不穏な噂
翌朝、幹部をリムの小屋に集め、今回の作戦を説明した。
「さすがショウじゃ。凄いぞ。」
リムは目がハートになってる。よく見るとエリーンとシュレンジュの目もハートだ。うんもっと惚れていいぞ。
「シュレンジュ、悪いがこっちの作業は止めて、盆地の出口に10人ぐらい派遣してくれ。2週間くらいで雨がしのげる程度でいいから倉庫を建てて欲しい。こっちにいる草原の民も動員していいから。」
「はい、あと私とシュレンニトルで場所を決めてきます。木材の在庫は十分だと思います。」
「今日はモウルが海岸を見に行ってるから、エリーンは盆地の入り口でモウルの帰りを待って、その場所も確認してきてくれ。」
「はい、お任せください。」
「わらわも何かすることはないか?」
「リムは領主だから、ここでどっしり構えればいい。」
頭を撫でると納得した。やはりちょろいな。
「もうひとつ、ロンドビー船長から耳よりな話を聞いたんだが。」
俺はシェイトン島でオークが雇えることをみんなに話した。
「畑の民がいくらでも雇えるということなんじゃな。わらわは良く知らないのじゃが、その時は給金はどうなるのじゃ。」
「南の荘園では、住むところと家族の食料をいただき、あとは生産高に応じて、豊作の時は銅貨で30枚ほどいただいていました。」
「それはひとり30枚か?」
「いえ一家20人でです。銅貨を使うこともあまりありませんでしたから。それほど困りませんでした。」
少ないな!
「そんな金額で良いのか。」
「どこでもそんな感じだと思います。こちらでは畑の開墾にいつも取り組めるのは数人ですからなかなか進んでいません。申し訳ありません。」
「いや、ファロンビス達はよくやってくれている。感謝している。」
俺の言葉にリムとエリーンは頷いた。
「公爵様のところの穀物生産が滞っていますから、こちらで畑の開発が進めば良いかもしれませんね。外から同族を迎えることについてシュレンジュはどうでしょう?」
「人が増えることは畑の開発が進むので良いかと思います。また私たちは家族で固まって行動しますが、それほど他の家族を嫌うこともないので新しい家族が来ても問題ないと思います。ただひとつだけ。」
「何か心配があるのか?」
「畑の民は、ご存知のとおり家長の雄を中心に生活します。移住者が来たら、ファロンビスが全体の指揮をとることになると思うのですが、同族の雄が雌の指示を守るかどうかが心配です。」
昔の日本みたいな男尊女卑なんだな。
「俺が前面にたって指揮したらいいのか。」
「いえ、ご主人様はいろいろお忙しいので、農場での実務まで入っていただくわけにはいきません。」
しばらく沈黙が続いた。
「同族の雄たちは異種族の雌の指示なら従うのか?」
「はい、南の荘園でも管理人は山の民の雌でしたし、それなら問題はないと思います。」
「それなら、ファロビンスに農場にいる間はずっと同期をかけておくというのはどうかな。」
リムの反応が怖くてそっちを見れない。
「それは良い考えですね。名前も農場では人間みたいなのを名乗ったほうが良いですね。」
エリーンがすかさず賛成した。グッジョブ!
「み、みんなが良いのであれば、仕方ないな。」
リムもふくれながら同意した。ロンドビーの船が来たときにファロンビスとメレンタスをシェイトン島に送って、移住者の面接をすることになった。
「同期をかけ続けてもショウさんには負担じゃないんですか?」
エリーンが聞いてきた。
「MPの消費も最初だけだから問題ないよ。」
「それならばメイガリアンも人間の雌のほうが、町で動きやすいのではないでしょうか?」
おお、たしかにそうだな。むこうでもオークの店主なんていないみたいだし。
「そ、そうだな。それも良いかもしれん。」
メイガリアンは町にいるのでリムは油断してる。笑
「ふたりが、ずっと人間の雌だったら、いっそシュレンジュもそうしますか?」
「いえ、私は夜だけで大丈夫です。」
エリーンの問いに顔を赤くして答えるシュレンジュを見て、リムの後ろになにか黒いものが膨れ上がる。いつものことだが。
オークやケンタウロスたちが盆地の出口へと向かった。おれもエリーンの背中に乗って同行する。
「こうやってのんびりエリーンの背中に一人で乗るのは久しぶりだな。」
「そうですね。」
エリーンの尻尾が揺れている。俺はエリーンの背中を指で撫でた。
「や、やめてください。」
「俺を踏みつぶそうとした奴への罰だ。」
エリーンが背中をよじる。
「あ、あれは。」
「ダメだ、許さん。」
俺は道中ずっとエリーンのいろんなところを撫で続けた。
盆地の出口は幅500メートルくらいにわたり開けている。その真ん中を川が流れている。
「この辺りだな。」
「川からは少し離れた方が良いですね。たまに増水することがあるので。」
俺たちは道に接して少し高いところに倉庫の場所を決めた。そうしているうちに運搬車を曳くケンタウロスたちも到着した。
「ここは仮置き場だから雨だけを気にしよう。高さ三メートルで十メートル四方の屋根だけの小屋をいくつか建てるんだ。」
シュレンニトルは早速縄張りを始めた。他のオークたちは木材を下ろしている。シュレンジュは周辺を歩き回っている。
「どうしたんだ?」
「はい、もし何か起こると、この辺りが防衛線になるかと思いまして。」
「え、どういうこと?」
「具体的に何かがあるということではないのですが。この荘園は四方を高い山に囲まれており、ここさえ押さえておけば防衛は難しくありません。なので地形を調べて備えを考えようと思います。」
諸葛孔明みたいな奴やな。まあ、しかしリスク管理は大事だから、良いことだ。
「備えあれば憂いないだからな、よろしく頼むよ。」
昼過ぎにはモウルが戻ってきた。
「おう、モウル早いな。」
「MP1はいくらでも作れるから加速は地上でも使い放題なの。凄く便利。」
「そうか、そんな使い方できるんだな。で、どうだった。」
「港は町から少し離れたところにある。でも大きな船が入ると間違いなく見つかる。」
「道はそこまでつながってるんだな。」
「最近使われてないので、荒れてるけど。大丈夫。運搬車も使える。」
「それは良かった。廻りに小舟が着けるようなとこはあったか。」
「港は無人なので、小舟だったら港に着けても大丈夫だと思う。」
「ご苦労様だったな。おかげでめどが立った。」
「うん、何時でもまた行くからね~。」
モウルは伝令にも使えるんだな。これは貴重だ。
小屋の差配はシュレンジュに任せて、俺はエリーンの背中に乗って町に行った。
今度はまわりにだれもいないので、俺のいたずらはエスカレートした。エリーンは時々暴れ馬のように跳ねた。これは罰だからな。笑
既に薬屋の買収は終わっており、薬屋にも新しい使用人がいた。
「おう、メイガリアン順調のようだな。」
薬屋に入るとメイガリアンが使用人に指示をしていた。
「これはご主人様、ようこそいらっしゃいました。おかげさまで薬屋も再開できました。」
「それは何よりだ。少し長い話があるんだが、大丈夫か?」
メイガリアンには薬屋を買収する時に町はずれに一軒家を買うように指示してある。そこには技工士修行中のメイガヘリスと店の用心棒的にメイガロマトンも同居している。我々はその一軒家に向かった。町が小さいので歩いてもすぐだ。
「おお、けっこう立派な家だな。」
「お嬢様の名前を出すと交渉も順調でした。お嬢様やご主人様がお越しになっても恥ずかしくないところと思いまして。」
部屋が20以上ある。オークたちは一階の小さな部屋を使っているようだ。
「メイガリアンはもっと大きな部屋を使ったらどうだ。」
「いえいえ、私などこれで十分です。」
「だめだ、これは主人の命令だ。」
「そうですよ、メイガリアン。お嬢様もあなたには感謝しています。」
エリーンのフォローにメイガリアンは涙ぐんで、礼を言った。その後三人は二階の大きな部屋に移動して、最近の状況を伝えた。
「ご主人様は海外と取引を始められたのですね。凄いです。私もお手伝いしたいです。」
「もちろん、メイガリアンには手伝ってもらうぞ。頼りにしてる。」
「それに、この町で穀物を調達しないのも良いことだと思います。じりじりと値段が上がってきています。これから品不足になるかも知れないので、多く買うのは難しくなりそうです。」
その後ファロビンスがずっと同期して人型で同族を仕切るので、メイガリアンもどうか、という話をした。
「町では畑の民が商人をしていることはないですし、それはありがたいのですが。」
「何か問題があるのか?」
メイガリアンは俯いた。
「あのぅ、人間の雌はステータスも高いのですが、」
「それで。」
「畑の民は、年に数回しか恋の季節はありません。人間の雌は一年中なので、、、」
「わかった、それ以上言うな。」
俺はエリーンと顔を見合わせた。これは絶対リムには秘密や。ロンドビーが来たときにはメイガリアンも一緒にシェイトン島に行くことも決まった。
「ひとつ、いいでしょうか?」
メイガリアンが不安そうに言った。
「どうかしたのか?」
「最近、商売人の集まりで、気になる噂話があったのですが。確かな話ではありません。」
「良いから言ってみろ。」
「南の荘園の疫病ですが、どうも自然に起こった病気ではない、という噂話があります。」
「その話の出どこは何処なんだ?」
「畑の民を診ている医者の話らしいです。」
大体噂話なんかはいい加減なのが多いが、よくわからない。
「どうして自然じゃないと分かったんだ?」
「それが、症状から見て、この島では発生したことのない疫病で、南半球で起こった畑の民の疫病に症状が似ているからだそうです。」
「南半球から移住してきた畑の民はいないのか?」
「ここ十年は南半球から移住した者は居ないようです。その疫病の特徴は成人した雄の感染率が高いようで、それも一致するのです。」
「だからファロンビスたちは北の盆地に来ても元気だという訳だな。」
「そのようです。疫病が発症しないと、感染はしないようなので、もう私たちは大丈夫だと思いますが、南の荘園ではまだまだ予断を許さないようです。」
確かに不思議な話だが、俺には何とも判断できない。
「そうなんだな、情報をありがとう。心に留めとくよ。」
色々話をしていると、ドアをノックして、メイガヘリスが入ってきた。
「ショウ様、エリーン様、ようこそいらっしゃいました。」
「おう、メイガヘリス、帰ってきたのか。」
「はい、今親方のところから戻りました。ショウ様にはお詫びがあります。」
「どうしたの?」
「依頼されていた宝石ですが、なかなか時間が取れず進んでいません。」
そう言ってメイガヘリスは宝石を一つ差し出した。凄く大きなルビーだ。ブリリアンカットされてる!
「凄いじゃないか!詫びる必要なんかないぞ。」
「それが、時間がかかって、やっと一つです。」
「ああ、そういうことか。親方とのところでの修行を優先してくれ。こっちは全く急がないから。別途売り方を考えるから大丈夫だよ。」
あとで俺は6キロの宝石のうち、5キロを清里に持って帰った。




