宝石
その日の午後、採掘業者は二日後に魔道具屋に来るので、その時に連れてくるとメイガヘリスから連絡があった。
「あのう、ご主人様、屑宝石をどうなさるのですか?」
メイガリアンが恐る恐る聞いてくる。
「俺のところでは宝石は屑でも高値で取引されている。こっちでは価値が無くても、俺のところでは金になるんだ。だから、業者が捨てるような屑宝石でも金を出して買いたいと思っている。」
「そういうことなのですね。わかりました。それならばご主人様の意向に沿って契約書を作ってみますので、見ていただけますか。」
「おう、それはありがたい。ぜひ頼む。」
メイガリアンは奥にひっこんで作業を取りかかった。俺はこっちの字が読めないから、見ても意味ないけどな。
「契約書の下書きができましたので、読みますね。」
メイガリアンは仕事が速い。その日の夜には下書きが上がった。
・宝石として規定するのは、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドとする。
・1グラム以上15グラム以下の宝石を購入する。
・30%以上は10グラム以上の宝石とする。
・購入金額は1グラムあたり二千コルとする。
・品質が悪いものは買取を拒否できる。
・決済は毎月末とする。
・契約は1年ごとの自動更新とする。契約終了の意思表示は更新日の2か月前とする。
・この契約内容は外部への開示を禁止する。
「だいたいこれで良いけど、少し変えてくれるか。」
「はい、どこを変えましょう?」
「これだ。」
俺は昨夜、向こうに戻り大量の電池と別の金塊1本を持ち込んでいた。
「これは、まさか、金塊ですか。」
「そうだ、これは千万コルの価値がある。これを前払いにしたい。」
「前払いですか。持ち逃げされたりしませんか。」
「いや、向こうはずっと採掘してるんだろう。こちらの方が信用は無いからな。突然の取引を納得させるのは、こっちが資金を見せないと、うまくいかないだろう。」
「なるほど。お考えはよくわかりました。そのように書き直します。」
契約書ができて、翌日はすることがなかった。昼にはメイガヘリスが来た。
「ショウ様、明日来る採掘業者について調べてきましたので。」
「おう、それはありがたい。」
「百年ほど前にこの島を探索しておりました採掘3を持つドワーフたちが鉱脈をみつけたようです。レンドル公爵領と東北にあるフリクリス公爵領の間の中間ぐらいです。ドワーフたちは両方の公爵家から採掘権を買って採掘を続けているようです。ここ20年くらいは採掘量が減っているようですが、それでもこの島の4公爵領すべての魔道具屋に宝石を提供しているようです。」
「そうか、やはり老舗なんだな。」
「そうですね。今でも採掘が続けられている宝石鉱脈は世界で3か所しかないようなので、貴重です。」
「魔道具屋ではどれくらい宝石を毎年買うんだ?」
「最近は高級な杖の需要は少ないので、五個以下みたいです。」
「それでも一つが高いから何とかなるんだな。それで宝石はカットして杖にセットするんだな。」
「上級杖の製作は技巧2を持つ親方しかできません。宝石の光を高めると威力があがるので、そのカットは技巧だけでもできるので、弟子たちが屑宝石を使ってカットの練習をしています。」
その屑宝石でも向こうに持ってくと相当の値段だけどな。
「きのう、メイガリアンにプレゼントしてたアクセサリも綺麗だったけど、アクセサリとしては売らないのか?」
「魔道具を作るのが、商売なので、それは考えてないようです。それにこちらの貴族もあまり宝石には関心がないようで、需要もないかもです。」
この世界では宝石も金や銀と一緒であくまで迷宮攻略のための実用品なんだな。
「貴重な話をありがとう。技工士は魔道具以外にも作ったりするの。」
「魔道具の需要はそれほど多くないので、技巧の特技をもつ者は運搬車や時計なども作ってますね。俺はショウ様のおかげで技巧2なので親方にかわいがってもらって、魔道具が中心ですが。」
「それはよかった。魔道具の修業を頑張ってくれ。」
特技は経験でレベルが上がるらしいからな。
翌日メイガヘリスが採掘業者を連れてきた。やはりドワーフだ。
「宝石の採掘をしておりますモイナムと申します。宝石の取引についてお話があるということですが。」
やはり老舗だけあって高飛車な感じだな。
「わざわざお越しいただき恐縮です。この店の主ショウです。」
「こちらの懐中電灯は全島で話題になっておりますね。素晴らしいものです。」
「ありがとうございます。私どもは色々新しいものを開発しています。それに宝石が使えないかと考えています。今は大きな宝石以外は使い道がないようですが、小さな宝石でも使えるのではないかと、研究しております。」
「それは素晴らしいことですな。小さな宝石が売れるとなると我々の仕事も楽になります。」
「つきましては、そちらの鉱山で採れた小さい宝石を継続的に買わせていただきたい。」
「どのような使い方をされるのですか?」
「それは研究中ですので、ご容赦いただきたい。」
モイナムはこちらをじっと見つめた。怪しいと思ってるんだろう。
「私たちは、新興の店ですが、信頼関係に基づいた商売をしたいと思います。そちらのような老舗と取引をするには前金でお支払いします。」
俺はテーブルの下から金塊を取り出した。
「これは何でしょうか?」
「どうぞお手に取って下さい。」
ドワーフならすぐわかるだろう。こいつ採掘持ってるしな。
「まさか、これは。」
重さを確認して、モイナムは絶句した。
「そうです。10キロの金です。」
「これを前金にするということですか?」
「はい、この条件でお願いしたい。」
俺は契約書を差し出した。読めないけどな。モイナムは紙を受け取り目を通した。
「一年で5キロ買い取ることができれば、ちょうどこの金塊で決済できます。」
モイナムは少し考えこんだ。
「これはありがたいお話です。小さい宝石は在庫もあるので、最初は直ぐにでも5キロを持ってこれると思います。しかし2年目以降は5キロはむずかしいかもしれません。」
「こちらも毎年5キロにこだわっているわけではないので、それは問題ありません。」
「善は急げですな。さっそく鉱山に帰って、皆と相談して参ります。」
モイナムは来たときとは違い、平身低頭して帰って行った。
翌日の午後にはモイナムが別のドワーフと戻ってきた。二人とも斧を持ってる。殴りこみか。
「鉱山の責任者のカウジャンと言います。貴重品を持ってるので武装してきたご無礼をお許しください。」
奥の部屋に二人を招き入れた。メイガリアンはとっておきのお茶と焼き菓子を出す。
「ショウと申します。わざわざお越しいただきありがとうございます。」
「モイナムから素晴らしいお話をいただいたと聞いております。ありがとうございます。本日は契約を結ぶとともに最初の宝石をお持ち致しました。」
結構話を急いでるな。鉱山経営も大変なんだろう。
「それはありがとうございます。まずは契約書にサインをお願いいたします。」
俺は字が読めないが、サインはできる。ちょっと心配だが。
「サインも済んだので、品物の確認をお願いできますか?」
メイガヘリスが奥から金塊を抱えてきた。
「斧で切ってもらって良いですよ。」
「それでは遠慮なく。」
カウジャンはそういうと斧で金塊を軽く切った。そして断面を確認している。
「たしかに混じり物のない金塊です。」
それを受けてモイナムがカバンから大きな袋をいくつか取り出した。
「在庫の小さい宝石を6キロ持ってきました。品質を確認して下さい。」
品質確認はメイガヘリスができる。結構大きい宝石が多いな。1時間ほどかかって品質検査が終わった。
「なかなか、上質の石が多いです。さすがに在庫で持ってられる品ですね。」
メイガヘリスが褒めた。
「そうですね、悪いのは在庫では残しませんから。」
「ほぼ全品大丈夫なので、ここから5キロ選びます。」
「いえ、それには及びません。持って帰るのも手間なので、すべて置いていきます。」
「それでは追加のお支払いをせねばなりませんな。」
「今回は良い取引を始めていただいたお礼を兼ねてサービス致します。お納め下さい。」
なかなか商売上手だ。さすが老舗の親方。
「そうですか、ありがとうございます。それでは遠慮なく。つかぬことを伺いますが、その金塊はどちらで銅貨に両替するのですか?」
「この島の両替所では100グラムが限度でしょうね。コリコラスの両替所だと量が多くても対応してくれるので、そちらに持ち込むことになるかと。金、銀、魔石は関税も1%なのでそれほど経費もかかりません。」
なるほど、勉強になるな。俺も金塊はコリコラスに持っていこ。
1時間ほど世間話をしてからドワーフたちは帰っていった。また来年取引をすることを約して。
「それにしても凄い量だな。ここに置いておくから、メイガヘリス、すまないが手の空いた時でいいのでカットしてくれるか。」
「はい、ショウ様。」
宝石をキロ単位で扱うことになるとは思いもよらなかった。
これでむこうでの金策の当てができた。いよいよ腰を据えて迷宮攻略に向かえる。
ゲーマーの血が騒ぐ。雑魚キャラだけど。




