船長との出会い
翌朝、サフィアスと宿舎の前で草原の民を待ってると、ドロンが来た。お前かよ!こういうの呉越同舟というのか、いや呉の上に越が乗ってるのだな。こいつは俺を振り落として亡き者にしてエリーンを手に入れようとするかもしれんな。気をつけよう。
「ショウ様、またお目にかかれてうれしいです。今日一日よろしくお願いします。」
「いや、こちらこそ手間をかけますが、よろしくお願いします。」
俺とサフィアスはドロンにまたがった。これだと3時間ほどで着くようだ。ドロンは疾走した。雄なので走りも安定している。今のところ振り落とされる気配はない。安心はできんが。
「この前草原の民の恋の季節の話をしてましたよね。」
「ああ、そうでしたね。草原の民は二つの月が重なる時に恋の季節を迎えます。今年のは先月がそうでした。新たな妻を迎えて、4人の妻と良い時間を過ごさせていただきました。」
お前は、誰でも良いんか!
「そ、それはよかったですね。種族によって恋の季節は違うんですか。」
「私も詳しくは知りませんが、山の民は年2回だそうです。霧の民は無いようですね。ここにいると霧の民と山の民に接することが多いので、そっちの情報が多くなります。」
「ドロンさんはいつトロンビアに来たんですか?」
「故郷で募集があったので応募しました。待遇がよくて、私たちも迷宮もそれほど苦にならないので。」
「奥さんも一緒に来たんですね。」
「はい、3年前に。私たちは暑いところより寒いところのほうが良いので、こちらに腰を落ち着けています。妻たちはみんな迷宮に入るので、新しい妻も迷宮にはいれる人が良いと思いました。」
それでエリーンをナンパしたのね。
「迷宮ではいつも死と隣り合わせなので、そのことを理解してくれる家族が欲しいと思いました。」
そうだったんだな。あんがい悪い奴じゃないかもしれない。そんな話をしているうちに港に着いた。
港は思ったより広かった。広大な敷地を柵が囲っており、人や荷の出入りを監視する門がある。ドロンが書類を見せると、俺たちは中に入ることができた。
「船乗りは人間が多いので、勝手に島の中に入らないようにしてあるんです。」
ゴキブリ並みの扱いやな。
「右手前が宿泊所や食堂です。左が倉庫です。」
「船に近づいても大丈夫ですか?」
「近づくだけなら良いと思います。」
桟橋にはガレオン船ほどの大きさの船が二隻いる。一隻からはちょうど物資が荷揚げされている最中だ。大声で指示してる奴がいる。俺が近づいていくと。
「おい、おまえしっかり働け、なに休んでるんだ!」
赤毛の大男が怒鳴った。
「この方は長老の客人です。」
ドロンが素早く俺の前に立つ。サフィアスも殺気を漂わせる。穏便にな。
「これは青い渓谷の方、し、失礼いたしました。人間だったので、港湾で働く者かと間違えました。」
赤毛はドロンの身分証を素早く見て反応した。
「いえ、こちらこそ仕事中にお邪魔しましてすいません。よろしければ休憩時間に食事でもいかがでしょうか?」
「そ、そうですか、それでは1時間ほどで休憩になりますので。」
むこうは青い渓谷との関係を考えて対応してくれるようだ。
1時間後、俺たちは港の食堂の一つに入った。ブイヤベースみたいなのを注文した。
「先ほどは失礼いたしました。私はカティーサ号の船長、ロンドビーと申します。」
俺たちも自己紹介した。
「サフィアス様ですか、もしや、あの感知のサフィアス様ですか?」
サフィアスは有名人なんだな。
「ご主人様、この人、良い魂の波動してる。」
褒められたから?
「え、ショウさん、いやショウ様はサフィアス様の??」
「えーと、色々ありまして。」
ロンドビーは目を白黒させている。
「青い渓谷の長老一族の優秀な冒険者を妻に持たれるとは、ショウ様は人間なのですか?」
「えーと、色々あってそうなってますが、俺は普通の人間です。ロンドビーさんはこの島には良く来られるのですか?」
実際、俺は普通以下だけどな。
「私はこの島から見ると南西にあるシェイトン島から交易で来ております。穀物や家具、衣服を主に運んでおります。片道10日ほどかかるので、月に一往復ほどです。」
「シェイトン島は人間の島なんですね。大きな島なんですか?」
「いえ、人間主体の島はいくつかありますが一番規模は小さい島ですね。力がないので霧の民にも信用してもらってるのかもしれません。」
ロンドビーは自嘲気味に言う。
「大きな人間の島は違うのですか?」
「私が言うのもなんですが、大きな島では内部の抗争も多く、隙あらば他の島に手を出そうとしています。」
やはり人間は最低なんだな。
「それは残念ですね。」
「ショウ様はどちらの島の出身なのですか?」
「それが、実はよくわからないのです。気が付いたらトロンビアに居ました。」
「そうなんですね。空の民の島ですか。あそこには多くの人間が商人として働いていますね。最近は取引が無いので行ってませんが。」
「はい、俺も貴族の従者として雇ってもらい、今日に至っています。」
「貴族の従者でありながら、長老の一族ですか。それは興味深いですな。」
ロンドビーの言葉には裏が無い感じで心地よい。これがサフィアスの言う魂の波動なのかな。俺は感じないけど。鑑定すると40歳、レベルは30で特技に船長というのがあるのか。
「船は初めて見ました。なかなか素晴らしいものですね。速度は何ノットですか?」
俺の問いにロンドビーは目を細めた。俺変な事聞いた?
「ショウ様、船は初めてとのことですが、ノットという言葉をご存知で。」
「あ、ああ、長老の書庫で少々。」
なんとか誤魔化す。
「速度は10ノットほどです。海流の影響で変わりますが。」
ブイヤベースはなかなかうまい、ちょっと味が薄いけど。人間の島まで四千キロもあるんだな。遠い。
「おじゃまでなければ船を拝見することは可能でしょうか?」
俺の申し出にロンドビーは少し考えて答えた。青い渓谷との関係を考えたのだろう。
「はい、それではこの後でご案内いたします。」
食事の後、俺たちはカティーサ号に案内された。船の名前は伝説の高速船カティーサーク号に似てるな。船内は狭いので、ドロンは甲板までだ。階段を下りると船室が左右に広がっている。
「船員は何人ですか?」
「二十人ほどですね。人間と谷の民、山の民です。このフロアは船員の住居と食堂などで、下がすべて倉庫になっています。」
俺とサフィアスはひととおり案内してもらい船を後にした。俺は礼として懐中電灯を一つ渡した。
「これは何でしょうか?」
「懐中電灯と言います。迷宮内で松明無しで進むことができます。」
「すばらしいものですな。魔道具ですか。」
「いえ、魔力は必要ありません。誰でも使えます。」
「そのような貴重なものを頂いてよろしいのでしょうか?」
「こちらこそ、船を拝見して大変有意義でした。お納めください。」
「ありがとうございます。また機会があればぜひお目にかかりたいです。」
俺は船で別の目的も果たしたしな。俺たち一行は更に2時間ほど港を見物して帰途についた。




