穀物の輸入
夕方に一族の宿舎前に戻った。俺はドロンに礼を言い、銅貨10枚を渡した。
「こんなに頂戴して、ありがとうございます。」
いや、まあ、すこし誤解もあったしな。エリーンたち3人はまだ戻っておらず、地下の図書室で頑張っているようだ。しばらくして3人はすこしやつれて戻ってきた。
「おう、精が出るね。進んだ?」
「書き写さないといけないので、時間がかかります。情報量が多すぎます。」
いつも元気なエリーンが弱音を吐いた。
「薬や鍛冶も同じ。昔の凄い人の話、役に立ちそう。」
モウルも頷く。
「モウルも書き写してるの?」
「私はお話を覚えるだけ。」
モウルらしいな、後一日で済むのかな。結局後一日3人は図書室に閉じこもった。俺はサフィアスとともにポポゼウルと今後の話をした。
「ショウ様、次の遠征はいつ頃を予定されておりますかな。」
「あとふた月あれば準備ができます。」
「次は45階層が目標ですな。」
「そうですね、できれば次もご支援いただければありがたいです。こちらも少し戦力が上がったので、草原の民と山の民を中心に15人ほどお願いできますでしょうか?」
「わかりました。こちらも魔法防御の防具をかき集めて準備致します。」
「毎回ありがとうございます。感謝いたします。」
俺は深々と頭を下げた。
翌朝俺たち5人はポポゼウルに見送られて宿舎を後にした。青い渓谷発行の通行証を貰ったので出国もスムーズだった。二日で荘園まで戻った。
「長かったな。待ちわびたぞ。」
俺たちが戻るとリムが飛んできた。
「寂しかったぞ。リム。」
抱きしめるとリムが喜んだ。やはりちょろいな。
「お嬢様、迷宮攻略、魔物、鍛冶、薬、技巧、色々な情報を手に入れました。」
エリーンが報告すると、リムは嬉しそうに頷いた。その日の夜はトロンビアでのことをリムにエリーンと遅くまで話した。
「そうか、ポポゼウル殿は次の遠征も支援して下さるのか。」
リムは少し微妙な表情をした。
「お嬢様、公爵様のことですか?」
さすがにエリーンは鋭い。
「そうじゃ、どこまでこのまま内密に迷宮攻略を進めるのか、それも考えんとな。」
「時間的にはここの荘園開発には何年もかかるということになっていますが、物資の動きが気になりますね。」
「そうだな、人が増えてくると益々穀物を町で買うことになるから、どこかで、おかしいということになるかも知れないな。」
「荘園の畑ではまだまだここの住人を賄えないですね。ノームからの支援者を含めると100人分以上必要になります。もともと南の荘園が不調なので、公爵領全体として穀物不足になることもありそうです。」
「公爵家は穀物を輸入してないんだな。」
「そうですね。今は自給しているので、外から穀物は持ってきていないと思います。」
「公爵領に港はあるのか?」
「それは昔輸入したことがあると聞いたことがあるから、あるじゃろ。」
「場所はわかる?」
「それは、わらわにもわからんな。しかし町から近い海岸じゃろう。」
「それならいっそ穀物を輸入するか?」
リムとエリーンは目を剥いた。
「ショウさん、そんなことができるのですか?どこから輸入するのです?」
エリーンが機関銃のようにまくし立てる。
「伝手はなくはないよ。今回のトロンビア行きで俺は交易している船長と知り合った。奴と交渉すれば何とかなるかもしれないな。」
「そ、そんなことができるのか。どうやって連絡を取るのじゃ。」
「それもできそうな気がする。穀物はどれくらいの値段なの。」
「島の穀物なら一人一年分で千コルほどですが、船で持ってくるとその数倍はします。」
「ちょっと、サフィアス呼んで来て。」
エリーンは俺の圧に押されてサフィアスを呼びに行った。少ししてサフィアスが来た。枕を持ってきたので当然紛糾したが、それは省略する。
「サフィアス、この前のカティーサ号だが、どれくらいの値段で穀物輸入してるの?」
「最近は知らない。昔は三千コルくらいかな。」
「ありがとう、もういいよ。」
サフィアスは名残惜しそうだが、リムの闘気に負けて枕を抱いて戻って行った。ごめんな。
「この前の金塊はまだ残ってるから、1キロほど使えば少なく見積もっても200人年くらいの穀物は買えそうだよ。2年分あれば、そのころには自給できるだろう。」
「そ、それはそうですが。」
エリーンはリムの方を見る。
「もともとショウの金塊なので、好きに使えば良いが、船など呼べば大騒ぎになるのではなかろうか。」
「そこは策があるので、もし目立ちそうなら中止するよ。」
「そ、そうか、それなら好きにするがよい。」
「リムの為に全力を尽くすよ。」
「ショウさん、よろしくお願いしますね。」
翌朝俺はメレンタスとモウルを呼んだ。
「メレンタス、すまないがポポゼウル殿に連絡を付けて欲しい。」
「はい、どのようなお話でしょうか?」
「二十日後くらいに、10人くらいの草原の民を荘園のほうで1週間ほど貸していただきたい、というお願いだ。」
「わかりました。早速連絡します。」
「すまんが、よろしく頼む。モウルには町の方に行って港を探してきてほしい。最近は使われていないみたいだが。」
「港を探すだけで良いの?」
「それからが本題なんだ。港のそばで小舟が付けられるような所を探して欲しい。」
「小舟?」
「そうだな、8メートルくらいの船だ。そこから港の街道に運搬車が通れるような場所を探して欲しい。」
「運搬車が通れるところね。」
「もし誰かに何か聞かれそうななったら加速で逃げてくれ。」
「わかった、MP薬持っていく。」
「済まんが頼む。」
時差から測った俺の計算ではシェイトン島からはトロンビア島よりもジェローリア島の方が近い。この星が地球より少し大きいと想定しておそらく三千キロ以内だ。むこうからは一週間で船で来れるだろう。俺はカティーサ号に乗船したときに、ある場所にマーカーを設定した。マーカーを使えば疑似的にその世界の中でワープが可能になる。山小屋から一度清里に戻り、カティーサ号のマーカーを行き先に設定すると、まるで山小屋からカティーサ号に移動したようになる。俺はその日の夕方カティーサ号のマーカーに移動した。
それは船長室のクローゼットだった。トイレも考えたがロンドビーとの鉢合わせの可能性がある。大きなクローゼットに夜中に人がいることはまず考えられない。いるとしたら間男くらいだな。真っ暗なクローゼットの中でヘッドランプを使いながら服を着て、扉を内側から開けた。ロンドビーは熟睡している。
「ロンドビー殿、夜中にすいませんが、」
俺は声をかけた。
「誰だ、お、ショウ様ですか!」
ロンドビーは状況が理解できていない。どうして俺がここにいるのか。
「驚かれたと思いますが、少々急ぎでお話したいことがありまして参上しました。」
「い、いや、どうやってこの船に乗り込まれたのですかな。今は海のど真ん中です。」
「すいませんが、それは秘術を使ったとご理解下さい。種あかしはできません。」
「そ、そうですか。まあわかりました。そちらのテーブルへどうぞ。何か飲まれますか?」
案外、肝がすわってるな。
「いえ、こんな夜中なので、お構いなく。」
「急ぎの要件と言われましたか?」
「取引をしていただけないかと思い参上いたしました。」
「取引ですか。」
「率直に申します。穀物を売っていただきたいのです。200人年分を金1キロで。」
「200人年分を金1キロですか。」
ロンドビーはたたき起こされたので、まだ頭がしっかり働いていないようだ。少しして反応があった。
「それは相場よりかなり高い値付けですね。」
この船長はブラフをかけてこない、誠実だな。サフィアスの言う通りだ。
「はい、そうですが、少し条件があります。」
「条件ですか。」
俺は条件を話した。ロンドビーはその条件を受け入れた。
「ショウ様は、思いもよらぬことを考え付きますな。しかし、私もそのようなたくらみは嫌いではありません。」
さすが、船長、やんちゃなところもあるんだ。
「それでは支払いはこれでお願いします。」
俺は1キロの金塊をテーブルに置いた。
「全額前払いということですか?」
ロンドビーは首をかしげる。
「どうしてまだ良く知らない私をそんなに信用されるのですか。」
「サフィアスが言ったでしょう、あなたの魂の波動は美しいと。俺は妻の言葉を信じます。」
「はは、これは面白い人だ。私もそれに答えませんとな。」
「宜しくお願いします。」
「さしでがましいことを言うかもしれませんが、ジェローリアは穀物が不足しているのですか?」
「島全体ではそうでないかもしれません。しかし俺の荘園ではまだ十分な耕作人がいなくて、生産高が上がっていないのです。お恥ずかしいことです。」
「耕作人がいないのですか?」
ロンドビーの目が光った。
「それが何か?」
「実はシェイトンでは農業は多くは畑の民が担っているのですが、ご存知のとおり彼らは繁殖率が高いので、耕作人が増えすぎて土地が不足し始めてるのです。今なら若くて優秀なものが手を上げると思います。」
「それは耳よりな話です。帰って相談してみます。」
「輸送はご用命いただければ、シェイトン、ジュローリアだと一週間の航海なので一度に百名くらいまでは行けますね。」
「なかなか商売上手ですね。」
「これは参りました。」
俺たちは大笑いした。その後段取りを打ち合わせして、俺は船長室のクローゼットから清里経由で山小屋に戻った。




