モウルの憂鬱
「ご主人様、お帰りなさいませ。」
なぜか夜中なのに、俺が帰ったのを察知して誰かくる。隠しカメラあるのか。
「おう、シュレンジュとミドリか。」
ドアを開けると二人がいた。
「二人で農地開発の打ち合わせをしていると、ご主人様の小屋から音がしたので。」
「それは遅くまでご苦労様だな。まあ、はいれ。」
俺は他に誰もいないのをしっかり確認して部屋にもどった。
翌朝、朝食をみんなで食べながら、シェイトン島の話を披露した。きれいなお姉さんが酒場にたくさんいたことを除いて。
「6頭立ての牛車があるんですね。使えれば輸送力があがりますね。」
エリーンが興味を示す。
「牛車を使うのは谷の民みたいだね。」
「谷の民には放牧の特技があるからじゃろう。」
リムが知ったように言う。
「家族たちは輸送で使うより、今は農地開発で働くほうが効率が良いですから。」
「力も強くて、物も運べるので、森林伐採だと畑の民5人分くらいの働きしてもらえるので、ほんとにそうですね。」
ミドリがエリーンに相槌をうつ。
「落ち着いたら牛を入れよう。」
そんな話をしているところに、モウルが実家のペイニャ島から帰ってきた。
「おう、モウルお帰り。どうだった?」
「調薬の情報色々仕入れてきたよ。疲れた。」
相変わらずカジュアルな感じだ。
「家族はみんな元気だったか?」
少し間を置いてモウルが答える。
「うん、まあまあ。」
えっ、何かあるのかな。鈍感な俺でも感じるんだから、一同はもっと違和感を覚えたはずだ。みんながいる場でそれ以上訊くのは野暮なので、その場はスルーした。その後、リムとエリーンが間を置かずモウルを詰めて、話を聞き出したようだ。こいつら怖いな。話を要約すると。
ペイニャ島は南半球でも有数の大きな島でエルフの故郷だ。森が島の80%を占めている。
エルフの政治は有力な貴族が合議で行っている。王が権威は持っているが実質的には政治には関わらない。モウルの実家も有力な貴族のひとつだ。
エルフたちは無用な争いを避けるために、数百年にわたって伝統を守っている。それは10年に一度新たな所領を求めるものが競技をおこない、上位10位に入ったものが所領を得るというものだ。エルフの島は千キロ四方ほどあるが、現在所領として統治されているのはその3割ほどで、競技の結果手に入る所領は20キロ四方。つまり10年に一度0.4%しか島の所領は増えない。その上所領の管理が悪いと取り上げられるので、実質増える所領はそれ以下だ。なかなかサステナブルや。
モウルの兄も有力貴族の跡継ぎとしてこの競技に参加しようとしていたが、問題が起こった。この競技に参加するリーダーは貴族である必要はないがエルフでなければならない。
その上、出来の悪いリーダーを支えるために強力な助っ人を雇うような弊害を避けるために、リーダーだけで事前競技をパスしなければいけない。モウルの兄はこの事前競技をパスできなかったのだ。両親は領地を増やすことにはそれほどこだわりはなかったが、兄が事前競技にパスできなかったことには失望した。有力貴族として面目がつぶれたということらしい。
ちょうど実家に戻った時が事前競技期間だった。その結果を受け取った直後で、家族が暗い状況だったらしい。期待されていない自分が出しゃばってはいけない、と思いつつ、腕試しを兼ねて事前競技に内緒で出たらパスしてしまったらしい。
その日の夕方にはトロンビアからサフィアスとメレンタスも戻ってきた。なぜかサイクスも付いてきてる!
「えーと、お義母さん、良くいらっしゃいました。」
「あの、お母さんが新たなスキル手に入れたので、お父さんが浮気だと怒って、今夫婦喧嘩中です。」
メレンタスが言う。お前の嘘のせいやろ、反省せんか!
「そういうことなので、すこしお世話になります。」
「サ、サイクス殿、歓迎しますぞ。ゆっくりしてくだされ。」
リムも迷宮攻略の恩人なので、無下にはできず一応歓迎する。本心はみえみえやけど。
ちょうど、この世界に詳しいノームも戻ったので、みんなでモウルの相談に乗った。
「ところでリーダーの事前競技って何だったんだ?」
「30階層までのタイムアタック、一人でいくの。後ろは運営がいるので考えなくてよかった。加速で魔物スルーした。」
そりゃ、パスするわな。
「それで何を悩んでるんだ。俺たちも手伝うからちゃちゃと行けばいいだろ。」
「私はここに居たいから、あまり領地経営に興味ない。それにふつう新領地は実家の陸続きを指定するの。実家の領地は迷宮から遠いので、ここから片道で1週間以上かかる。」
確かにぽつんと森林もらってもロジだけで大変だもんな、そりゃ実家のそばになるわな。
「それじゃ、経営を兄貴にまかせたらどうなんだ?」
「それは兄さんのプライドが許さないと思うの。」
少しの間沈黙が続いたが、サイクスが口を開いた。
「よろしいでしょうか。」
「ぜ、ぜひご意見ください。」
「迷宮の分布は島の面積にほぼ比例するとされています。ペイニャ島は大きい島なのに3つしか迷宮が見つかっていません。ふつうの密度だと、ペイニャ島にはあと5つ以上迷宮があってもおかしくありません。」
ここでサイクスは一息ついた。夫婦げんかで疲れるのかな。
「考えられるのは森の民は、山には興味が無いので、未開発の山の地区に迷宮の多くが眠っているということです。しかしそんな山の中ではロジがついてきません。もし海岸線の山地に迷宮があれば、それを攻略すれば移動もできますし、港を作って船で物資を運ぶこともできます。」
これは良い考えだが、
「確かにそのとおりですね。しかしそのような都合の良い場所があるでしょうか。」
「それは探してみないとわかりません。運よく地上に魔物が出てきてればみつかるでしょうが、今のサフィアスなら地下の魔物の波動も感じることができるかもしれません。」
そういう手があるのか。
「モウル、ペイニャ島の詳しい地図はあるか?」
「予選通過者に配られてるのがあるよ。」
モウルは1メートル四方の地図を取り出した。
「西北の海岸線は山に近いな。」
「そこだと、西の迷宮から出たら、一日で行ける。」
「西の迷宮から出るのに入国チェックはあるの?」
「今は所領競技の期間だから、私が居れば入れる。でも上位種は所領競技に参加できないから、お姫様は入れない。」
「それで、競技はいつあるの?」
「来月末、31階層から40階層までのタイムアタック。」




