荘園の拡大
翌朝はリム、シュレンジュ、メレンタスと俺で相談をした。エリーンは町への買い出しで不在だ。メレンタスはノーム側の窓口だ。
「このままだと、後2,3回遠征すると資金が尽きます。薬が高いですから。」
荘園の経営を任されてるシュレンジュが暗い顔で切り出した。
「あ、それだけど、ゲートにポポゼウルさんからMP2を1万本いただいた。」
「なんじゃと、そんな貴重なもの頂いたのか、聞いとらん。」
リムは感が良いので、素早く反応してる。無視しよう。
「それはよかったです。当面薬は買わなくていいですね。それでも荘園全体の赤字体質はどうにかしなといけないですね。そこで私にいくつか提案があります。」
みんなその点には同意だ。
「まず、鍛冶場です。今は武器や防具も買ってますが、ペルカさんが鍛冶の特技を得ました。自前で作ってはどうでしょうか?鉄はシュレンビータが採掘できますし。」
「鉄だけあれば鍛冶はできるの?」
「普通の武器はそのようです。特性付の武器には、貴金属や魔石がいるようですが。」
「普通の武具はペルカに頼めそうだね。」
「次が調剤です。今回モウルさんとファロピピンが調薬の特技を手に入れました。材料はファロロームスが採取の特技で入手できるので、これも自前で調達できます。またファロピピンはフルタイムで作業できるので、販売することも可能です。」
「薬の材料は採取だけで足りるの。」
「1レベルは採取だけで良いそうです。2レベルは赤魔石がいりますね。」
草だけ原料で100コルもするのか、ぼったくりやな。売る方にまわりたいな。
「最後は、工房です。メイガヘリスが今回上級技巧の特技を手に入れました。本人にもどこまでできるのか未知数ですが、レアスキルのようです。微細な工作ができる可能性があるので、商品開発ができそうです。」
「どれも赤字解消に役立ちそうじゃな。シュレンジュには手間をかけるが、進めてほしい。」
リムがシュレンジュの提案を進めるように指示した。時間はかかりそうだが、必要だね。
「ノーム側から何か要望はないか?」
「今のところ、特にはありません。次の遠征がいつ頃に予定されているのか、教えていただければ色々段取りができます。」
まだそこまでは考えが及んでいないな。エリーンの意見も聞かないと。
「まだ次の計画まで考えていない。エリーンが戻ったら相談しようではないか。」
リムも仕切りができてる。あとで頭撫でてやろう。
翌日遅くにエリーンたちが運搬車5台とともに戻った。穀物満載だ。ノーム配下のケンタウロスは二人がパテを組んで物資をゲートに運ぶ。二人はまた町に向かった。
「メイガリアンに今回の提携の話を伝えて、同族を紹介しました。穀物の調達はメイガリアンが段取りをつけて、同族たちが運んでくれることになりました。メイガリアンの方は商売が順調に進んでいるようです。」
エリーンが俺とリムに報告する。エリーンの表情も明るい。運搬役を分担できたのは良かった。
「次の遠征なんだが、10日後くらいでどうだろうか?」
俺はあっちから持ち込みたいものがいくつかあるのと、商品の懐中電灯も持ち込むので、少し時間がほしい。
「それでよろしいかと思います。どのように遠征しますか?」
「それなんだけど、次は40階層をめざして、3パテで行きたいんだが、どう思う。」
「3パテですか。」
エリーンは驚いた様子はない。やはり同じ考えか。
「たしかに野営を考えると多いに越したことはありませんね。」
「じゃあ、メレンタスを入れて編成を相談しよう。」
その後、メレンタスを呼んで編成を決めた。
前パテ
リム、エリーン、モウル、ペルカ、サフィアス、メレンタス、シュレンモハン、ファロメイリン、メイガロマトン、ショウ
中パテ
ケンタウロス、ノーム 7 ドワーフ 2
後パテ
ケンタウロス、ノーム 5 ドワーフ 4
この並びで迷宮を進み、前と後ろのパテで魔物と対峙することになる。後ろは壁役のドワーフが多く、相手によっては中パテから魔法援護を受ける。なので中パテは魔法攻撃ができるノームが多い。ノームは近接戦闘と魔法戦闘の両方がバランスよくこなせるのが良いな。
日程と編成をエリーンとメレンタスからみんなに伝え、翌朝、俺たちはエリーンの運搬車に乗って山小屋に戻った。ひさしぶりだ。ゆっくり休みたい。
俺たちが迷宮にいる間も、荘園での小屋の建設はすすんでいる。すでに10軒以上が建ってる。どれも小さいけど。町とはいえないが、村くらいの雰囲気は出てきたな。鍛冶には鉄の精錬も必要なので大きな小屋が必要になる。ペルカが建設スキルを持っているシュレンニトルと大声で言い合ってる。
「そんなに大きな小屋は立てられません。時間かかりすぎです。」
「そこのところ、ぜひぜひ、お願いします。この通りです。」
ペルカはいつもの土下座攻撃だ。この攻撃は痛い。
「うーん、しょうがないですね。ちょっと時間かかりますよ。」
「ありがとうございます。いつまでも待ちます!」
引き続き土下座だ。この攻撃にはみんな負ける。
「さすが、ペルカ、素晴らしい攻撃だ。」
「え、私は攻撃なんかしてません。」
ペルカは怪訝な顔をしている。
「鍛冶で剣や鎧を作るのにはどれくらいの時間がかかるの?」
「剣は材料が揃ってると一日ですね。鎧は二日か三日でしょうか。普通のしかできないので申し訳ないです。」
「いやいや、それでも助かるよ。普通じゃないのはどうすればできるんだ。」
「鍛冶2の特技があれば、上級武具が作れます。見たことはないですが鍛冶3のスキルがあるらしく、これがあれば神器クラスが作れると言われていますね。鍛冶の腕だけでなく素材が必要です。銀を混ぜれば、戦闘系の付加効果が付きます。金を混ぜれば、魔法系の効果が付きます。それと魔石も要りますね。」
ミスリルとかはないのね。コピーライトの関係かな。
「使う材料によってできる武具は決まってるの?」
「それがですね。経験的にどういう配合だと成功するかは明らかになってるんですが、その結果については、ランダムなんです。なのでコストが高いこともあってそれほど多く上級武具は流通してません。」
それだと、金持ちでないと無理だ。
「この前、金や、銀は高いって聞いたが、上級武具作るのにどれくらいの量を配合するの?」
「ざっくり言うと、上級武具は、金、銀の配合率が0.1%、1%、3%の三種があります。それと魔石は赤、橙、黄、の3種が使えます。この組み合わせで成功が確認されています。」
ペルカは戦闘では今一つだったが、鍛冶の事はものしりだ。
「詳しいな。凄い。」
「私の一族は代々鍛冶屋です。なので小さいころから鍛冶についてはずっと修行してきました。今回鍛冶の特技がご主人さまのおかげで手に入り、やっと一人前です。すごく感謝してます。」
「ペルカの思いが通じたんだよ。」
俺も良いこと言えるようになった。
そこにメレンタスとサフィアスの姉妹が歩いてきた。
「おう、見物してるのか。」
ふたりともここはほぼ初見だからな。
「はい、おだやかで良いところですね。」
さすが、メレンタスはうまく言うな。それぐらいしか褒めようがない。
「姉妹で会うのも久しぶりなんだろ。」
「2年ぶりです。サフィアスが1年前にこの島に来ましたが、その前は私が迷宮にずっといましたから。」
「そんなに長くいたの。」
「1年くらいはいました。時々地上にでましたが、私たちはあまり迷宮生活が苦にならないので。」
「メレンタスは上級火魔法のスキルがあるけど、どんな魔法なの?」
「さすがご主人さまです。お見通しなんですね。実は里では隠してました。」
「えっ、どうして?」
「若いのに上級魔法が使えるというのは、あまり目立ちたくないので。MP量だけでも注目されてましたから、それ以上は、、、」
「ここでは、みんな規格外だから、思い切りやってくれて良いよ。」
「はい、このようなパテに入れていただいて光栄です。青い渓谷のパテは60階層直前までは行けます。しかし最後の壁がなかなか突破できませんでした。おじいさまのいうとおり、こちらで偉業のお手伝いができれば嬉しいです。」
「そんなに畏まらなくていいよ。気楽に行こう。先は長いんだし。」
「サフィアスのようにうまくご奉仕できるかわかりませんが、そちらも頑張ります。」
いや、それは無いはずだぞ。メレンタスの言葉の理解が正しければだが。上級火魔法の話を聞かずに俺はその場を離脱した。
住む場所についてはすったもんだがあったが、俺の山小屋にリムとエリーンがふたりで住むことになった。俺は小さい小屋に移った。その方が気楽だ。シュレンニトルに頼んで内側からかかる鍵を付けてもらった。これはワープゲートを無人のところで使わないといけないからだ。他意はない、少しあるけど。俺は色々ネットで注文したりするために、向こうに戻る。ほんとに貯金がやばい。宇宙人にもらった金塊をなんとかしないと。
荘園にいると昼間は心安らかに過ごすことができた。次の遠征に向けて英気を養えた。しかし夜になると、異常事態が次々発生して、対応に追われる。心が折れる。俺は悪くないのに、たぶん。




