ゲート解放
手つかずの迷宮なので、もちろんゲートのまわりには建物も何もない。高さ3メートルほどの黒い円形のものがある。板にペンキを塗ったかんじで厚みはない。
「これがゲートなの?」
「そうですね。まだ休止状態なので触っても大丈夫ですよ。」
俺は黒い円盤のようなものを触ってみる。硬いが厚みがない。
「その隣にある丸い円の上に乗って、ゲートオープンと念じると「名前を付けよ。」といわれます。名前を付けると、迷宮の所有者として認識されます。ゲートの開閉は所有者だけができます。」
「じゃあ、名前を付けて、ゲートを開けると他の島にも行けるの?」
「そうですね。ただ少し気になることが。」
たまに失敗して壁の中に飛び込んで死ぬとか?
「移動先の迷宮名を告げるとそこに移動できます。移動先を告げないと、ランダムで近い迷宮に移動します。その時移動先の迷宮にこちらの迷宮の名前が記録されます。」
「それが問題なの。」
「先方に迷宮名が記録されると、向こうからもこちらに移動できるようになるのです。」
そうか、相互主義というやつだな。
「新しい迷宮が発見されたことが知れると、いろんなところからこっちに来るでしょう。御覧のとおり、ここでは全く受け入れ施設がないので混乱すると思います。」
エリーンの説明は分かりやすい。それは確かにまずいな。サフィアスが前に出てきた。
「あの、いいですか?」
「どうかした?」
サフィアスの言葉はよくわからないので、これからの言葉は要約した結果だ。間違いがあるかもしれんけど。
{エリーンさんの説明は正しいのですが、上位迷宮では少し違います。上位迷宮から一般迷宮に行くと、その記録は一般迷宮側には残りません。たとえ迷宮名を知ったとしても、一般迷宮側から上位迷宮に行くには上級迷宮を通過したことのある者と一緒でないといけません。}
「サフィアス凄いな。そんなことまで知ってるんだな。」
まるで廃課金で研究してるゲーマーみたいだ。
{霧の民はそれぞれの一族で迷宮の極意を極めようと競い合っています。族ごとに様々な方法で迷宮の情報を集めて、子供のころから徹底的に教え込まれます。}
なるほど、それで公爵家はノームを招いたんだな。これはポンコツのエルフやドワーフより、よっぽど役にたちそうだ。
「どれくらい極意に近づいているの?」
{まだまだだと思います。私の一族は研究が進んでいるほうではあると思うのですが、まだ一番底が何階層なのかさえ、わかりません。中層の分析をほぼ終わっていると思いますが、下層はまだ始まったばかりですし、深層はまったくです。}
深層なんてのもあるのか!
「とりあえず、生活していくには中層まででも凄いと思います。私は中層の魔物のことも知らないので、後で教えてくださいね。フォーメーションを指示するのに必要なので。」
{はい。よろこんで。}
エリーンには懐いてるな。
「それなら、このゲートを活性化しても問題ないということ?」
{いままでの研究の範囲ではそうだと思います。}
「お姫様、出番ですよ。」
俺の声に、リムははっと顔を上げた。寝とるんかい。
「わらわが、ゲートを開けても良いものかのう。」
あ、そんなこと考えてたの、失礼しました。
「お姫様が率いるパテが踏破したんです。胸を張って開けてください。」
胸はないけどな。
「ショウ、おぬしが開けないか、そういうの得意じゃろ。」
これはあとでお仕置きが必要だな。
「お嬢様、みんながお嬢様の元で楽しく働いております。遠慮の必要はありません。」
みんなが頷いた。
「そ、そうか。しかし名前もむずかしいな。」
「迷宮の名前もリムで良いんじゃない。」
「真名を使うのはダメじゃろ。」
エリーンがリムに耳打ちした。
「お嬢様、空の民の貴族が真名を隠すのは処女だけですよ。」
リムは顔を真っ赤にした。
「そんなこと、みんなに知られても良いはずがない!父上が知ったら卒倒する。」
その後もひと悶着あったが、エリーンは提案した、リショウムという名前でおちついた。
リショウムは妖精語で家族という言葉に発音が近い。リムとショウを混ぜただけだが決まったらそれでいいだろ。
無事ゲートが開き、リムが迷宮の所有者に認められた。
「それで、これからどうする?」
「まずは、町に戻って御父上に報告じゃな。」
「それは、もう少しお考えになった方が良いかと。」
「うん、どうしてじゃ。」
「いくつか理由はあります。表の理由は、今この話が公になりますと、安定している空の民の島の政治状況が不安定になります。それに今はやっとゲートを解放しただけなので、ゲートの所有権について疑義が生じる可能性があります。」
「表以外にも理由があるのか?」
「はい、せっかく自由に移動できるゲートがあるのです。この力を使いお嬢様配下の充実や経済的な基盤の強化を図ることも可能かと思います。」
エリーンはかわいいがなかなかダークだ。
「そ、そうか。取りあえず地上に戻ろう。」
帰りは2日で30階層を駆け抜けた。オークたちは全員レベル30になった。
地上に戻った後、探索隊のメンバーは一日ゆっくりと休養した。俺も小屋でごろごろしているとリムがやってきた。
「ショウ、良いか?大事な相談がある。」
「おう、これからの方針だな。聞こうか。」
「そ、それも勿論じゃが。」
そう言いながら、一枚の紙を差し出した。なんか悪い予感がした。また下手な似顔絵で書いてある。解読すると。
一日目 リム
二日目 エリーン
三日目 オーク 三人
四日目 モウル、ペルカ、サフィス
五日目 リム
「えーと、さすがにこれはまずいんじゃないかな。」
「えっ、どこがじゃ!」
「畑の民はそういうの慣れているけど、四日目は無理じゃないかな。俺の提案を書いてもいい?」
一日目 リム 二日目 エリーン 三日目 オーク 三人 四日目 モウル
五日目 ペルカ 六日目 サフィス
それを見てリムは泣き出した。いつものパターンだ。
「そのかわり、迷宮に行かないときは、昼間に二人だけで一時間、方針を決めるための打ち合わせをするということでどうかな?」
リムは泣き止んだ。
「二時間にしてくれたら、それで我慢しよう。」
俺はリムを見つめた。リムは横を向いた。
「それで、これからどうする。」
「ショウはどう思う。」
「実は試してみたいことがあるんだが。」
「まさか、まだ家族を増やしたいのか!」
いや、それも否定しないがそれじゃない。
「そうじゃなくて。俺の覚醒には家族のレベルアップ時にスキルや特技の獲得率が大幅に上がるバフもあるんだ。どうもレベル5毎にこの抽選がされているようなので、中層に行ってレベルを上げるとメンバーの中に新しいスキルや特技が獲得できる可能性が高いんだ。」
リムは目を剥いた。
「それはまた、無茶苦茶なバフじゃな。凄いとは思うが、大幅に上がるというのはどのくらいじゃ。」
実は俺もわからない。だいたいゲームではこの手の確率は隠されてるしな。
「それは定かではないけど、十人でレベルあげれば一人くらいは上がるかと。」
自分で言いながら説得力ないな。
「うーん、それじゃとなあ。」
「それがだめなら他の島に密かに行って、戦力になりそうな家族を増やそうか?」
「それは絶対だめじゃ!しょうがない。中層攻略とレベル上げを次の目標にしよう。」




