人間の島
すでにエリーンの家族たちが大量の物資を監視所にピストン輸送している。オーク達も予定を変えて20人が監視所で建設作業に取り組んでいる。ペルカは無い頭を絞って鍛冶村の青写真を描いている。これはちょっと心配だが。後でビジェイが訂正してくれるだろう。
そんな中、ロンドビー船長との約束に日になった。
「それじゃ、ちょっと行ってくるわ。」
「ひとりじゃから気を付けてな。弱いんだからのう。」
リム、一言多いわ。確かに雑魚だが。
「何かあったらシェイトン島に攻め込みますからご安心を。」
エリーン、なんかある前提なのね。
「そうですね。像胴をたてましょう。」
シュレンジュ、まだ死んでないぞ。
いつものように船長室のクローゼットに飛んだ。今回ロンドビー船長は寝ずにソファーにいた。
「ようこそカティーサ号へ。お待ちしておりました。」
「深夜まで、お待ちいただきすいません。」
「いえ、早朝には着きますから、今晩は寝ません。」
「船長は大変ですね。」
「ショウ様のご活躍に比べたら些細な事です。少しシェイトン島についてお話します。」
ロンドビー船長の話をまとめるとこうだった。
・シェイトン島はもともとゴブリン(と思われる)が支配する島だったが、大きな船が発明されてすぐに人間に滅ぼされた。
・人間たちは味を占めて、シェイトン島から別の種族の島に攻め込んだが、その種族の逆鱗にふれて逆にほぼ皆殺しにあった。
・荒廃したシェイトン島に50年くらい前から、また人間が住みだして、今度は平和的に商売をして現在の姿になっている。
・力のある商人たちが合議で政治を行って、他国への侵略はしないのが国是になっている。
「シェイトン島を滅ぼした種族とは何ですか?」
「それが、すべてが灰になって記録が無くて、生存者も50年前には全くいなかったようです。おそらく上位種のひとつでしょう。」
「町はいくつくらいあるのですか。」
「海沿いに大きな町が3つあります。内陸は迷宮の近くに小さい町が3つですね。ここの人間は迷宮を商売用にしか考えていないので、ほぼ30階層以下は探索されていません。ですからレベルも30で頭打ちです。」
「シェイトン島では何を生産してるんですか?」
「日用品を生産して輸出しています。服や食器や家具なんかですね。また穀物も保管の利くものを作っているので、備蓄は多いです。それを食料不足の島には輸出しています。後は安値で生産地から買って、高値で不足してるところに売るなんて商売が盛んです。」
「だから情報が大事なんですね。」
「情報の見極めが大事です。」
翌朝早く、船は港に着いた。港には10隻ほどの船が停泊している。特に調べられることもなく上陸した。コンペペの町というらしい。妖精族の町とは違い、色々な臭いがする。やはり人間の町だ。
「少し歩きますか?」
「お願いします。あまり大きな町ではないのですね。」
木造の2階建てが並んでいる。江戸時代の街道町みたいや。
「船乗りや商人が多いのですか、みんな少し郊外に住んでいるので、ここは商店と飲食店ばかりです。」
「やはり酒場は多いのでしょうね。」
「他の種族とは比較になりませんな。しかし情報は酒場で手に入るというのも事実です。」
「それなら夜に少しのぞいてみましょう。その前に少し商売の話をよろしいですか。」
「それでは私の事務所にどうぞ。」
ロンドビーの事務所は大きな通りの立派な建物の一室だ。
「なかなか良いところですね。」
「小さい部屋ですが気に入っています。」
「どうぞ。」
ロンドビーがカップをテーブルに置いた。
「この匂いは。」
「ほう、お分かりですか。」
「こちらでコーヒーは初めてです。」
「初めてでもコーヒーとお分かりになるんですね。ほんとにショウ様は変わった方だ。」
俺は答えに詰まったが、ロンドビーは笑っている。
「それでは商売の話を伺いましょう。」
「じつは、大規模な鍛冶場を作ろうと思っています。防具や武具の需給について教えていただきたい。」
「防具ですか。今は魔法防御の鎧などの価格が上がっています。どこかで中層を攻略しようとする集団があるのでしょうね。+5の魔法防御だと百万コル以上しますね。」
原価40万コルだから、それなりに利益がでそうだな。
「防具をロンドビーさんのところで扱っていただくことは可能でしょうか?」
「私が直接客に売るわけではないの、仲介はできます。+5の魔法防御鎧だと70万コルは出せると思います。数は揃いますか?」
「生産できる数と希望卸値を整理してご連絡します。」
「それはありがたい。お待ちしています。」
「今後は薬なども作ろうと思っているのですが、こちらはどうですか?」
「薬は森の民のギルドが力を持っているので、卸は少しむずかしいですね。直売店を持てば問題ないと思います。」
「直営店ですか。それだと品揃えが必要ですな。」
「人間の島ならそれほど上等な薬は要らないですね。中層以上を目指すパテはすくないですから。」
「なるほど、参考になります。ところでこちらの町で部屋をかりることはできますか?移動するのに船長の船というのもご迷惑をおかけしますから。」
「私は構いませんが、小さい部屋なら年間六千コル出せばあります。この建物でも裏側の部屋はいくつか空いていたような気がします。」
「それは、都合がいいですね。契約はできますか。」
「私のほうで、大家に話を付けておきます。支払いもしておきましょうか。」
「それはありがたい。お願いします。」
「それでは、酒場に行くまで、宿で休まれますか?」
ロンドビーに宿まで案内してもらい、夕方また会うことにした。本来そこで少し眠ればよいのだが、町をゆっくり歩きたいので、下北沢に戻り6時間ほど寝た。こんな使い方もできるのは便利だ。体も楽になったので、コンペペの町を散策した。町は大きいといっても1時間もあれば見れる大きさだ。北には住宅が点在している。西には草原が広がっている。よく見ると牛が放牧されている、結構いるな。牛を眺めていると、牛の間を走り回っている姿がみえる、獣人だな。町の南は畑が広がっている。こっちではオーク達が働いている。
農道のようなところには牛何頭かいる。これは牛車だな、牛6頭立てで、大きな運搬車を曳いている。これはたくさん運べそうだ。そんなことをしているうちに夕方になったのでロンドビーの事務所に戻った。
「町のまわりもしっかり開発されてますね。」
「この町は入植から40年くらいなので、先人が頑張ったのでしょう。」
「輸送は主に牛車を使ってるんですか。」
「特技ある獣人が扱うと、一度の多くの牛車を使えるので、陸路では牛車です。」
なるほど、牛車いいな。ロンドビーが既に契約を終えて、彼の事務所の斜め前の部屋を確保してくれていた。
「家具はついているので、すぐに使えます。」
鍵を受け取り中を見たところ質素だが、きれいな部屋だ。マーカーをここにセットしなおす。
「それでは、酒場に行ってみましょうか。ちょっと良いところにいきます。そこだと町の有力者もいますから。」
有楽町の飲み屋とか、イギリスのパブをイメージしていたが、もうちょっと豪華な店だ。きれいなお姉さんが給仕している。
「むこうに、スチャイ様がいますね。ご紹介します。スチャイ様はこの町を代表する商人です。この前の穀物もスチャイ様から仕入れました。」
「スチャイ様、こちらはジェローリアからお越しになったショウ様です。」
「ショウと言います。お見知りおきください。」
「おお、これはジェローリアからですか、ようこそおいでになりました。スチャイと申します。よろしくお願いします。」
スチャイは小柄だが眼光鋭い、いかにも抜け目のない商人だ。
「それでは、この前穀物を購入いただいたのも、ショウ様でしょうか?」
「はい、助かっております。」
「いえいえ、いつでもご用命ください。今回はどういうことでいらしたのですか?」
俺とロンドビーはスチャイの席に誘われて腰を据えることになった。
「半分観光、半分商売です。」
「ショウ様は商人なのですか?」
「いえ、ジェローリアで荘園を管理しております。片手間で商売を少し。」
「そうですか、これからもごひいきにお願いします。」
「穀物は引き続き売っていただけますか?」
「はい、在庫は十分あるので、いつでもご用命ください。」
「それでは、ロンドビー船長経由でまたお願いします。」
「カティーサ号とロンドビー船長は最も信頼できますから、良い選択をされましたな。」
俺はスチャイからこの町の商売について色々聞いて、収穫が多かった。夜が更けるまで酒場で時間を過ごし俺とロンドビーは店を出た。
「今回はお世話になりました。また一月後くらいに来ます。」
「そうですね。次の畑の民移送の段取りもありますから、お待ちしております。」
恐らく、ロンドビーはスチャイに会わせたかったのだろう。人脈も大事だからな。
俺は借りた部屋から下北沢経由で荘園に戻った。




