カソーピア襲来1
翌朝、山小屋前でエリーンとジェイパスが夜のスケジュールで言い合いをしているので、離脱しようとすると、目の良いリムが叫んだ。
「狼煙じゃ、赤じゃ。」
赤は緊急事態だ。広場の面々に緊張が走る。
「フォイヘス、俺とリム、サイクス、サフィアス、メレンタスを乗せて、南端砦に加速で行ってくれ。ファロメイリン、加速で鍛冶場に行って非常事態を伝えろ。草原の民は全員鍛冶場に向かって、騎乗でなるべく多く、山の民を運べ。その他は計画通り臨戦態勢だ!」
みんなが激しく動きまわり始める。
1時間かからずに、南端砦に着いた。駐留しているドワーフたちはすでに街道の扉を閉めて南を見つめている。
「どうしたんだ。」
ハルカが震えている。抱きしめて落ち着かせる。
「ご、ご主人様。」
ハルカは号泣する。
「落ち着け、何が起こった。」
「朝目を醒ますと、迷宮の方で火の手が上がりました。見ると迷宮の近くで戦いが起こっており、敵が町を焼き払いつつありました。私は子供たちを連れて、ちょうど来ていた草原の民に飛び乗って避難してきました。」
「敵?敵はどんな奴らだ。」
「人間だったようです。」
「カソーピアですね。」
サイクスが冷静に言う。
「人間が空の民を攻めているというのか!わらわが焼き払ってくれる!」
リムが震えながら叫ぶ。
「ちょっとまて、空の民を攻めるなら準備があるはずだ、おそらく魔法防御は硬いぞ。まず、武力偵察だ。フォイヘス、MP薬満載にしろ。今日は一日加速だ。」
街道の扉を開けて、フォイヘスは疾走した。半時間ほど走るとサフィアスが苦しそうな表情をする。
「波動、たくさん消えていく。怖い。」
俺たちは町が一望できる丘についた、そこから見えたのは地獄だった。町は全て火災におおわれて、公爵の屋敷も例外ではなかった。周囲には数千の人間が鎧兜に身を固めて、さらに迷宮から出てきていた。
「許さん。」
リムの魔力が膨れ上がる、サイクスも同様だ。
「気持ちはわかるが、奇襲とはいえ、数百の空の民を制圧した奴らだぞ、まずは守りを固めよう。」
「あのような奴らを放置するというのか!」
「そうだな、フォイヘスの上から一撃して、何とかなりそうだったそうしよう。ダメなら砦まで戻るぞ。」
リムはサイクスにも説得され、しぶしぶ応じる。俺たちは町の西北から近づいた、町の周辺まで押し出してきた兵士たちがこちらを見つけて進んでくる。
「近くに魔法使い居ない。」
サフィアスの言葉を信じて、フォイヘスは兵士から50メートルまで近づいた。リム、サイクスが相次いで全体魔法を撃つ。しかしダメは与えるが誰も死なない。むこうは更に近づき矢が届き始めた。
「これはダメだ、一度引くぞ。」
フォイヘスは反転して、砦を目指した。砦に戻るとドワーフたちが緊張している。
「明日にはこっちにも来るぞ。今日は英気を養ってくれ。」
ドワーフたちは物資の再配置や堀や土塀の確認を始めた。
「俺は他の地に連絡に飛ぶ。お義母さんはここで指揮をお願いします。リムはフォイヘスで荘園に戻って状況を伝えてくれ。」
まず、モウル領に飛んだ。モウルの屋敷に飛び込んだ。むこうは深夜だ。
「主様?」
モウルは戦士だ。俺の異常を感じている。
「レンドル領がカソーピアに攻められてる。軍を出してくれ。」
モウルの瞳に火がついた。シュレンジュを呼んで段取りを頼む。
「シュレンジュ、悪いけどサウサに1時間以内に第一陣を出発させるように伝えて。私はタンディと加速で先に行く。」
いつもの言葉とは違うぞ。次にコンポロに飛んだ。ここの飛び先はスティリアスの寝室の隣だ。こちらは夕食後くらいの時間なので、大きな階段を降りて食堂に行くと、ロストリンやペンディウルも一緒にいた。
「ショウ様、何かありましたか?」
スティリアスも当然俺の異変に気付いている。
「レンドル領がカソーピアに攻められた。」
スティリアスがティーカップを落とし、粉々に割れる。
「すぐに援軍を出します。姉さん、迷宮を開けて下さい!」
「皆さん、ご無事ですか?」
「今のところはな、明日には盆地にも来るだろう。」
「迷宮開けは俺が付き合うから、ペンディウルは直ぐにみんなを集めろ。」
ロストリンが叫んだ。
「わかりました。時間との勝負ですね。」
この兄弟は素晴らしい。俺は次にトロンビアに飛んだ。ここはジェローリアとほぼ時差がない。昼食の時間で、ポポゼウルは執務室にいた。ドアをノックして入ると、俺の顔をみるなり、察したようだ。
「ショウ様、始まりましたな。どこですかな?」
「それが、レンドル領です。」
「な、なんと北半球ですか!」
「迷宮を乗っ取って兵を送り込んできたようです。」
「状況はどのようですか?」
「既にレンドルの町は壊滅状態です。明日には盆地にまで来るでしょう。」
「わかりました。青の渓谷は全力で支援致します。」
「いや、そこまでしていただくわけには。今もお義母さんには前線の指揮をとっていただいていますし。」
「前も申した通り、わが部族は迷宮の真理が第一です。その障害は全て排除します。サイクスももちろんそのつもりでしょう。」
俺は感謝して山小屋に戻った。
山小屋に戻ると全員が殺気だっている。そんな中でシュレンパウスが冷静に指示を出している。頼もしい。俺にはできない。肝はいかに戦力をスムーズに南端砦まで運ぶかだ。ケンタウロスは全員、迷宮から山小屋、山小屋から南端砦の輸送を担う。鍛冶場付近の200人のドワーフは山小屋まで運搬車で、そこからは徒歩で間に合いそうだ、ほぼ徹夜だが。既に主力の家族たちは騎乗で南端砦に向かっている。俺は山小屋と南端砦をワープでいききして気づいたことをシュレンパウスに伝える。南端砦に着くと、ペルカ、アカシュ、メレンタスは既に到着している。フォイヘスのおかげだ。みんな緊張している。対人戦は初めてだから、魔物を屠るのとは違う。フォイヘスはとんぼ帰りで次を拾いに行っている。
「ペルカさん、アカシュさん、前方に出て、潜んで下さい。むこうに加速持ちがいると本隊の前に偵察に来るでしょう。」
サイクスの指示でふたりが500メートルほど前の草むらに隠れる。
午後は静かに時間がたつ、ドワーフたちが設備を強化する音が響くだけだ。ときおり荘園から食料や矢や薬を運ぶケンタウロスが到着する。そんな時だ、遠くから一人の騎士が近づくのが見えた。おそらく偵察だ。加速持ちだな。ゆっくりと近づいてくる。そしてペルカたちの隠れる場所を越えた。ペルカが姿を現すと、騎士は加速で舞うように切りかかり、ペルカを切り刻んだ、思われたが、ペルカはびくともしない。物理防御だ。騎士は驚くが、再度舞うように切りかかる。むこうの方が速いのでペルカの攻撃はなかなか当たらないが、後ろからアカシュが飛び出し、騎士が驚いたところにペルカがハイスラッシュを決め、倒した。ペルカは荒い息をしている。魔物を倒した時とは違い歓声はない。堀で戦いを注視していた同胞も声が出ない。これが戦争なのだ。俺はペルカに走りよった。
「ペルカ、よくやってくれた。大丈夫か?」
俺は呆然としているペルカを抱きしめた。
「殺さないと、殺されます。」
涙を流すペルカを更にきつく抱きしめた。
騎士の装備を鑑定した。
鉄の鎧 魔法 +5 鉄の兜 魔法 +1 盾 魔法 +1
やはり魔法70%だ。これは空の民には厳しい。
少ししてリムがモウルにしがみついて到着した。やはり加速は早いな。
「偵察に行ってくる。」
敵の偵察の死体を横にして、モウルが言う。
「モウル、無理をするでないぞ。」
「お姫様大丈夫。私はヘマしない。」
私生活はヘマ多いけどな。
「気をつけて行ってくれ。」
タンディとともにモウルは南に駆けて行った。




