獣人スティリアス
「主様、どこ行ってたの?」
モウルが聞いてくる。
「あ、ああ、まわりを見回っていた。なかなかいいところだな。」
「そうなの。」
モウルの視線が痛い。とりあえず、スティリアスには口留めしたがどうなんだろう。翌日もモウルやシュレンニトルが色々言ってくるが、どうも頭に入らない。今回は早めに帰ろう。それともう一つ心配なことができた。スティリアスで魅了のスロットが一杯になった。もし強い雌が出た時に対応できなくなる。これはまずい、雑魚の俺としては。
翌日の夕方荘園に戻った。俺は輸送してくれるケンタウロスに言って、荘園の手前で降ろしてもらった。そして誰にも出会わないように自分の小屋にそっと戻った。そして小屋の前を通りかかったミドリを小屋に引っ張り込んだ。ミドリの魅了を外したが、その後異常事態は起こらなかった。これは日ごろの愛情の成果だと自分を褒めて、他のオークも魅了を外した。これで3つ空きスロットができた。我ながら情けない。
翌朝、理由を付けてシェイトン島に飛んだ。特に用はないのだが、部屋のベッドで天井を見てると心が落ち着く。昼時になったので、どこかで食事をしようと部屋を出ると、ちょうどロンドビーも部屋から出てきた。
「これはショウ様、今日はどうされたのです?」
「あ、いや、ちょっと色々あって、気分転換に来ました。」
「ほう、ショウ様でもそんなことがあるんですな。昼飯いきますか?」
「そうですね。行きましょう。」
ロンドビーは海辺の飯屋に案内してくれた。眺めが良い。
「ここは魚料理が名物です。」
大きな魚を素揚げしたのを頼んだ。うまい。
「言い遅れましたが、第2陣の輸送ありがとうございました。」
「いえいえ、こちらも良い取引ができました。」
「またお願いしたいものがあるのですが。」
「何でしょうか?」
「干肉とか干魚、布などは輸入できますか?」
「どれも人間や獣人が扱ってますから、可能です。どれほどの量でしょう。」
「金1キロだと、どれくらい買えますか?」
「それだと、船満載で3回かかりますな。」
ロンドビーが笑いながら答える。
「それでは、お願いします。」
「承りました。それにしてもいつも豪快な注文ですな。」
「すいませんね。大雑把で。」
「いえいえ、それにしても今日は顔色がすぐれませんね。」
「ロンドビー船長には隠し事できませんね。色々ありまして。」
「仕事ではない悩みですな。」
「そこまでわかりますか。」
「いや、ショウ様なら仕事では悩まないでしょうから。」
「自分の欲望に負けて、反省してるんです。」
「はっはっ、私なんか毎日欲望に負けてますよ。人間は欲望が強いですからね。欲望を押さえるより、うまく付き合うのが大事じゃないでしょうか。」
「うまく付き合う、ですか。」
「人間ほど、金が欲しい、女が欲しい、権力が欲しい、と思う種族はないでしょう。たまに自分が人間であることが恥ずかしくなりますが、こればっかりは変えれませんからね。私は欲望とうまく付き合うしかないと考えています。」
「確かに他の種族は、足りると満足しますが、人間は際限なく求めるところがありますね。指摘されて気づきました。」
「私のたわごとですから、それほど重く受け止めないでください。実は昨晩も女が鉢合わせして修羅場でした。」
ロンドビーもやるな。でもこんな話ができるのは気晴らしになる。良い奴と知り合った。
「実は俺も下半身問題なんですよ。」
ふたりで大笑いした。また夜に酒場に行く約束をして俺たちは海辺の食堂を出た。
酒場にはスチャイがいた。この男は常連なんだな。
「これはショウ様、よろしければ、こちらの席にどうぞ。」
「スチャイ殿、それではお言葉に甘えます。」
今日はスチャイの横に大柄な男が座っている。
「ショウ様、こちらはホーヘリン殿です。南で商売をしており、色々世話になっております。」
「ショウと言います。ジェローリアで荘園の管理をしています。お見知りおき下さい。」
「ホーヘンリと申します。スチャイ殿にはご贔屓にしていただいております。よろしくお願いいたします。」
「ホーヘンリさんのところは、カソーピアに抵抗して、南半球で交易を続けているんですよ。」
ロンドビーが補足してくれる。
「俺も最近南半球に行くことがあるんですが、カソーピアの評判は悪いですね。」
「同じ人間として恥ずかしいと思っています。私はできるかぎり島の間で物を動かすのが仕事だと考えております。」
「ホーヘンリさんは船をお持ちなのですか?」
「いえ、同じくカソーピアに抵抗している船長たちと協力しています。」
「昔、谷の民の島をカソーピアが襲ったそうですね。」
「よくご存じですな。その時に脱出に成功した船が今でもカソーピアに抵抗しているんです。」
そうなんだ。話が繋がってきたぞ。
「一緒に働いてる谷の民は、カソーピアの襲撃の際に逃げてきた人の子孫らしいです。」
「そんな話は南半球ではあちらこちらにあります。みんな被害を受けています。」
「それでもカソーピアは安泰なのですか?」
「南半球には強力な政府を持つ島がないですからね。なかなか団結して対抗することはむつかしいです。」
「俺も微力ながらお手伝いさせてください。」
「それはありがたい。空の民の支援がいただければ心強いです。」
実際は多国籍連合なんだが。空の民はひとりだし。
「ホーヘンリさんのところで穀物などの物資を提供していただくことは可能でしょうか?」
「私の商流は南半球なのですが。」
「供給先はペイニャです。」
「森の民の大国ですな。ジェローリア島のショウ様がどうしてですか?」
「実はペイニャにも荘園を持つことになりまして。」
ロンドビー、スチャイ、ホーヘンリが顔を見合わせる。
「それが本当ならば凄いことですな。」
「ホーヘンリさん、ショウ様は色々規格外なのです。このことはどうか内密に。」
ロンドビーの言葉にホーヘンリは笑いながら答える。
「こんな話言いふらしたら、ホーヘンリはどうにかなったと噂されます。それでは次回はこちらに船長も連れてきますので、詳しく話をしましょう。無論内密で。」
その後遅くまで、俺の欲望話などで会話は盛り上がった。
翌朝、荘園の自分の部屋に戻った。おやじ4人の話で俺の心は決まった、自首することに。
でもリムだけだと、死刑になるかもしれないので、エリーンの同席は必須だな。まずエリーンを探した。そうすると一番会いたくないサフィアスと出会った。
「主様?どうしたの?何か変。」
こいつは騙せない。一番やっかいだ。俺は聞こえないふりして走り去った。ようやくエリーンを見つけた。
「ちょっと、話がしたいんだが。」
交番に自首する犯人のような顔をしてるに違いない。
「はい、いいですが、顔色悪いですよ。病気ですか?」
「いや、これから具合が悪くなるかもしれないが。」
エリーンは顔をかしげる。
「リムを呼んで俺の小屋に来てくれ。」
俺が小屋で待っているとリムとエリーンが入ってきた。そしてなぜかサイクスもいる。なんでや!
「大事そうな話なので、サイクスさんにも来ていただきました。」
「そ、そうか、まあ座って。」
俺は無い知恵を絞って、いかにカソーピアが邪悪か。それに対抗するために国力を上げる必要がある。そのために荘園建設を加速する必要がある。船を作るために獣人を仲間にする必要がある。ということに弁舌をふるった。3人はいちいちもっともだ、という反応だ。ここまでは平穏に進んでいる。
「そこでだ、、、」
予想通りその後は修羅場が待っていた。
エリーンとサイクスが守ってくれたので死刑は免れたが、重傷だ。エリーンもすぐには回復魔法をかけてくれない。ちょっと痛い目にあった方が良いとかで。
「まず、その娘をこちらに連れてきてくださいね。心配しなくていいですよ。悪いのはショウさんで、娘に罪はないですから。家族としてみんなに紹介しないといけませんから。」
エリーンは嬉しそうに言う。早く回復して!
「モウルさんのいとこもいるんですよね。それと谷の民も一族で動くので、その娘の兄弟やいとこもいるんじゃないですか。みんなまとめて覚醒して戦力化しましょう。」
サイクスも淡々と実務的に話を進める。さすがベテランだ。横でリムが倒れているが。
その夜、エリーンとサフィアスに護送されるようにペイニャに戻った。サイクスがサフィアスを連れて行くように主張したからだ。
「主様、怒られたの?」
サフィアスが淡々と言う。
「お、おお、そうだな。」
「どうして。」
また傷をえぐる奴がいる。
「ちょっとな。」
「ちょっと何?」
こんな会話をしながら迷宮を行くのは地獄だ。
ペイニャにつくと、多くの人々が建設作業に取り組んでいる。地理的にはジェローリアとペイニャは裏側、つまり地球だと日本とブラジルのような関係になる。昼と夜が逆だ。
モウルとシュレンジュが聞きつけて出てきた。
「主様、怒られた。」
サフィアスが口を開く。
「主様、何したの~。」
当分この会話に悩まされそうだ。
「シュレンジュ、スティリアスを呼んで来てください。」
エリーンに応えて、シュレンジュが走り去る。シュレンジュは既にみんなの感じから全容を把握しているようだ。さすがだ。スティリアスが来て6人でモウルの仮の屋敷に入った。
「あのう。」
スティリアスは不安そうにそれぞれ種族の異なる5人を見ている。突然サフィアスがスティリアスに抱きついた。どうしたんだ。
「魂の波動が強くて、綺麗。お姫様に似てる。」
みんながあっけにとられている。
「すごく綺麗な人ですね。私はエリーンと言います。よろしくお願いします。スティリアスさん。今抱きついているのは霧の民のサフィアスです。」
「よろしくです。」
サフィアスは抱きつきながらそれだけ言う。
「よ、よろしくお願いいたします。谷の民のスティリアスと申します。」
「緊張しなくていいですよ。私たちはあなたを家族として歓迎します。」
「え、家族として、どういうことでしょうか?」
「モウル、シュレンジュ、サフィアスそして私はショウさんの妻なのです。そしてそこにあなたも加わったということです。」
「え、えっ~!!」
スティリアスの叫びは屋敷の外まで響いてるだろう。そうなるわな。ごめん。
「あ、あの、みなさん全員ですか?」
「明日ジェローリアに戻れば、全員をご紹介します。」
「ま、まだほかにも!」
「まだ、半分ですよ。」
「あの、わたしはショウ様の妻などという、だいそれた望みはありません。ただ、ショウ様をお慰めできればと。」
「それは、ショウ様が人間だから妻になるのは嫌だということですか?」
「い、いえ、そういうことではありません。わたしのような谷の民など、ふさわしくないと思います。」
「スティリアスさん、私も畑の民ですが、ご主人様に拾っていただき、全力でお仕えしています。あなたのような美しくて、その上サフィアスさんが認める魂をお持ちの方がふさわしくないなんて誰も思いません。」
シュレンジュの言葉にスティリアスは涙ぐんで俺の方を見る。やっぱりかわいいわ。俺が笑顔で頷くと。
「わかりました。私も全身全霊でショウ様にお仕えいたします。皆様宜しくおねがいいたします。」
その夜はエリーンの仕切りで俺とスティリアスは二人きりの夜になった。モウルとサフィアスが文句を言ったが却下された。
「スティリアス、すまないな。驚かせて。」
「いえ、私は幸せです。なんなりと申しつけください。聞いてもよろしいでしょうか?」
「うん、なんだ?」
「ショウ様は、霧の民や畑の民はともかく、草原の民や森の民とも夫婦になれるのですか?」
「ああ、そのことか、おれには妻を人間に一時的に変えることができるんだが。えっ、ちょっとまって、エリーンはともかく、どうしてモウルがダメだと知ってるの?」
「それはすごい魔法ですね。森の民の件ですが、じつは昔のカソーピアの侵攻の時に人間たちが森の民や谷の民を乱暴しようとして、森の民はできなかったと聞いたことがあって。」
ほんとにカソーピアの奴ら許せんな。




