたい。」
リムは援軍で来たリーダーに頭を下げる。
「共通の敵、カソーピアを討つのに、なんの違いかありましょうか。我々はショウ様、
お姫様と共に進みます。」
フェンティオが力強く言うと、参加者は全員同意した。
リム捕縛軍が壊滅したことが知られる前に、速攻することが、決まった。
ケンタウロス60体に180人が乗って先行することになった。物資は後から来る牛車部隊に任せる。翌朝暗いうちに、60体のケンタウロスは町に向かって出発した。昼前には町に到着した。
「これは酷い。」
全員が言葉もない。町はほぼ焼け落ちている。敵の影はない。
「もう引いたのか?」
「敵の波動感じない。」
サフィアスが小声でつぶやいた。先行部隊は公爵邸のあったところに注意しつつ到着した。
リムはその惨状を見ると崩れ落ちた。俺がリムを抱きとめる。
「エリーン、みんなにあの旗を持たせてくれ。」
「はい、公爵家の旗ですね。」
「それと、公爵家にいた、モウル、ペルカ、サフィアスと一緒に公爵家の歌を大声で歌ってくれ。」
「はい、そうします。」
歌が始まった。
「ペルカ、お前は歌わなくていい。」
少し聞いてて俺はそういった。ドワーフには歌ないんか。しばらく歌が続くと、妖精が遠くから現れた。
「お姫様、無事でいらっしゃいましたか!」
泣きながらリムに抱きついた。
「レコンドルか?」
「はい、公爵様の用事で町に出かけており、異変を知って東の森に隠れておりました。侵入者は夜には半分が迷宮から消えて、半分がお嬢様の荘園に進軍しました。」
歌声を聞いて、味方であることを知って、徐々に妖精たちが現れだした。午後には20人ほどの妖精が旗のもとに集まった。
「健在なのはこれだけなのじゃな。」
リムは静かに言った。
「お嬢様、まだどこかに隠れておられるかも知れません。」
エリーンが言葉をかけるがリムは前を見つめている。
「敵はどこに向かったのじゃ。」
「迷宮に行けば、履歴が見れますね。」
後続の歩きの本体が夕方に到着したので、生き残った妖精たちと共に残して、先行部隊は公爵領の迷宮に入った。そんなことを言ってる時ではないが、懐かしい。最初にリムやエリーンたちと潜った時からは隔世の思いだ。魔物を気にすることなく。迷宮を走り抜けゲートについた。
「これは、どこの迷宮ですか?」
サイクスの問いにリムが答えた。
「これは隣のフリクリス公爵領の迷宮じゃ。」
「もしかすると、」
「向こうにも攻め込んだのかもしれん。」
「それじゃ追いかけよう。」
俺の声に反対はなかった。




