穀物増産
メイガヘリスの作業室を見て、エリーンが声を上げた。
「凄いですね、メイガヘリスこんなのを使いこなすのね。」
メイガロマトンも帰ってきたので、メイガリアンが異動で荘園に戻って、ハルカという人間の雌が後任で来た、というシナリオをみんなで確認した。
「人型の時は母さんはハルカなんですね。間違えて呼ばないようにしないと。」
メイガマトロンは楽しそうに言ったが、メイガリアンは浮かない顔をしている。耐えてくれ、煩悩に。
みんなでいつもの質素な昼食のあと、エリーンは俺とメイガリアンを乗せて港に向かった。町から2キロほどだ。これだと大きな船だと隠密行動はむずかしい。エリーンは二人だけじゃないのでいたずらされなくて、安心して走る、すこし残念そうに見えるのは俺の錯覚か?
「昔は栄えた港なんでしょうね、小屋がいっぱい立っています。」
「そうだな、いまはみんな廃墟になってるけどな。陸揚げした穀物は一日では北の盆地まで運べないだろうからこの廃墟に隠すことになる。適当な小屋を探そう。」
俺たちは小舟が着岸する場所や、道の状態を確認しながら無人の港を歩き回った。
それから2週間後にトロンビアから来たケンタウロスの助っ人10人や、オーク達や、力仕事が得意なドワーフ3人もその日だけは鍛冶を休んで、夜の港に集まった。その夜は月が二つとも出ておらず、俺なんかは鼻をつままれてもわからないような漆黒だ。港は町の西だったが、町の東にはモウルがリムと一緒に遠く離れて待機していた。もし町の人間に見つかりそうな事態になったら、リムが火魔法で廃屋に火をつけて、騒ぎを起こし、人の目がそっちに行くようにする手はずだった。放火したあとはモウルが加速を連発してリムを抱えて逃げる算段だ。使わないに越したことはないんだが。
「そろそろ真夜中ですね。」
エリーンが小声で俺に呟いた。俺が海に向かって懐中電灯を三回点滅させる。俺より目の良い、ノームたちは海の方に意識を集中している。
「ご主人様、見えました!」
メレンタスが小さく叫ぶ。沖からも小さな光が見えたようだ。港にいる仲間たちから小さなどよめきが巻き起こる。
「みんな、静かにな、準備してくれ。」
ケンタウロスたちは運搬車を更に岸壁に近いところに動かし、俺は定期的に懐中電灯の点滅を繰り返した。三十分ほどして暗い海の中から小舟のシルエットが浮かび上がった。4隻の小舟が音もなく岸壁に接岸した。一人の男が小舟から岸壁をよじ登った。
「ショウ様、お待たせしました。」
「ロンドビー船長、ようこそジェローリアに。歓迎いたします。」
「あの懐中電灯は素晴らしいですな。こんな使い方もできるとは。」
ロンドビーの合図で小舟から次々と大きな袋が岸壁に投げ上げられる。船員にもドワーフがいるようだ。一袋が50キロもある。俺には持てない。運搬車に10袋ずつ、ペルカ兄弟やオーク達が次々と積み込み、4隻の船の袋は10台の運搬車に収まった。ケンタウロス10人はサフィアスに先導されて、盆地南端の倉庫に出発した。小舟4隻は岸壁を離れ後3往復して更に300の袋を陸揚げした。ドワーフやオーク達がその袋を港の使われていない小屋に運び込んだ。5時間ほどですべての作業が終了する。
「おかげさまで、順調に行きました。ありがとうございます。」
「いえいえ、ショウ様のところの山の民はすごいですな。あの袋を一度に三つも軽々と運んでいましたね。」
「彼らにはいつも助けられてます。ところで、この前の畑の民の件ですが。お話に乗って、今回募集のためにシェイトンに面接担当を連れて帰っていただけますでしょうか?」
「おう、それは話が早いですな。帰りは空船ですから、問題ありません。何人ですか?」
「ここにいる、ミドリとメレンタスです。」
「人間と霧の民ですね。承りました。確かにお預かりいたします。」
ファロンビスはミドリという名前で人型では通すことにした。
「費用はおいくらお支払いすれば良いでしょうか?」
「いや、これは畑の民の輸送の先行投資ですから、結構です。むこうの滞在もお任せください。」
「そうですか、助かります。よろしくお願いします。」
まだ、真っ暗なうちにロンドビーは二人を乗せて沖のカティーサ号へと戻って行った。
「わらわの出番がなかったのじゃ。」
朝まで待ちぼうけのリムがねぼけまなこで翌日倉庫まで戻って文句を言ってる。
「いやいや、出番が無くてよかったんだよ。」
「そうですよ、お嬢様が登場するようでは、廻りがしっかりしてないということですからね。」
「そ、そういうもんかのう。」
その後三日かけてケンタウロスたちが盆地入り口まですべての穀物を運び込んだ。シュレンジュはケンタウロスたちにそれぞれ銅貨20枚を礼として支払い、俺からはポポゼウルに+5,+5のチェインメイルを贈った。ケンタウロスたちは感謝して帰って行った。
「後はモウルと畑の民二人くらいでにここで倉庫番をしてもらって、こっちにいる草原の民にゆっくり荘園まで運んでもらえばいいな。」
そんなことをして過ごすなかで、ドワーフ3兄妹の防具製作もほぼ完了した。製作を進めてわかったことがある。+1、+2ができるところでは4割の確率で+2ができる。+3、+4ができるところでは2割の確率で+4ができる。+5、+6ができるところでは1割の確率で+6ができる、ということだ。なので、魔法、物理とも+6の鎧のガチャ確率は百分の1ということだ。上等なSSR並みや。今回の大量製作の中でも一つしかできなかった。当初は+6,+6ができるまで何度も鍛冶を繰り返そうとしていたが、盾や兜に+2を付けたりすることで、少なくとは遠征予定者全員に魔法防御を合わせて90%までは配ることができた。物理防御も最低70%はある。
「こんなの俺が使って良いのか?」
「ショウさんはステータスがダメですから、使わないとどうにもならないでしょう。」
エリーンが俺の迷宮ライフをまた否定した。俺を思ってのことだが心が折れる。俺は+6,+6の鎧に加えて盾と兜も+2、+2を使い、リムと同じ物理、魔法とも100%防御の装備を使うことになった。まあ、最大95%なんだけど。メレンタスがシェイトン島から戻ったらいよいよ45階層攻略だ。
ロンドビーが来てから三週間してメレンタスとファロンビス(ミドリ)が戻ってきた。
「おう、ふたりともご苦労様、どうだった。」
「シェイトン島に着いたらすぐに船長が求人の案内を出してくれました。翌日から多くの希望者が来て、ずっと面接していました。むこうの人余りは相当深刻なようです。」
メレンタスがリストを示しながら答えた。
「面接に来るのは家長のオークですが、私が経験を聞いて、メレンタスさんが魂の波動を感じて、候補家族を選びました。」
「どれくらい候補家族が選べたの?」
「最大で20家族、300人ほどです。特におすすめは10家族、120人ほどです。」
「300人は少し多いですね。食料問題もありますし、徐々に増やさないと。」
シュレンジュがまっとうな意見を挟んだ。
「はい、私たちのそう思います。疫病対策もあるので、40人ずつ3つの開墾地を選んで耕作を進めるのが良いかと。」
「ところで畑の民は多産だけど、この盆地でどれくらいの耕作民が養えるの?」
「この盆地は広くて温暖で水も豊かなので、平原だけで数千人は可能だと思います。」
「それなら当面は人が多すぎるなんてことは心配しなくていいんだな。」
「その心配はありません。毎年百人移住させても当面大丈夫です。」
俺たちは120人を移住させるということを決めて。荘園側でも小屋の建設に入った。俺はその夜、カティーサ号にゲートで移動した。船はメレンタス達と追加の穀物を下ろしてシェイトンに戻る途中だった。また俺はベットのロンドビーを起こした。
「ロンドビー船長、毎回すいませんな。」
「おう、ショウ様ですか、もうそろそろお越しかと思っておりました。」
ロンドビーの対応は前回とちがって、しっかりしている。
「二人がお世話になりました。ありがとうございます。また求人の手配もいただきすいませんでした。」
「いえいえ、こちらも商売に繋がりますから。当然です。」
「早速ですが、メレンタスが作ったリストはそちらにもお渡ししておりますね。一枚目の10家族を移住させたいと思います。」
「はい、1枚目の120人ですね。連絡先も管理していますので、何時でも運べます。ただ、船倉なので2回に分けるのが良いかと思います。」
「そうですか、それでは2回に分けてお願いします。第一陣はこの船が戻り次第手配いただくことは可能でしょうか。」
「そうなるかと思い、次の航海は空けております。お任せください。ただし、その後別の仕事が入っており。少し間が空いてしまいます。」
ロンドビー船長はやはりしっかりしてる。頼もしい。
「こちらも受け入れ準備があるのでそれで結構です。それと今晩はこれで失礼しますが、次回はシェイトン島に案内いただくことは可能でしょうか?」
「それは喜んでご案内いたします。ショウ様はこの船まで移動できるのであれば、入港直前の日をご連絡してそのまま上陸ということでよろしいでしょうか。」
「そうしていただければ助かります。」
俺は礼を言ってまたクローゼットから戻ってきた。
翌朝、幹部を集めてスケジュールを伝えた。その後メレンタスを呼び、ポポゼウルに3日後45層攻略に向けて30階層集合でお願いしたい、と連絡させた。




