商売拡大
まずは二人の歓迎会だ。主だったものが山小屋の前に集まった。
「ビジェイ、スリニー、二人をこの荘園は歓迎する。ここは小さいがみんなが家族として協力しておる。なにか困ったことがあったら遠慮なく言って欲しい。」
リムが歓迎の言葉をかける。まあまあだな。そのあとは干し肉を焼きながらみんなで大いに食った。ドワーフ3人は鍛冶場の隣の小屋を割り当てられていた。
翌朝、鍛冶場では早速ビジェイたちが色々と話をしていた。ペルカは鍛冶の実際の経験はないので、ビジェイが設備について注文をつけていた。
「早速、やってるんだな。素材はこれを使ってくれ。」
俺は金塊と魔石を作業テーブルに置いた。ビジェイとスリニーは目を奪われた。
「凄い量の金塊ですね。それに魔石も黄色がたくさんある。」
「今は40階層まで進んでいるんだが、これからは魔法耐性の防具が必要だと言われていてね。」
「今は魔法耐性のある防具は無いんですね。」
「うん、まったくない。」
「これだけの量があれば、結構な数の強化防具が作れます。余裕があれば強化武器も作れます。まずは必要な物をリストアップしましょう。」
さすが鍛冶の専門家だ。
「それと鍛冶に必要な鉄と石炭もこれだと不足しています。増産してください。」
ビジェイの求めに早速対応しよう。ビジェイとスリニーに鑑定4を使うとビジェイは職人素養が、とても高い。スリニーは戦闘素養が高い。これは覚醒すると楽しみだな。
「いまから二人のステータスを覚醒するから、確認してくれ。」
俺の言葉に二人は緊張する。そしてステータスを確認して歓声を上げた。
「レベルをあげると特技やスキルが取れる可能性が高いから、迷宮にレベル上げに行ってもらうから準備しといて。そんなに緊張しなくていいよ。ペルカみたいにとんでもない奴が多いから危険は少ない。」
鍛冶場を後にした俺は調薬所に向かった。
「主殿、寂しかったぞ~。」
モウルは相変わらず緊張感がない。
「留守番させてすまなかったな。こっちは進んでるか?」
「ファロピピンが良く働いてくれてる。」
お前も働けよ。
「回復薬1とMP薬1、解毒剤は魔石いらないからいくらでも作れる。メイガリアンに言って、瓶を千本送ってもらった。それは出荷済み。」
「そんなにすぐ売れるの?」
「森の民の薬ギルドは一本70コルで卸すから、内緒で65コルで卸した。すぐ完売。瓶が5コルだから、結構儲かる。」
こいつなかなかやる。しかしぼったくりや、薬九層倍というのはほんとやな。
「回復薬2とMP薬2は赤魔石がいるし、すこし時間もかかる。これはファロピピンと二人でやってる。」
少しは働いてるんだな。
「モウルとファロピピンのおかげで荘園の財布も良くなる。ありがとな。」
ファロピピンは褒められて嬉しくて泣き出した。かわいいやつや。
その後、リムとエリーンと当面どうするか相談した。防具の製作には時間がかかりそうなので、他のメンバーのレベル上げをすることにした。35階層までだとノームたちの支援もいらないので、35階層までの遠征を数回してレベル上げと魔石収集をしよう。俺はそのような遠征には役にたたないので、町の様子を見に行くことにした。リムがそっちに来たがったが、エリーンに叱られて迷宮にしぶしぶ行くことになった。お前は強力な戦力なので自覚しろよ。
翌朝、ドワーフ兄弟を含む遠征隊を見送った後、俺はメイガロマトンとともに運搬車に揺られて町に出発した。メイガロマトンはメイガリアンの息子だし、一応俺の護衛でもある。5歳に護衛されるなんてどうなんだ。途中でイノシシが出たが、メイガロマトンは遠距離から弓一撃で仕留めた。凄いわ。夕方にはメイガリアンの店に着いた。店は閉店直前で店員たちが片づけをしている。
「ご主人様、ようこそいらっしゃいました。マトンもよく来たわね。」
細身のメイガリアンが奥から出てきて俺たちを迎えてくれる。
「かあさん、俺また強くなったよ。」
メイガマトンは母親に甘えるように自慢する。うんうんまだ子供だな。
「そうなのね。ご主人様のおかげで、みんな立派になってよかったわ。ご主人様、今回はこちらでゆっくりできるのですか?」
「そうだな、ペルカの兄弟が来て、いまはレベル上げの遠征をしているからな。少しゆっくりできそうだ。」
「そうですか、嬉しいです。ゆっくりしてください。」
メイガリアンの目がキラキラしている。長い間こっちでひとり頑張ってくれてたからな。ゆっくりかわいがってやろう。
その夜はメイガリアンが食堂に連れて行ってくれた。俺も公爵邸の食堂以外は初めてだ。
「ここはちょっと上等だな。」
「売り上げが良かった時など、たまに従業員を連れてきます。」
「今は従業員は何人いるの?」
「人間の雌を3人雇っています。みんなよく働いてくれるので助かってます。」
「商売が順調でよかったよ。それに瓶の調達や薬の卸とか色々助かってるよ。ありがとう。」
俺たちは魚の鍋を注文した。こっちでは初めてや。
「本来なら畑の民の雌などは商売人仲間には入れてもらえないのですが、ご主人様の懐中電灯が評判になって、なんとか相手にしてもらっています。」
人種差別と性差別か、どこでも一緒なんだな。
「今回も懐中電灯と電池をたくさん持ってきたので後で見といてくれ。」
「その件ですが、少しご相談があります。」
「なんだい?」
「懐中電灯は評判が良くて、入荷するとすぐ売り切れになるのですが。これからは限定販売にしたいと思います。最近は電池の補充を求める人が多いのですが、電池の在庫が少ないので、客の求めに応じきれていません。これ以上懐中電灯を売ると、もっと電池不足が進みそうなので。」
「なるほど、俺も考えが足らなかったな。電池がないと使えないのだから、そんな状態だと詐欺みたいになる。それは商売としてまずいから、俺も電池の仕入れを増やすよ。」
「ご理解いただきありがとうございます。それともう一つ相談事があります。」
メイガリアンは声を落とした。
「商売人仲間の薬屋が歳なので引退を考えているようです。この町では薬屋には鑑札が必要で3軒にしか鑑札はでません。その薬屋は居ぬきで鑑札付きで店を売ることを考えているようです。」
「おう、それを買い取りたいということだな。」
「はい、そのとおりです。」
「いくらくらいになる?」
「店と鑑札の代金が十万コル、それに今在庫の薬は卸値で引き取って欲しいとのことで、それが40万コルほどです。」
五千万円か、結構な金額だな。
「50万コルか、結構な金額だが、手持ちはあるのか?」
「半分は現金で準備ができます。半分は融資を受けます。」
「融資の金利はどれくらい?」
「担保があるので年3%ですね。荘園で作った薬も丸ごと利益にできるので長くて2年で返済できます。」
それならリスクは少ないな。メイガリアンはやり手だ。
「よし分かった。それなら話を進めてくれ。荘園でみんなに諮るが、問題ないだろう。」
「ありがとうございます。」
「それと、武器や防具、金、銀などの店はどんな感じだ。」
「金や銀は専売制ですから、魔石と同じで公爵様の店しかありません。武器、防具、魔道具などは、確か鑑札が2か3だと思います。」
「魔道具の店もあるのか?」
「空の民は普通の武器や防具は使えませんから、技工士が作った道具を使います。それは魔道具の店で売られています。この島だけかもしれませんね。」
そうか、リムのローブなんかはここで買うのか。
「魔道具の店ではどんなものを売ってるんだ。」
「空の民が使う、ローブや、ワンド。それに指輪はほかの種族でも使えますね。ヘリスが技工士の修行で魔道具の工房で手伝いをしているので、明日呼びましょうか。」
「おう、そうだったな。ぜひ話が聞きたい。」
しかし、この鍋の魚骨が多いな。出汁はうまいけど。
翌朝は店の様子を外から見てたが、店の貼り紙を見て帰る客が多い。貼り紙は読めないが、おそらく懐中電灯は予約販売のみ、とか電池はおひとり様4個まで、とか書いてあるんだろうな。もっとこちらに持ち込まんとな。昼過ぎに店員が呼びに行ったメイガヘリスが戻ってきた。
「ショウ様、お久しぶりです。」
「おう、メイガヘリス元気でやってるか?」
「まだまだ未熟者ですが、色々勉強させてもらってます。」
俺たちの話声を聞きつけて、メイガリアンも店の奥の部屋に顔を出した。
「ヘリス、お帰りなさい。」
「かあさん、これは土産だよ。」
「きれいね、ありがとう、これは何?」
「魔道具製作の時に出る、宝石のかけらでアクセサリーを作ってみたんだ。」
「おう、そんなこともできるのか。凄いな。」
「ショウ様のおかげで新しい世界が見えてきました。ありがとうございます。」
「それは良かった。宝石なんて物もあるんだな。」
「はい、通常のワンドは木製ですが、宝石を埋め込むことで色々な効果を追加できます。」
「宝石はそんな使い方をするんだな。どんな宝石があるんだ。」
「ダイヤ、サファイア、エメラルド、ルビーなんかですね。」
そこは地球と同じなんだ。
「そうか、それはどうやって手に入れるんだ?」
「採掘3の特技がある人が探し回って、ようやく小さな鉱脈が見つかるようです。今も昔いた採掘3の人が見つけた鉱脈を細々と追いかけているようです。あとは伝説では下層の魔物が落とすことがあるらしいです。」
採掘3なんてのがあるのか。先は長いな。
「そうなると、宝石は高いんだろうな。やはり公爵様の専売なのか。」
「高いですが、専売ではないようですね。なにせ流通量が少ないので。」
「ダイヤでどれくらいの値段だ?」
「高いですよ、俺も詳しくないですが、ざっと金の五倍くらいだと思います。」
やはり高いな。まてよ、金がこっちだと1グラム10万円ということはダイヤが1グラム50万円か。むこうだと5カラットの質が悪いのでも500万円にはなるな。
「1グラムで五千コルか。それは良い値段だな。」
「計算ではそうなんですが、小さい宝石は魔道具に使えないので、そんな小さいのには値がつきません。だから今日はかあさんにかけらでアクセサリーを作って持って帰れたんです。最低10グラムからですね。値が付くのは。」
何!一グラムのダイヤモンドが屑石だと。
「じゃあ、その10グラム以下の屑宝石はどうしてるんだ。」
「作業で出た屑宝石は、俺たち新人がカットの練習に使って、その後は捨てますね。」
捨てとるんか!俺は思わず唾を飲んだ。
「じゃあ、採掘業者は屑石は納品しないんだな。」
「はい、だいたい20グラム以上ですね。カットすると小さくなりますから。」
俺はおもわずメイガヘリスの肩を掴んで叫んだ。
「すぐ採掘業者を紹介してくれ!」
メイガリアンとメイガヘリスは目を見合わせて、どうして俺がそんなに興奮しているのかわからなかった。メイガヘリスは首をかしげながら、急いで魔道具屋に戻った。




