家族、更に増える
その夜は、リム以外のレベル30の五人が順に見張りにたつことになった。俺が見張りから戻ると、リムとエリーンがなにか揉めていた。ちなみに、小屋は俺とレムとエリーンの三人でひとつだ。
「お嬢様、何が優先すべきかを考えて下さい。」
「そんなことは、わかっておる。わかっておるが、納得できん!」
「今の戦力ではどうにも動きがとれないんですよ。」
「しかし、わらわの闇魔法と、おぬしの回復があれば何とかなるではないか。」
「時間をかければそうでしょうが、このまま赤字がつづければお嬢様の貯えも尽きてしまいます。短時間で成し遂げねばなりません。」
リムは泣き出した。なんとなく話の流れが分かったので、おれは小屋に入るのをやめようとしたが、エリーンはそれを許さなかった。そうですよね~。
「ショウさん、そこに座って下さい。」
なんか俺が浮気して責められてる旦那みたいになってる。
「ショウさんは、どう考えているんですか?」
「えーと、何の話。」
「とぼけないでください。三人が来たときからわかってるでしょう!あの三人も覚醒しないと動きがとれないことは。」
「いや、俺は。」
「ショウはどう思っておるのじゃ。聞かせてくれ。」
リムは泣きじゃくりながら言う。
「俺はリムを守るのが仕事だから。リムが良いと思うことに全力で尽くすのみだ。」
「ショウさん、ずるいですよ!」
エリーンは逃がしてくれない。俺は泣いているリムの頭を撫でた。
「俺はどんな時でもリムが一番だから。安心して。」
リムは顔を上げて俺を見上げた。そして言った。
「わかった。エリーンの言う通りにしよう。」
「お嬢様、ご英断です。」
エリーンはそういうと、背中の袋から何かを取り出した。そこにはMP回復薬がたくさん入っている箱があった。エリーンはにっこり笑うとそれを俺に渡した。えー、今から!!
やっと朝が来た。俺はほとんど寝てないが。寝落ちしそうな中でなんとか三人のステータスをみた。
皆ステータスは倍になっている、ようだ。数字が頭にはいらない。
モウル スキル 物理防御 特技 剣技
ペルカ スキル 加速 特技 剣技
サフィアス スキル 水魔法 特技 状態異常耐性
良かった。と思いながら意識が無くなった。
目を醒ますと、横にリムがいた。
「だいじょうぶか?」
「はい、寝たらすっきりしました。」
「昨日は徹夜じゃな。」
また、リムは泣きそうになってる。俺はリムを抱き寄せて両手で包み込んだ。もう少しこうしておこう。また意識が無くなっていたようだが、頭のほうから、エリーンの咳払いが聞こえて目が醒めた。横ではリムが俺に抱きついて寝ている。
「お嬢様も昨日の夜はほとんど寝ていないようでした。」
エリーンは優しい眼差しでリムを見つめた。
「これからもお嬢様をよろしくお願いしますね。ショウさん。」
「勿論です。」
俺もこの家族を大事にしたいと改めて思った。
「三人はどうしているの?」
「モウルとペルカはずっとふたりで模擬戦をやってます。新しいステータスと特技に体を動かすイメージが付いていかないようです。サフィアスはあたり一面を水びたしにして、みんなから怒られてます。」
「あいかわらず、みんなポンコツなんだな。」
「でもモウルの斧捌きは格段に良くなってますし、ペルカの動きはとても早くて目で追うのがやっとです。それに水魔法があると、戦力的にはともかく、迷宮に水を持ち込む必要がなくなります。運搬の選択肢が増えるので一度に深くまで進めます。」
「そうなんだ、それは良かった。」
「ほんとに、ご苦労様でした。」
俺はどう答えるのが正解かわからずに、黙って頷いた。
日が高くなって、腹が減ったので、小屋から出た。ペルカがオークの手伝いをして料理をしている。こいつはお屋敷で料理係だったからな。俺を見つけたペルカは駆けよってきた。
大きな目を更に大きくして、
「ご、ご主人様、末永く宜しくお願いいたします。」
と、いつものように何度も頭を下げた。なんでご主人様なんだ。それに言い方が、、
「お、おう、こちらこそよろしく頼む。そのご主人様はという言い方はどうかと思うぞ。」
「でも、畑の民の先輩はそう呼ぶのが、良いと。」
もうそんな情報交換してるのか!井戸端会議恐ろしいな。なんの先輩や。
「剣技はなじんできたか?」
「はい、モウルさんとの模擬戦でだいぶわかってきました。お互いにクリティカルなんて出たことがないので、木の武器でもちょっと危ない場面もありましたが。」
詳しく聞くのはよそう。
「物理防御も使ってみたか?」
「はい、自分にしか使えないみたいですが、ダメを受けません。」
「おう、それは良かった。」
「でも使うMPが多くて、一度使うとその日はもう無理な感じです。」
ドワーフはMP少ないからしょうがないな。
モウルはファロメイリンに剣の稽古をつけていた。こっちのほうがちゃんとした探索者らしい風景だ。モウルは口で教えるより実戦で伝えるんだろうから、ファロメイリンは大変だろうが。モウルも俺も見つけて、稽古を中断して寄ってきた。
「主殿、昨晩はありがと。またお願い。」
なんか、すごく軽い感じになってる。
「ああ、そうだな。」
横でファロメイリンが聞いてるので、話しにくい。
「剣技は役にたってるか?」
「うーん、早く反応できるのはすごいね。加速と組みわせると素早い魔物に使ってみたい。」
「深いところには素早い魔物もいるらしいから、楽しみだ。」
「ところで、主殿、次も無理やり、、」
モウルの発言に危険を感じた俺は、モウルの口を塞いだ。我ながらファインプレーだ。隣でファロメイリンが驚いている。そのまま逃げるようにその場を離れた。
サフィアスは魔法の使い方について、リムにレクチャーを受けていた。キャンプを水浸しにしないなんてのは、当たり前だが。
「姫様、主と同じで魂、暖かい。」
サフィアスの言葉は断片的でよくわからない。しかしリムはその言葉ににっこりとした。
「魔法は波動みたいなものなんだが、サフィアスをそれを感じることができるみたいじゃ。ショウにはわからないだろうけど。」
そりゃ、俺には無理だわ。その後サフィアスから不適切な発言があり、俺はまた窮地に陥いった。リムが怒ってるのでその場を逃げた。
覚醒した新メンバーを含めて翌日からの動きを決めた。俺を除いたレベル30の五人は凄いから、30階層までは楽勝のはずだ。そうであってほしい。ただし全く情報がないので、それぞれの10階層で魔物が何かはわからない。慎重なエリーンでさえ、30階層までは何の問題もないと断言したので、レベル30の六人に加えて、シュレンジュ、ファロンビス、ファロメイリン、メイガロマトンを同行することになった。ゲート探索とレベル上げを同時だ。母親のなかでメイガリアンは 連れて行きたかったが町で店をまわしているので、今回は見送りになった。他のオークは念の為、一度山小屋まで全員戻ることになった。
エリーンが昇れるようにと、崖に狭い道をシュレンビータが準備してくれていた。早朝一行はリムの号令で出発した。パテは何人まで組めるのと、質問したが誰も答えを持っていなかった。経験的には商業運搬チームでは10人までは実績ありとのことだ。だから今回も10人なんだな。ゲームではありえない大所帯だ。岩場の裂け目を慎重に進むと迷宮の入り口らしきものがみえた。半分はまだ岩で覆われている。そこで俺は前衛職三人に準備していた新製品候補を渡した。
「これは、なんですか?」
ペルカはいつものように大きな声で訊いた。
「ゴムバンドを頭のサイズにあわせて調整するんだ、そのあと、横の出っ張りを上に上げろ。」
ペルカは言われた通り、頭につけるランプのゴムを調整してサイズを合わせた。その後、なんと、自分の巨乳を持ち上げた。なんでやねん!さすがにエリーン、モウルは直ぐに灯りをつけた。ペルカのボケにはさすがに酷くてだれも突っ込まなくてスルーだ。いや天然なんだが。
「な、なかなか便利なランプだな。手を使わなくてよいし、視線につい来る。」
リムもペルカのあまりの天然ボケに驚いて、言葉がぐだってる。
「今回テストして良ければ、千コルで売りましょう。」
俺もペルカは見なかったことにして会話を続けた。ペルカはあまりの恥ずかしさに倒れこんでる。魔物と出会う前に大ダメージだな。




