ドワーフの兄弟
五日後、俺たちはリショウム迷宮の30階層にきた。ゲートを使ってペルカの出身地コリコラス島に向かうためだ。向こうでは妖精やエルフは目立つので、リムとモウルは連れてきていない。帰るのに向こうのゲート使用料が要るので、俺とエリーンとペルカと二人のノームが今回のパテだ。リムが自分も行くと言ったが、エリーンに止められた。モウルは荘園で調剤の準備に取りかかっている。
「ゲートをでると、税関があります。薬も課税されますから、最小限にしてください。」
メレンタスがアドバイスしてくれる。優秀だ。
「武器や防具も課税されるの?」
「ひとり、1セットまでは大丈夫です。弓と剣を使う人はどちらか置いて行って下さい。」
俺はボウガンを置いていこう。どうせ戦力外やけど。
初めて迷宮のゲート移動は緊張する。ゲートをくぐると小屋の中に出た。ここを使ったことのあるペルカが先導する。
「このドアの向こうが入島管理と税関ですが、このメンバーなら入島管理はフリーパスです。そのあと税関で持ち物申告をします。」
俺たちは無事に入島管理と税関を通過して、向こうの迷宮の30階層に出た。海外旅行でも初めての国ではこの手続きは少し緊張する。外に出ると売店がある。そこでこの迷宮の上までの魔物一覧ガイドを買う。千コルもする、ぼったくりや。エリーンとメレンタスが魔物リストを確認している。
「これなら問題ないですね。途中毒持ちがでるので、ショウさん、先頭で。」
そうなるのか、涙。しかしこの迷宮も多くのパテが主道を行き来してるので、ほぼ魔物に出会うことなく、一日で上までたどり着いた。迷宮をでるとそこは山の斜面だった。
「こっちは少し寒いな。」
「コリコラス島はジェローリア島より北にありますから、寒いですね。」
ペルカはそういうとエリーンの背中に乗って、道案内を始めた。他の三人は運搬車に乗る。エリーンが飛ばしたので、半日でペルカの集落に到着した。途中は山道が多く、平地はほぼなかった。集落には大きめの小屋が点在している。
「あの大きいのが家なのか?」
「あれは鍛冶場ですね。家は山を掘り進んだ洞窟です。」
ほんとに山の民なんだな。俺たちはペルカの案内で洞窟の一つに連れていかれた。途中で何人かのドワーフとすれ違ったが、ペルカは笑顔で挨拶を交わしている。
「ここで少しお待ちください。」
洞窟の中は家具や敷物があって、なかなか充実している。ドワーフは暗いとこでも見えるので灯りはない。俺とエリーンは少し困る。ほどなくしてペルカが二人のドワーフを連れてきた。やはり背は低いな、大きな目がそっくりだ、これが兄貴なんだな。
「ご主人さま、これが兄のビジェイとスリニーです。」
「ご主人さま?ペルカお前は空の民の貴族に仕えてたんじゃないのか?」
ビジェイと紹介されたドワーフが険しい視線を俺に向ける。
「ああ、お兄ちゃん、今でも空の民の貴族様にお仕えしてるよ。このお方はショウ様、私の家族です。」
「なんだと、お前人間の家族になったのか!空の民に仕官して少しは鍛えられているかと思ったが、落ちぶれて人間とくっついたのか。」
こっちでは人間とくっつくとダメなのね、まあそうなんだろうな。
「お兄ちゃん、ご主人さまは素晴らしい人間だよ。侮辱すると私が許さない。」
「だいたい、戦ってもだめで、鍛冶もできないお前がそんな大きな口を利くんじゃない。」
スリニーは兄と妹が言い合うのをおろおろして見ている。良い奴だな。
「私はご主人さまのおかげで変わったの。試してみる?」
ペルカの大きな目が血走ってる。ペルカほどほどにな。
「その斧で私を切ってみて。」
「お前、死にたいのか。」
「いいから、早く!」
ビジェイは首をかしげながら、斧で軽く横なぎした。
「うん?」
ビジェイの斧はペルカに弾かれた。
「もっと全力で!」
ペルカに煽られてビジェイは斧に力を込めて横なぎした。しかしこれもペルカの体に弾かれた。
「どういうことだ?」
ビジェイは呆然と言った。
「物理攻撃絶対防御」
「なんだって、そんなの聞いたことないぞ!」
「スリにい、そこの丸太投げて。」
スリニーはペルカに言われて、傍らの大きな暖炉用の薪をペルカに向けて投げた。ペルカは舞うようにその薪を空中で切り刻んだ。二人の兄は目を剥いた。
「私はもうポンコツじゃないの。このご主人様のおかげで。」
「す、すごいなペルカ。」
スリニーが小声で言った。
「もうレベルも40だし、鍛冶もできるようになったの。」
「お、おまえが中層探索者になったのか。良かったな。」
ビジェイがペルカを抱き寄せて、泣いた。ペルカとスリニーも泣いた。良い光景だ。
俺たち4人は三兄弟の再会を見て、呆然としていた。ペルカが気づいて全員を紹介した。
「さっきは失礼なことを言ってすいません。」
ビジェイが頭を下げた。
「いえいえ、大丈夫ですよ。私も最初に会ったときはもう少しで踏みつぶすところでしたから。」
エリーンがぶっこんできた。
「エリーンさん、そうなんですか!」
そこに食いつくなよ、ペルカ。
「ご主人様自身は大したことないんだけれど、家族の力を引き出すことができるの。私たちはみんなその恩恵を受けてるの。」
たいしたことないとか言うなよ。本人気にしてるんだから。
「えーと、みんなショウさんの家族ということですか?」
メレンタスが何か言いそうな気配を感じたので、とりあえず口を塞いだ。
「空の民のお姫様とか森の民、畑の民もいるよ。」
ビジェイとスリニーは顔を見合わせた。そして俺を上から下までじっと見つめた。そうなるわな。
「そんなすごい人間がどういうことでこちらに来たのですか?」
「お兄ちゃんたちに鍛冶を頼みたくて、ここまで来てもらったの。」
「俺たちに鍛冶ですか?」
「ここだとお兄ちゃんの腕を存分に使うような仕事が少ないでしょ。ご主人様のところにはでっかい仕事が待ってるの。」
「確かに、最近は鉄の防具や武器しかやってないが。でっかい仕事とは?」
ペルカがビジェイの耳元で何かを囁いた。大きな声で金塊の話はできんな。強盗とか来るかも知れんし。
「それは、本当か?」
ペルカが頷いた。俺も取りあえず真似して頷く。
「本当なら、嬉しいお話ですが、今は俺たち兄弟が稼いで生活しているので、」
俺が目配せすると、エリーンが兄弟の前に紙に包まれたものを差し出した。
「これを支度金としてお受け取り下さい。向こうでは住むところと食事は準備しています。」
ビジェイが紙を破ると金の破片が出てきた。出発前ペルカに金塊200グラムほどを切りとらせていたやつだ。エリーンに隠して税関を通過するよう指示していたが、どこに隠したかは知らない。知ってても言えない。
「こ、これだけあると両親だけだと10年は食えます。」
ふたりは荘園に来ることに同意した。
俺たちはその日の晩、ペルカの家に泊めてもらった。夜には採掘に行っていた両親も帰ってきて、ペルカと久々の再会を喜んだ。息子たちが大きな鍛冶の仕事で家を離れることについては喜んでくれた。
「ビジェイの特技が生かせる仕事をいただき感謝いたします。我々は先祖から鍛冶の仕事を生業にしております。高みを目指して技を磨くのが仕事です。息子たちを宜しくお願いいたします。それにペルカも大変お世話になっているようで、末永く宜しくお願いいたします。」
両親は深々と頭を下げた。良い人たちだ。200グラムの金はそのままだと大きすぎて売れないので、ペルカが大根をみじん切りにするように切り刻んだ。
翌朝運搬車に全員を載せて、ペルカの村を出発した。半日で迷宮まで到着した。そこから迷宮内をエリーンは運搬車を曳きながら疾走した。半日で30階層まで到着した。
「すごいスピードですね。」
ドワーフの兄弟はレベル30なのでここまでは来たことがあるはずだが、魔物が居ないがごときスピードに驚きを隠さない。30階層の小屋に金を払い泊まって、翌朝ゲートからイショウムの迷宮に戻った。ゲート使用料が痛いけど。そこからの登りはペルカが前に出たいといったので、毒持ち以外の魔物はほぼペルカが一人で殲滅した。兄たちに良いところを見せたいんだな。
「この迷宮は上位迷宮なんですね。たしかゲート通るときに行き先が出なかったような。」
スリニーはよく見てるな。
「そうだね。まだ一般に開放していないから、魔物との遭遇率も高いんだよ。」
15階層で一泊して、地上に戻った。着いたら夜だと思っていたが、まだ昼間だった。そうか、コリコラスとジェローリアの間に時差があるんだな。夜には荘園まで無事に戻れた。




