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迷宮の発見

その後、町に商品を運ぶ以外の時は、毎日のようにエリーンが資材を採石場に運搬した。頭がさがる。距離があるので、なにか緊急事態が起こった時に備えて、採石場には合図の花火と狼煙を向こう側から持ってきた。


採石に人数をかけていないので、直ぐに結果が出るとは思っていなかったが、1週間後にそれは起こった。昼前に採石場から緊急事態を知らせる狼煙があがったのだ。

「お嬢様、ショウさん、ファロメイリン、背中に乗って!」

俺は部屋にあるMP薬と回復薬をリュックに詰めて、エリーンの背中に飛び乗った。ファロメイリンも剣だけではなく、向こうにいるはずのメイガロマトン用の矢も抱えていた。

三人を乗せるとエリーンは疾走した。運搬車を曳くと一日の行程を2時間で駆け抜けた。


採石場に着くとキャンプは荒らされており、テントは倒れていた。4人のオークの姿は見えなかったが、試掘しているところに五頭の獣が見える。

「狼に囲まれているようじゃ。」

一番目の良いリンが飛び立って攻撃しようとした。家族を襲われた怒りが魔力を高めているようだ。更にエリーンも槍を構え狼に近づいた。俺の目にも狼がはっきり見えた。なんか白いな。


アイスウルフ レベル1


念の為に鑑定するとアイスウルフとでた。これは大変な事じゃないのか?

「こいつらアイスウルフだ!」

おれの叫び声に、みんなが反応した。それはアイスウルフが強敵だという意味ではなく、なぜアイスウルフがこんなところにいるのか、という意味でだ。

「そんなはずはないじゃろ!」

リムが叫び返した。素早く闇魔法で四匹を倒した後、五匹目には火魔法を放った。効かない。

「そ、そんなことが、」

リムが呆然とするなか、エリーンが一撃で最後の一匹を貫いた。

ファロメイリンはエリーンの背中から飛び降り、剣を構えながら、狼が爆砕したところに向かった。

「マトンどこ!!」

「メイリンこっちだ。」

お前ら名前半分省略してんのか!

大きな石の下から声が聞こえた。俺が廻りを警戒する中、エリーンが石を持ち上げた。狭いところに4人が折り重なるようにいた。生きてる。良かった。エリーンが回復魔法をつかい4人のHPはほどなく回復した。


ファロメイリンが周囲を警戒して、俺たちは事情をメイガロマトンに訊いた。

「足場の資材を運んでいると岩の上で何かが動いているのが見えました。獣のようだったので、みんなに退避するよう指示をしました。その声に反応するように、岩から次々と獣が出てきました。俺は三頭を弓で倒したのですが、獣は死んだときに爆砕しました。これはまずいと思いました。爆砕するのは魔物だと、聞いていたからです。何か異常事態だと感じたので、狼煙を上げるように指示しました。獣に追いつかれましたが、みんななんとか剣で渡り合いました。まだ獣が増えるかもしれないので、このまま戦い続けてはまずいと思い準備してあった岩の窪みに隠れました。隙間から獣がのぞいていましたが、剣であしらっていました。」

さすがエリートオークだ、魔物を初めての戦いで三頭も倒したのか、凄い。判断も的確だ。俺なら死んでたな。

「メイガロマトン、よくやった。お前のおかげで誰も死ななかった。」

俺はメイガロマトンを抱きしめた。俺たちはアイスウルフが現われた岩場の上を見上げた。

「わらわが、見てくる。」

リムはそういうと高く上がっていった。しばらくして戻ってきた。

「これは、大変なことになったかもしれん。この前吹き飛ばした岩盤の奥に道のようなものが続いている。」

「えーと、それは。」

「迷宮があるというでしょうか?」

エリーンが厳しい表情で言った。

「そうかもしれん。そうでないと魔物が出てきた説明がつかない。」


リムとエリーンから聞いた迷宮についての知識をまとめると、この島では4つしか迷宮が見つかっていないが、島の中央部は盆地が多く、それぞれ孤立しており、未踏の地も多い。なので未発見の迷宮があっても驚くべきことではないらしい。人口が多く開発が進んでいる島では、地上で魔物が見つかると、その出所を追いかけて、迷宮を見つけ出している。そのため未発見の迷宮はあまりないらしい。今回はリムの闇魔法で、塞がれていた迷宮から地上にでる道が開いてしまったという仮説が正しそうだ。


「これからどうしますか?」

迷宮発見なんて一大イベントではこの世界の伝統に従わないとな。

「魔物が地上へ出てくるのを止めるのが最優先じゃ。その上で迷宮の所有権じゃな。」

迷宮って所有権あるの?

「迷宮は危険な存在ですが、一方で富を生む場所でもあります。うまく経営すれば管理する者には大きな収入が入ります。この世界では迷宮30階層のゲートに名前を与えた者がその迷宮の所有者として認められるのです。」

エリーンが丁寧に説明してくれる。ありがたい。

「それじゃ、ゲートまで行けばこの迷宮はリムのものになるんだな。行くしかないな。」

俺の考えなしの発言に、リムとエリーンは黙って顔を見合わせた。


「迷宮の解放には、最低限、探索するチームと入り口で魔物を警戒するチームが必要です。現状では、お嬢様のもとには、ショウさんと私しかレベル30はいません。この戦力ではそれを進めるのは難しいですね。また、費用もかかります。今の荘園では食べていくだけで精一杯ですから。それと政治的なことも考えないと。」

「政治的なこと、それは何?」

「お嬢様は公爵家の一員ですから、もし新たな迷宮解放が成し遂げられたら、当家は二つの迷宮を持つことになります。いままで四公爵家がひとつづつ保有してバランスが取れていた状況が変化します。」

なるほど、色々あるんだな。


魔物たちはキャンプを荒らしたが、食料などは無事だった。片付けをしていると、シュレンジュを先頭にオークたちが息を切らして到着した。三人の母親は自分の子供と抱き合って無事を喜んだ。四歳以上のオークの子供はすべて武器を手にしてこちらに駆けつけていた。人手が増えたので片付けはそれほどかからずに終わった。三人の母オークに状況を説明して今後について相談した。


「迷宮で万一スタンピード発生となると、お姫様の闇魔法でないと抑えられませんね。恐縮ですが、お姫様には当面こちらでお過ごしいただければと思います。」

シュレンジュの意見はいつも要点をついている。リムは何か言いたそうだったが黙っていた。良い子だ。

「シュレンジュには負担になって申し訳ないが、働ける者は当面こっちにいたほうが良さそうだな。」

「はい、ご主人様、私もそう考えております。」

ご主人様はやめろよ。

「あの、よろしいでしょうか?」

メイガリアンがこのような場で珍しく口を開いた。

「迷宮対応は我々のようにレベルが低いと大変なので、お三方に負担が集中してしまいます。店のほうは私が向こうで陣頭指揮をとりますので、向こうの三人をこちらに呼んではいかがでしょうか?新たに雇った人間を使いながら、更に募集することもできますし。」

メイガリアンがぶっこんできた。俺もそう思うが、俺が言うとリムに黒焦げにされそうだ。

「メイガリアンの言う通りですね。事情が全く変わりましたからね。柔軟に対応しないといけませんね。」

エリーンがリムの方を見ながら言った。沈黙がしばらく支配した。

「メイガリアンも町で生活するのは、嬉しくないかもしれないが、良いのか?」

「はい、お姫様や、ご主人様のお役にたてるのであれば、喜んで。」

だから、ご主人様はやめろって!

エリーンはメイガリアンを背中に乗せて、その日の夕方には山小屋経由で町に向かった。


翌日の昼には採石場のキャンプにエリーンは戻ってきた。運搬車に三人を乗せて。

運搬車を降りるなりサフィアスがゲロった。汚いな!

「すいません。凄く揺れた、感覚が。」

サフィアスの言葉は分かりにくい。コミ症や。

「お姫様、私は約束を破ってません、何かの間違いです。命だけはお助け下さい。」

ペルカは泣きながら土下座した。

「ペルカの不始末は私にも責任があるかもしれない。好きにしてね。」

モウルはなんか悟った感じだ。エリーンはこいつらになんて言って連れて来たんだ?

「夜中に突然、武器だけ持って黙ってついてこい、といわれたので覚悟を決めたわ。ここだと死体の処理も簡単ね。最後の情けで武器を使って抵抗させてくれるのかしら。」

モウルの妄想も大概だ。


リムが昨日から起こったことを三人に説明した。

「私は首を刎ねられるんじゃないんですね。ありがとうございます。」

ペルカはまた土下座してる。

「私はあまり強くないので、良いの?」

サフィアスは話を聞きながらもう一回ゲロってたが、話は理解したようだ。サフィアスだけじゃなくて他の二人も、期待できないという点では一緒だけど。

「まあ、新しく見つかった迷宮なので、出てくる魔物も強くないですから。」

エリーンがフォローしたが、なんとなく微妙な雰囲気になった。

「でも、新しい迷宮だと、色々と大変ね。」

貴族出身のモウルには色んなことが分かっているんだろう。

三人は店員から護衛職に格上げされて、給料も上がることを告げられて、同意した。引き続きこの迷宮の事は厳秘だと告げられて、またペルカは引きつってたが。


足場用に運んでいた板を使って急拵えで小屋が建てられた。大きなのは立てられないので雨風をしのぐだけの小さなのが次々と出来上がった。一緒にいることになるので、サフィアスにも魅了をかけた。驚いたのは、サフィアスが、小さく、あっと言ったことだ。

「ショウさん、なんかした?」

サフィアスが俺を見上げながら言った。

「い、いや。何もしてないよ。」

通勤電車でたまに中年のおやじが女子高生に詰められてる感じで俺は答えた。

「そう。」

これがノームの能力なのか。気を付けよう。

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