魔法防具
地上に出ると夕方だったがそれでもまぶしかった。多くのノームに混じってオーク達も数人キャンプ地にいたので、再会を喜んだ。久しぶりに地上での食事を楽しみ、その日はキャンプ地の小屋で寝ることになった。俺はひとりで小屋に入ったが、念の為に中から鍵をかけて寝た。夜中にカサカサと扉の外で音がしたが、聞こえないふりをした。翌朝早くに、エリーンとドロンの嫁の一人に運搬車を曳いてもらって、夕方には全員で山小屋まで戻った。シュレンジュ以下オーク全員が俺たちを迎えてくれた。親子、兄弟が無事に戻ったことを喜びあった。うんうん、全員無事で帰るのが最優先だよな。その日は干し肉料理もありの、宴会だ。酒はないがみんなで大いに騒いだ。夜も更けて寝ようと思い自分の小屋に戻ると、なんと風呂が増築されていた。シュレンジュが手配してくれたようだ。感謝しかないな。
風呂はもう沸いていたので、湯に浸かって頭を空っぽにして体の緊張を解いた。しばらくするとリムが飛んできた。俺はリムを風呂に引っ張り込んで、リムの服がびしょ濡れになった。リムはなんか文句言ってるが、抱きしめるとおとなしくなった。
「リム、がんばったな。」
「ありがとう、でもがんばった甲斐があった。」
「そうだな、今日から少しゆっくりしよう。」
翌朝は主だった者たちが集まって今後の方針を議論した。
「皆の者、迷宮遠征ごくろうさまじゃ。今回も多くの者が新しいスキルや特技を手にいれた、実りある遠征じゃった。しかしこのまま更に下を目指すのは簡単ではなさそうじゃ。そこでこれからこの荘園をどうしていくか、迷宮攻略に向けてどうするか、意見を出して欲しい。」
リムは俺のエネルギーを吸い取って元気なようだ。こっちはダメージが大きのだが。
「ドロンが41階層以降は装備がダメとか言ってたけど、メレンタスどういうことか分かる?」
「41階層からは魔物も魔法を使ってきます。魔法は回避が難しいので、魔法の威力を低減する装備を使いダメージを減らさねばなりません。今のところここにはそのような装備は無いので、まずはそれを手に入れることですね。」
「魔法ダメを減らす装備はどうやって手に入れるんだ?」
鍛冶の知識があるペルカが口を開いた。
「魔法低減の装備は、材料の鉄に加えて、金と魔石が必要です。魔石は今回の遠征で橙や黄色魔石もそこそこあるので、金があれば制作を依頼できます。」
「金はどれくらいいるの?」
「金の配合量によって効果も変わるようですが、0.1%、1%、3%が知られています。盾だと重さが3キロほどですから、3グラム、30グラム、90グラムの金が必要ですね。鎧だと重さが6キロほどですから、その倍が必要ですね。」
「どれくらいの効果があるの?」
「魔法低減の効果は+1とか+2で表します。+1が10%低減です。0.1%を盾に使い、橙の魔石を使うと、+1か+2ですね。結果は鍛冶の経験に左右されるようです。1%で+3か+4、3%で+5か+6です。」
「材料があるとペルカでも作れるのか?」
「いえ、鍛冶2の特技が無いと作れません。私が作れるのは鉄の装備だけです。」
「そうすると、誰かに依頼するということになるんだな。」
「それは、そうですが、」
「どうした、何か問題があるのか?」
「魔石と鉄は準備できても、金が凄く高価なので、パテ全員分は難しいですね。」
そういえば確か金の値段は地球の10倍くらいだったような。1グラム10万円か、それは普通なら手がでないな。
「銀を混ぜると物理攻撃を低減するの?」
「そうですね。今はお姫様以外は鉄の装備ですから、銀を混ぜた盾や鎧を使うと物理防御が上がります。」
「金と銀を両方混ぜることもできるの?」
「見たことはありませんが、黄色の魔石があればそれも可能らしいです。」
「全員にそのような装備を行きわたらせるのは数百万コルが必要になるな。気の遠くなるような話じゃ。」
「お姫様の言う通り、青い渓谷の一族でも何世代にもわたって資金を貯めて金や銀を贖ったようです。」
一同はメレンタスの言葉に天を仰いだ。無言の時間が続いたので、俺は少し休憩しようと提案した。30分後に再開することにして、おれは便所に向かった。鍵をしっかり閉めてゲートを使い清里に戻った。別荘の台所地下貯蔵庫に隠してある金塊を1本掴みリュックに入れて向こうに戻った。
会議を再開した。俺は無造作に金塊をペルカの前に投げ出した。
「ペルカ、これは使えるか?」
ペルカは怪訝な顔をして金塊を手に取った。
「割っても良いですか?」
俺が頷くと、ペルカは斧で金塊を一撃した。柔らかい金はほぼ真っ二つになった。ペルカはその切り口をまじまじと眺めたが、だんだん顔色が変わって、大きな目を更に大きく剥いた。
「こ、これはまさか本物ですか?」
ペルカの反応に一同もざわついている。
「ああ、10キロの金塊だ。」
向こうでは1億円の価値だがこっちでは10億円だ、そりゃ驚いて当然だな。
「どうして俺がこれを持っているか聞いてはいけない。しかし、これはお姫様の為に俺が準備したもので、やましいものではない。」
俺の言葉にリムはまた涙目になってる。しっかりせい。
「おそらく山の民の長い歴史の中でも、このようなものを見た者はいないと思います。」
ペルカは冷静に喋ろうとしたが、声が震えている。
「これだけあれば、相当の防具が準備できるだろう。」
俺の言葉が聞こえないかのように、いつも考えなしのペルカが考えこんでいる。
「あのう、よろしいでしょうか?」
ペルカの瞳が燃えているように見える、怖いわ。
「な、なんだ?」
「私の実家は代々続く鍛冶の家系です。私は鍛冶としての才能もなく、ご主人様のお力でやっと鍛冶になりましたが、兄がふたりおり、若いころから優秀で一人はもう鍛冶2の特技をもっています。」
そこまで言って、ペルカはおれを大きな瞳で見つめた。キスしたいぞ。
「も、もしお許しいただけるなら、兄達をこの荘園専属の鍛冶として雇っていただけませんでしょうか?」
「そんな優秀な鍛冶がどうしてこの小さい荘園なんかに来るのじゃ?」
リムが口を挟んだ。座布団一枚だな。
「特技は使うほど熟練度があがります。確かに実家は名門の鍛冶ですが、それでも金を使った武具を作成するような機会はそれほどありません。これだけの金を使った鍛冶が経験できれば、それは何代かの名人と匹敵する経験になります。」
「でも、そんな優秀な鍛冶を雇う財源が。」
シュレンジュが財布を気にしてる。それは大事なことだな。
「あ、それなら大丈夫だと思います。職人は自分の経験を積むことが第一です。食事と小屋さえ用意していただければ十分だと思います。鍛冶の費用はいただきません。」
「しかし、ショウさんは色々怪しいですから、それが外部に漏れるのは困りますね。」
エリーンの意見はまっとうだな。たしかに怪しいのは否定できない。
「それは私が命に代えて約束させます。それも心配ないと思います。鍛冶は職人の仕事にしか興味がないですから。」
ペルカの圧にみんなが押しつぶされそうになっていた。いつもペコペコしているペルカがこんなに熱くなるとは想定外だ。
「リム、どうする?」
俺は最終判断をリムに任せた。
「ぺ、ペルカも家族じゃから、その家族がどうしてもというならそれを尊重してはどうかのう。」
俺はリムの頭をそっと撫でた。
「じゃあ、そういうことで。どうすればいいんだ、ペルカ。」




