キャッツアイの誘惑
その数日後にはロンドビーが第2陣のオークを運んできた。今度は俺が指揮をしなくてもトリニースが仕切って問題なく受け入れが完了した。グッジョブだ。
大きなイベントを乗り切って、主だったものが荘園に戻ってきた。荘園のかじ取りをシュレンジュからシュレンパウスに変更するタイミングで、町や鍛冶場からもリーダーを呼んで今後の計画を棚卸しすることにした。山小屋まえの広場のテーブルは大きくなって、10人座ることのできるのが4つに増えてる。
「これから母はペイニャとこちらを行き来するので、こちらの運営は私が担当となります。よろしくお願いします。」
シュレンパウスが緊張して話すが、みんなが拍手してすこし肩の力が抜ける。
「それではまず、課題表を読み上げますので、意見のある方はお願いします。」
・鍛冶場 鍛冶作業場の建設 目標 2か月後 並行して鉄、石炭の採取
・農業 農地の開拓 麦畑、とうもろこし畑、野菜畑 目標 半年後
・食料 穀物在庫 1年半 干し肉 在庫切れ近い
・建築 住居建築完了 村に予備の建物準備予定 100人分 目標 半年後
・調薬 月産 MP2 2000本 その他は店用
・迷宮関係 46階層以降の準備 未定 30階層の建築関係 完了
「穀物は余裕があるので、野菜畑を優先して拡張します。ただ、干し肉はあまり残っていません。」
ミドリが補足する。
「干し肉は買えるのか?」
「この島では難しいですが、獣人の島は輸出してます。」
町から帰ってきてるハルカが商人情報を披露する。
「それなら、またロンドビー船長に依頼しておくよ。」
「ついでに布もお願いします。人が増えたので衣装の消耗が増えてます。」
「わかった、それも頼んでおく。」
「鍛冶場のほうは、素材はあるので、30人分目指して、防具の製作は続けます。もう20人分はあるので、あと2か月あればできます。」
「黄色魔石は足りてるの?」
「40階層遠征を2回くらいは必要かもしれません。」
「エリーンそれは段取りして。」
「はい。40階層だと行ける人が多いので大丈夫だと思います。」
「調薬でMP2月産2000するには、30階層よりちょっと下で赤魔石集めもお願いします。」
「そうですね。そこだと更にハードルが低いので、当番制で組みます。」
「私は居候なので、何時でもいきますよ。」
サイクスが言う。
「それは助かります。」
「迷宮については、今の戦力でも50までは行けそうですが、人も増えたので、少し荘園充実に集中するのも良いかと思います。みんなが情報を集めに行きましたが、どれも断片的でもう少し整理が必要です。」
サイクスの発言は重い。みんな頷く。
「そうしましょう。」
俺も賛成だ。ペイニャの事も気になるしな。それともうひとつ。
「ちょっといいかな、初めて言うんだけど、船は造れるのかな?」
俺がぶっこんだので、みんな驚いている。少しして町から戻っているメイガヘリスが口を開いた。
「あの、船の設計図は見たことが、あります。」
「そ、それじゃ造れるのか?」
「ちょっと親方とも話したのですが、技巧2があれば船つくりを指揮できます。しかしながら個々の作業がむずかしいので、多くの技工を抱えないと進まないだろうという結論です。」
「どれくらい、人が要りそうなの?」
「カティーサ号クラスだと、技巧持ち10人、ふつうの職人20人で一年ですね。」
「職人はともかく、技巧持ち10人はハードル高いな。」
「人間や獣人では普通の特技のようですが、ここにはいませんからね。」
「ペイニャの使用人は獣人が多いから、なんとかなるかも。」
モウルがいつものテンションで口を挟む。
「それなら人さえ集まれば、200万コルくらいあればできそうだな。まだまだ先だけど。」
「どうしてショウは船なんて言い出したのじゃ?」
「自前の船があれば物資の移動なんかも楽になるだろ。それと、」
「それと、なんじゃ。」
「いや、ここでは人間が横暴だからな、一泡吹かせてやりたい。」
「人間のショウがそれを言うとは面白いのう。でもわらわはショウを応援するぞ。」
一同頷いてくれた。ありがたい。
「ところでポポゼウル殿の支援のおかげで30階層の建物もできたようですが、このまま支援していただいて良いのでしょうか?これから次に行くまでは時間がかかりそうですが。」
俺はサイクスに聞いた。
「それは継続して支援させていただくつもりですよ。そんな短期で成果が出るとは父も思っていませんので。」
いつもこのお義母さんははっきりしてるな。だから夫婦喧嘩が派手なんだ、俺のせいだけど。
翌日モウルたちとショウムに向かった。
地上に出ると、崖の上からエルフや獣人が忙しく働いているのが見えた。崖を降りるとシュレンニトルが建築を差配している。
「ショウ様、モウル様、お帰りなさい。一昨日約束通り50人来てくれました。第2陣でもう20人来てくれます。」
ドワーフ10人とケンタウロス5人が荘園からも手伝いに行ってるので、結構な人数が働いている。そうしているとエルフの一人がモウルに気づいた。
「モウル!いや、今はモウル様ね。手伝いに来たわよ。凄かったわね~、もう誰もあんな記録出せないよ。どこでもその話ばかりだよ。」
「あっ、サウサ、おひさ~、ありがとね~。」
なんだこの会話は。
「サウサはいとこなの。こちらは私の主様。」
「モウル、おじさまはそれモウルに言わせないようにって、言ってたよ。」
それは妥当な判断だ。
「あ、そうだった!じゃあ、ショウ様で。」
じゃあじゃないだろ!しっかりしてくれよ。
「フェインとタンディも来てるんだよ。」
「あ、そうなのね。嬉しい~。」
どうしてこう緊張感ない会話になるのかな。
「あ、あの、荘園の管理をしてるショウです。」
「お噂はおじさまから聞いております。よろしくお願いします。」
どんな噂か気になるな。
「新しい領地を、ぶっちぎり新記録のモウルが造るというので、若い人がたくさん手をあげました。私も楽しみです。」
「そうなんですね。森の民はあまり他の種族とは交流しないと聞いていたので。」
「機会は少ないですが、そんなことありませんよ。人間以外は。あっ、失礼しました。」
「いえいえ、俺もカソーピアの話聞いて腹が立ちます。」
「おじさまから聞いているとおりで面白い人ですね。」
「サウサ、主様に色目だめよ。色々怒られる。」
それは確かだな。そのあと同じく、いとこのフェインとタンディが合流して、俺は女子高生の会話に長々と付き合わされた。手持ち無沙汰で、まわりをみると獣人がてきぱきと働いている。これが間違いの始まりだった。一人の獣人が目についた。文字通りのキャッツアイだ。昔タイに行った時のCAがこれも素晴らしいキャッツアイでずっと見とれたことがあるが、それ以来の衝撃だ。茶色の猫耳、緑の瞳、ぷりぷりの唇、黒い尻尾。これはあかん。
HP 90 MP 80 知力 80 体力 90 腕力 130 素早さ 130
幸運 90 スキル なし 特技 なし 谷の民 レベル 1
B 86 W 52 W 88 身長 160 体重 45 年齢 16 雌
戦闘性向 180 魔法性向 30 支援性向 30 特殊性向 180
久しぶりに鑑定4使った。特殊性向が180ってサフィアス並みや。凄い。俺はモウルといとこたちの井戸端会議からふらふらと離脱して、吸い寄せられるようにその獣人に近づいた。
「やあ、頑張ってるね。」
「あ、人間ですか?人間とは喋らないように言われてます。」
なんかゴキブリ並みの扱いやな。心が折れる、しかしここで引き下がるわけにはいかない。
俺は最後のスロットを使って魅了をかけた。我ながら最低や。
「俺はショウというんだ。」
「えっ、今回の記録を出したパテのオーナーの方ですか?」
「ああ、そうだな。」
厳密にはオーナーではないけど、ここは乗っておこう。
「普通の人間とは違うと聞いています。失礼しました。私はスティリアスと言います。フォロス家でお世話になっていますが、お嬢様の貴族叙勲でこちらに移るように言われてきました。」
「それは大変だったね。住むとことか、食事は大丈夫。」
「はい食事はしっかりいただいてますし、寝るのは何処でも大丈夫です。」
「フォロス家の使用人は谷の民が多いの?」
「私が生まれる前に、故郷の島にカソーピアが攻め込んで、その時多くの者が故郷からこちらに逃げ込んだ、と聞いています。なのでペイニャには谷の民が多くいます。」
「それは大変だったな。俺も人間のひとりとして謝罪したい。」
「いえ、ショウ様は凄い人だと聞いております。カソーピアの人間とは違います。」
「どうやってペイニャに逃げてきたの?」
「当時は故郷の島でも船を作っていたので、何隻もの船で逃げてきたようです。」
当時のカソーピアには船を独占する意図もあったかもしれないな。
スティリアスがサフィアス並みの異能だとか、獣人を仲間にすると船建造に近づくとか、理由はいくつでも挙げられる。しかし、あえて言う。俺は欲望に負けた。リムごめん!




