シンリアス海戦
俺たちは鍛冶場を後にして、山小屋にもどった。
「ジェイパスさんも立場があるので気丈にしていますが、優しい人ですね。」
サイクスが感想を言う。
「そ、そうじゃな、悪い奴ではないな。」
「それに即死回避が手に入ったのはおおきいな。」
「そうですね。51階層以降の足掛かりになりそうです。ジェイパスさんも自分からはこっちにくるのは、遠慮もあるかも知れないので、ショウさん、たまには迎えにいってあげてくださいね。」
その3日後だった。リショウム迷宮で騒ぎが起こった。蟹の大群が迷宮を逆走していると。
ゲートの番人たちがゲートから蟹が出てきたのであっけにとられていると、地上に向けて爆走したらしい。追いかけたそうだが、途中の魔物を蟹が吹き飛ばしながら地上まで出た。
そして鍛冶場に迫った。ビジェイたちが戦闘態勢をとると、蟹の間にジェイパスの顔がみえる。
「ジェイパスさん、ですか?」
「おう、ビジェイかまた来たぞ。」
「ど、どうされました。」
「戻って部下に聞くと、いくつか神器のレシピがわかったから、赤魔石で作れるのをやってみようと思ってのう。赤魔石はたくさんあるんじゃろう。」
「そうですか、ショウ様に連絡しますので、お待ちください。」
「宜しく頼む。」
俺は連絡を受け、駆け付けた。
「おう、ジェイパス、よく来た。えーと、これはなんだ。」
「ショウか、会いたかったぞ。これは使役している蟹じゃ。いま、手に入るのは水の迷宮の魔物だから、陸でも使えるのを使用しておる。昨日捕獲してきた。」
「そ、それはすごいな。何体まで使役できるの。」
「10体じゃ。おおだこは赤道で警戒させているし、乗ってきたクラゲは迷宮出る時に収めたので、蟹は8体じゃ。」
「場所とるからしまってくれ。」
「そうじゃな。」
蟹は煙のように消えた。無茶苦茶便利やな。
「それほど強くはないが、ゲート移動では問題ない。4体もいれば大丈夫じゃ。」
「赤い魔石で作れるんだな、持ってきたよ。」
俺は袋一杯の魔石を見せた。金30グラムと赤魔石で魔法攻撃を三千まで吸収できるネックレス。銀30グラムと赤魔石で物理攻撃を三千まで吸収できるネックレスができた。
「おう、これも凄いな。」
「使い捨てだから大したことはないがな。首にかけないと作動しないので、危険な時に使うがよかろう。」
「なるほど、そういう使い方なんだな。」
「ひとつ頼みがあるんじゃが。」
「なんだ、なんでも言ってみろ。呪いは順番だから俺一存はむずかしいが。」
「部下に干し魚を配ったら好評なので、たくさん頼みたい。蟹2体は、その運搬に使う。」
俺は荘園に伝令を飛ばして、そこらじゅうの干し魚をかき集めた。
ジェイパスは半日、鍛冶場でネックレス作りをしてくれた。助かる。その後、干し魚を詰めた木箱を2体の蟹に持たせて、帰っていった。ゲートまで付き合ってノームたちには蟹の集団は敵じゃないと周知した。クラゲに乗って移動するジェイパスはなんか絵になるな。ヨーロッパでみたことのあるような絵柄や。
ジェイパスは積極的にこちらに来るので、エリーンの言うように迎えに行く必要はなさそうだ。
それから毎週一度ジェイパスは蟹に乗ってやってきて、神器を作り、干し魚をかっさらって帰っていった。一種の貿易や。
南半球で動きがあった。シンリアスのオークたちがモウル領に移住することが決まり、三百人来ることになった。これも想定以上だ。移送を担当するキャリアス船長たちと相談した。モウルの屋敷に船長3人と俺、リム、エリーン、サイクスが集まった。
「今回は正攻法で行きたいと思います。」
「正攻法ですか。つまり船団で挑むということですか?」
船長たちは不安げに顔を見合わした。
「そうです。徐々にがっぷり組んで勝てるようにしていきたいので。船は6隻、5隻には60人ずつ畑の民を積んでいただきます。一隻は魔法使いを中心に敵船と交戦を行います。」
「つまり5隻をかばって1隻が戦うということですか。」
「はい、我々には強力な魔法使いがいますから、その長射程を生かして敵を撃破します。明日テストをしてみましょう。」
その夜、サウサ、メレンタスも合流した。朝からポンディアンに船長たちも一緒に乗り込み少し沖に出た。既に少し破損して廃棄予定の小舟が500メートルほど先に浮いている。
「船を沈めたら勝ちだから、全体魔法じゃない方でやってみてくれ。」
500メートルだと誰も届かない。300メートルまで近づいた。300メートルでもまだだ。200メートルまで近づいた。
「何とか届くが、これでは威力が足らん。」
リムの闇魔法が最初に届いたが、他はまだだ。テストを続けた結果分かったのはリムの闇魔法は150メートルで大きなダメを与えることができる。サウサの雷とメレンタスの火は100メートル、サイクスの氷は50メートルが、有効射程だ。それにサイクスの全体魔法だと海を凍らせて相手の進路を邪魔できることもわかった。問題は狙いだった。50メートルならほぼ当てれるが、双方揺れの多い海上では150メートルを当てるのは結構難しい。まあその距離から魔法が来たら向こうはビビッて逃げそうだけど。
そんなテストをみて船長たちは力強く言った。
「ショウ様、やりましょう!」
一か月後準備が整った。キャリアス号に魔法使い勢が乗り込んだ。他の船にはひとりずつ戦士が乗り込んだ。ペルカ、スリニー、アカシュ、シュレンモハン、ファロメイリンだ。
多くの人に見送られて、モウル領を出発した。エリーンが俺の横にいた。なんでや!
「エリーンどうして乗ってるんだ。」
「けが人が出たら即座に回復しないといけませんから。」
「大きすぎて、下に降りれないだろう。」
「皆さんのお役にたつなら、ずっと甲板で耐えます。」
「そういう訳にはいかんぞ。雨も降るし。」
「そうなったら人型で下に連れてってください。」
「お前、服ないだろ。」
「この前、ハルカに買ってきてもらいました。」
こいつは確信犯や。
2週間の航海は順調だった。夜は色々事件が起こったが。
「夜に入港します。同時に2隻が接舷できるので、すべてで6時間ほどですから、夜明けには出航できます。」
キャリアスのブリーフィングに皆が緊張する。ポンディアン号は南で敵船の襲来に備えている。5時間ほどして、東が明るくなり始めたころ、目の良いリムが声を上げた。
「来たぞ。」
キャリアスは敵方向に方向をとる。6隻が2段になってこちらに向かってくる。敵に向かっていくので、どんどん距離が近づく。前列3隻の甲板には戦闘員が並んでいるのが見えてきた。500メートルで少し左に向くように指示した。更に進むと、右に90度進路変更を指示する。リムたちが魔法攻撃を左舷から撃つ。まるで東郷平八郎だ。前列の3隻の敵はその距離での攻撃は予想していないので混乱している。右に抜ける前に左端の船に何発か命中して速度が落ち始めた。メレンタスの火魔法が命中したので、炎も見える。その一隻を残して5隻が右廻りで進むポンディアンを追い始めた。このままだと何とかなりそうだ、と思った時だ。後ろから光が船の左を通り過ぎた。
「光魔法じゃ、こちらより射程が長い。まずいぞ。」
「そんなの使える魂感じない。」
サフィアスの言葉を聞いて確信する、神器だな。
「サイクス、後ろに氷の面作って!」
サイクスが氷の全体魔法を船尾側に連発する。追跡してくる船が氷に気づいて回避を試みる。一隻はまともに突っ込んで身動きがとれない。しかし光魔法を放った一隻は、身軽にかわして、更に追跡してくる。これはまずい。俺はここまでと思い、叫んだ。
「頼むぞ、ジェイパス!」
「出番なのじゃな。」
光魔法の船の横に大渦があらわれ、クラーケンが姿を見せる。敵船は混乱に包まれる。大蟹が船腹を登りはじめる。更に絶叫が聞こえる。あの船の戦闘員は少ないようだ。光の魔法は船首から移動してクラーケンを狙うが、大蟹も乗り込んでくるのでうまくいかない。動ける4隻もその船を助けようと近寄ってくる。
「今だ。離脱しよう。」
最後の輸送船も出航していたので、俺たちはそのまま西に走り去った。
「結局、ジェイパスに頼ってしまったな。」
ジェイパスは蟹の背中に乗ってポンディアン号の甲板にあらわれた。
「ショウのためなら、問題ない。おおだこと蟹5体はやられてしまったが、また捕獲するから大丈夫じゃ。おおだこを倒すとはあの光魔法はすさまじいな。」
「ショウ様、この方は?」
キャリアスが聞く。
「ああ、海の民のボスだ。」
船員たちはひれ伏した。
「ジェイパスさん、助かりました。ありがとうございます!」
エリーンも興奮している。
「エリーン、ジェイパスを慰労してやってくれ。」
「はい、スケジュールで対応します。」
結局俺なんだな。ジェイパスは船に積んでる干し魚を箱で持って帰っていった。
船で2週間移動する間、何度か話し合いをした。
「あの攻撃は間違いなく光魔法4クラスじゃ。」
「サフィアスが感知しないということは、魔法使いではないということですね。」
サイクスが言う。
「おそらく、神器で間違いないな。」
「今回はショウさんの策で切り抜けましたが、あのままだったらこちらも大きな被害が出てましたね。」
エリーンは人型で下に降りてきてる。服小さくないか。
「良いことは7大僧正の二人目の力がわかったことだ。悪いことは海の民がこちらに味方したことがカソーピアに知られたことだな。」
「あの光魔法の威力はどれくらいなのですか?」
「そうじゃな、確かなことは分からんが、単体攻撃だと、一万はあるかも知れん。」
「2発喰らったら危ない。こっちもネックレスをもっと作らないときついな。」
しかし、船長たちは神器に互角に戦った俺たちに更に希望を抱いたようだ。
300人のオークを乗せた船は無事モウル領に到着した。




