新迷宮攻略
新迷宮の1階層に入った。なだらかな坂の先だ。迷宮はどこでも30階層までは本道が広くて、そこから脇道が広がっている。魔物発生には波があるらしいが、30階層までの波は非常に安定しているらしい。その結果、各階層の魔物数がほぼ一定で、討伐した分だけ新しく発生するらしい。そのため、新規に発見した迷宮だからといって、魔物で溢れているといことではないようだ。ただし運搬路として多くのパテが行きかう公爵領本道のような低い遭遇率ではないことは、俺にでもわかる。
第一列にペルカ、第二列にエリーン、第三列にリム、サフィアス、第四列にオーク4人、第五列に俺とモウル という並びにした。エリーンの回復は貴重なので、少し後ろに下がらせた。後ろから攻撃されたときは、リムが加勢することになる。
「今日中に10階層まで行くので、急ぎますね」
エリーンの掛け声にみんな少し表情をひきしめた。楽勝といっても迷宮は気をぬけない。
オーク4人は初迷宮だし。ほんの数分のうちに最初の魔物が出た。ねずみだ。エリーンの指示でオーク4人が前に出る。オークたちは、ねずみだったら、戦って良いと事前に言われていた。ねずみ10匹相手に、母オークふたりはすこし齧られたが、子供二人はほぼ瞬殺だ。最初の戦いを終えて、オークたちは笑顔だ。見守っていたベテランたちも祝福した。良い光景だ。やはり初探索は遭遇頻度が高い。10分空けずに次の魔物が現われる。ねずみと蝙蝠がほぼ交互に来る。ねずみはオークが、蝙蝠は飛び道具と魔法でほぼ瞬殺だ。2階層にはいると、アイスウルフがでた。2体だ。ペルカが満を持して斧を振るう。おー、当たってる!俺はリムと顔を見合わせた。笑顔がでる。これもほぼ瞬殺だった。オークたちからは歓声が上がる。ペルカは後ろを振り向き親指を上げた。俺は声をかけた。
「凄いぞ、ペルカ。よくやった。」
「ご主人様のおかげです。ありがとうございます。」
いつものように、なんども頭を下げている。気のせいかリムの機嫌が悪くなったような。
「これで、10階層までは、ねずみ、蝙蝠、アイスウルフで確定ですね。危険は無さそうなので、一気に五階層までいきます。」
エリーンの言葉に、みんなは、おー、と声をあわせた。
3階層で前にアイスウルフ3体、後ろにねずみ8体が一度に現れた。エリーンも前に参戦した。その時うしろから新たにアイスウルフ2体があらわれた。オークたちがねずみと戦っているのを風のように飛び越えモウルが踊るようにアイスウルフを切り刻んだ。これでも余裕だな。
「わらわの出番がないな。」
リムは嬉しそうに呟いた。
事件が起こったのは4階層に入ったところだった。ずっと無言だったサフィアスが俺のほうを振り返り呟いた。
「違う。」
え、なんて言った。
「違うの来る。」
サフィアスの二度目の言葉はみんなに聞こえたので緊張が走った。リムが少し高く上がった。
「ファイアスライムじゃ!」
8体現われた。スライムは物理攻撃耐性があるうえに、火魔法も効きにくい。
「ペルカ下がって、お嬢様、サフィアス」
エリーンの声に反応して、リムが闇魔法、サフィアスが水魔法を放った。一撃で2体ずつ爆砕する。戦いは直ぐに終わった。
「どういうことですか?」
ペルカでもエリアに出る魔物は三種類であることは知っている。4種目が出ることはありえない。
「もしかしたら。」
エリーンが少し考えて首を傾げた。
「上位迷宮。」
サフィアスが続けた。
「それはなんじゃ?」
「この世界では数十か所の迷宮が発見されていますが、その中で2か所だけはエリアの魔物が4種類出てくることが報告されています。この二か所は上位迷宮と呼ばれています。」
エリーンの説明にペルカが涙目になって聞いた。
「それは怖―い迷宮なんですよね。」
「それが、上位迷宮については詳しい情報が出まわっていないので、よくわからないんです。ここまでは難易度がそれほど高いとは思えませんが。お嬢様どうしましょう。」
リムは判断を求められて、ちらっとこちらを見た。俺が頷くと、
「そうじゃな、注意しながら進んでも問題ないじゃろう。」
5階層に到着した。昼食の休憩をとった。サフィアスが水魔法で飲み水を作る。オークたちが簡単な調理をしている。左右の端ではモウルとペルカが警戒している。10人いると全体に余裕があるな。休憩中にも左右から魔物が襲ってくるが、どれも瞬殺だ。モウルなんかは口にパンを入れたまま戦ってる。ファイアスライムはあれ以来出てこない。1時間ほど休憩して俺たちは下を目指した。6階層以降は少しファイアスライムの頻度が増えた。リムとサフィアの出番が増える。
「ふたりともMPは大丈夫?」
「闇魔法は強度を調整できるのじゃ、相手がファイアスライムごときなら、いくら来ても大丈夫じゃ。」
「水魔法、相手弱いと強すぎ。MP半分以下。」
サフィアスの口にMP回復の薬を突っ込んだ。
「これからはファイアスライム相手だとサフィアは少し魔法セーブした方がいいな。」
「わかった。」
サフィアスは薬を飲みながら答えた。そのあとは何回か複数の魔物の群れに襲われたが
問題なく10階層階層に到着した。途中のエンカウントが多かったのでオークたちは全員レベル10になっていた。
「今日はここで野営します。みんな準備をお願いします。お嬢様はこちらにお願いします。」
エリーンの運搬力が上がっているので、野営には薪を使うことができた。さすがに初攻略なので運搬車は使っていないが、次からは運搬車も使えそうだ。リムはエリーンと一緒に移動して少し離れたところで大きめの闇魔法をぶっぱなした。どうもトイレ用の竪穴を空けているようだ。サフィアスもいるから、水洗もできそうかな。食事をとったあとは置き型のランプを左右にひとつずつ置いて、見張りがひとりずつ付いた。俺、エリーン、モウル、ペルカがオークと組んで夜の見張りをする。ファイアスライムが出た時はサフィアスを起こす段取りだ。見張りと言いながら、夜でも30分に一回は魔物が来るので、ずっと戦ってる感じだ。翌朝早くに俺たちは次のエリアに進んだ。
11階層に進むと早速魔物が出てきた。蜘蛛が10体。俺は前にでて、プチプチとつぶす。次は後方から熊1体、モウルが華麗に切り刻む。ほぼ同時に前から熊1体、これをペルカは斧を二回当てて爆砕させる。次に蛇が3体、リムが闇魔法で片付ける。順調だ。13階層まではそれらを次々と撃破して進んだ。14階層に進み後ろからムカデ1体が現われた。
「モウル、ペルカと代わって。」
エリーンが指示する。ペルカが前から駆け付ける。ムカデは皮が硬いので斧の方が良いらしい。盾でムカデの攻撃を避けながら、5回の攻撃でこれも爆砕した。あ、ドロップした。
赤い魔石が残った。上位迷宮は魔石のドロップも早い。
20階層まで順調に進んだ。またリムがトイレの穴を空けて、昨日と同じように野営をこなした。オークたちはレベル19まで上がっている。
「さあ、後一日ですね。今日も気を抜かずに行きましょう。」
エリーンの掛け声で21階層に進んだ。早速大蜘蛛があらわれた。二体いる!俺は前にでて大蜘蛛のタゲを取る。左からペルカが斧で切り付ける。少し距離をとって右からエリーンが槍で突く。俺は少し削られたが、エリーンが回復をかけてくれる。問題なしだ。
「大蜘蛛2体でるんだな。」
「そうですね。少し難易度が上がってますね。」
エリーンが少し不安そうな表情をみせた。少しして大きなバッタが現われた。1メートルはあるな。
「中衛,気をつけて!」
エリーンが叫ぶ。意味が分からなかったが、バッタがジャンプして俺の後ろのオークたちの中に飛び込んだ。シュレンジュが噛みつかれて、ダメージを受ける。結構やばい。ファロメイリンが剣で押し返して対峙する。後ろからモウルが凄い早さで駆け付けバッタを切り裂いた。これが加速なのか。エリーンがシュレンジュに回復をかけて、声をかけた。
「シュレンジュ大丈夫?」
「はい、ありがとうございます。凄いジャンプですね。油断してしいました。すいません。それに、モウルさんのスピード凄かったです。」
「もう2時間くらいつかえないから、気を付けてね~。」
相変わらず、軽いな、こいつ。
「バッタがでたら、ファロメイリンの後ろに他の三人は隠れて。」
エリーンがオーク達に指示をだした。こんな魔物もいるんだな。パテ全体が引き締まった。しばらくしたらサイが現われた。なんでもありやな。大きい、3メートルのが突進してきた。ペルカが盾で止めようとするがとまらない。エリーンも槍を突き立てて止めようと参戦するが、それでも押し込まれる。リムとサイファスが魔法を連発する。何発か当たってやっと爆砕する。
「これは前後に来るとつらいな。」
「その時はペルカさん、物理防御を使ってなんとか凌いでください。攻撃は角だけなので単調です。お嬢様は闇魔法でそっちを攻撃してください。あと全員で後ろに当たりましょう。」
「が、頑張ります。」
ペルカが大きな声で答えた。これは誉めてやろう。22階層で前にサイ、後ろにバッタが出てきてすこしドタバタしたが問題なく乗り切った。チームワークが良くなってるようで嬉しいな。リムを見ると、嬉しそうな顔をしている。同じ想いなのだろう。23階層では前後にサイが現われた。エリーンの指示通りにみんな動いた。ペルカの絶対物理防御も凄いな、サイの突進を一人で止めた。そこにリムが闇魔法を最大出力で打ち込む。3発で仕留めた。後ろではエリーンが盾でサイの突進を止めようとしているが、同じ四つ足でも体重差が大きい、じりじり押し込まれる。モウルがすばやく後ろに回り込み、右後足を切り落とした。グッジョブ!それでもサイは押してくる。エリーンのかわいい顔がゆがむ。サフィアスは水魔法を打つが、効果が少なくMPを使い切ったようだ。短剣を抜くと左後足をこれも素早く切り落とした。サイの突進はさすがにとまった。そのあと横からみんなで袋叩きにして仕留めた。
「サフィアス凄いね。近接戦闘もできるんだ。」
「もともと、魔法系じゃない。」
そうなんだな。知らんかった。
「ペルカの物理防御もすごかったぞ。一人で止めよった。」
リムに褒められて、ペルカはいつのもように何度も頭を下げながら、はにかんだ。
「いえいえ、お役に立ててよかったです。」
「お姫様の闇魔法もすごいけど、さすがにMP大丈夫?」
俺の質問にリムは無い胸を張って答えた。
「何を言う、これくらいではびくともせんわ。」
そのあとリムが隠れてMP回復薬を飲んでいるのを俺は見逃さなかった。
24階層に入るとこのエリア4種目の魔物があらわれた。うーん、大きい芋虫だな。
「これはどうするの?」
鑑定でHPは高いがスピードも腕力の低いのを確認したので、エリーンに聞いた。
「そうですね。ペルカは下がってください。ショウさん、メイガロマトン距離を取ってボウガンを打って下さい。ワームは傷つけるとそこから毒液がでます。また近づくと糸をだすので絡めとられます。」
それは知らないと大変だ。俺たちは遠くから弓を放つ。ほとんど動かないから全部当たるが、なにせHPが高い。何十本か当たって、やっと仕留めた。その間、ワームがじりじり前進するので、パテはじりじり後退する。はたから見てると滑稽だろうな。これに前後を囲まれたらどうするんだろ。
「もし前後に出たら大変そうだな。」
俺の質問にエリーンは少し考えて答えた。
「その時は一体はお嬢様の闇魔法で仕留めていただくのが良いでしょうね。ただし魔法だと魔物の破片が飛び散るので、近くにいると毒になります。今回は解毒薬たくさんもってきてるから大丈夫ですよ。」
俺はいいけど、みんなはそれで良いのか?
公爵領の21-30階層と比べて、魔物の難易度は遥かに高いような気がする。それは俺があのときはまだレベル30になってないという主観的な理由かもしれないので、リムに訊いてみる。
「そんなの比較にならんほどこっちが大変じゃ、わからんのか!」
やはり、そうか。みんなを覚醒させといて良かった。リムには言えんけど。
その後も、いろんなパターンの組み合わせで魔物に対応したが、問題なく対処できた。25階層で食事休憩をとって、英気を養った。ひとつ気になったのは魔石のドロップだ。公爵領迷宮では30階層までで数個しか落ちなかったが、こちらでは結構ドロップしてるような気がする。エリーンに聞いてみる。
「実はそうなんです。もう30個は赤魔石がドロップしてます。この先でも増えることはあっても減ることはないでしょうから、30階層までで100くらいになるんじゃないでしょうか?」
「それはやはり上位迷宮だからか?」
「それはどうでしょうか。ここが誰の手もついていない処女迷宮だからかもしれませんね。」
「そうか、やはり最初はいいんだな。」
なぜかエリーンは顔を赤くした。
「ありがとうございます。」
何の話や。
そして更に半日の探索を終えて、俺たちは30階層に到達した。オーク達もレベル28まで成長している。いよいよゲートだ。




