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荘園の建設

五日ほど北の盆地を空けていたが、建設作業は順調に進んでおり、物資の倉庫が完成していた。

「最低限の建物はできたので、次はお姫様のお館ですね。」

シュレンジュが荘園運営全体を差配しているので、提案してきた。

「そうですね。私もそれが良いと思います。」

エリーンが賛成した。

「いや、わらわはこの山小屋で良いぞ。他のことに労力を使ってくれ。」

リムは領主として見識を示したような発言をしたが、本意はそこに無いような気がする。

「そういう訳にはいきません。領主には恥ずかしくないお館に住んでいただかないと、配下の恥になります。」

シュレンジュも引き下がらない。いいぞ頑張れ。

「お館は木材ではなく、石で作りたいと考えております。ここから北の山に向かうと石が切りだせそうなところもありそうです。探索隊を送りたいと思いますので、許可をいただきたく。」

「まだまだ荘園は始まったばかりなのに、そんなところに手をかけんでも良いじゃろう。」

リムもここは譲らない。

「お嬢様、お館は領民の家族としての一体感のシンボルです。それは大切にされた方が良いと思います。」

多勢に無勢で、リムは涙目になってきた。助け舟を出そう。

「まあ、建てるかどうかは別にして、まずは石があるか探してみてはどうでしょうか?」

「そ、そうじゃな。まずは石を探してみて、それからまた決めるとしよう。」


山の中には今までとは違う獣がいるかもしれないので、剣技と弓技をもつ子供も連れて、エリーン、俺、採掘技能持ちの子供の五人で山に向かった。リムも行きたがったが、荘園に武力のある者がいなくなるので置いてきた。四日ほどの予定なのでエリーンに袋をかけて水や食料も準備している。山なので運搬車は使えない。一日進むと山を一つ越えた。そこまでには岩場のようなところは見つからなかった。二日目になると、狼と出会ったが弓技をもつ子供がボウガンを使い一撃で仕留めた。頼もしい。その夕方、もうそろそろ野営をしようかと考えていると、前が開けてそこには大きな岩場が広がっている。


岩場を見つけた俺たちはその麓にキャンプを構えた。建築に使えそうな石材があるか見極めるには時間がかりそうだ。今回はあと二日分しか食料がないから。明後日には戻らないといけない。それまで二手に分かれて探索を始めた。エリーンは足場が悪いからキャンプで留守番だ。


俺はファロビンスの長女のファロメイリンと一緒に行動した。彼女は剣技持ちで、おれはボウガンを持っているので、狼くらいだったら撃退できるだろう。

「ご主人さまは、前に出ないでください。危険ですから。」

「ファロメイリン、ご主人さまはやめろ。俺たちは家族だ、ショウさんで良い。」

「でも、母からはご主人さまと呼ぶように言いつけられています。」

「帰ったら、みんなにその呼び方はしないように伝えるから、ショウさんで、良い。」

「わかりました。ショウ様。」

まあしょうがないか。

「しかし畑の民は名前が長いので、呼びにくいな。」

「我々は数が多いので、同じ名前が増えないように名前が長いのです。一番長いんじゃないでしょうか。人間も長いみたいですね。ショウ様は三文字ということは貴族様ですよね。」

え、どういうこと。

「いや、俺は貴族じゃないぞ。」

「貴族様は、名前が短いのです。特に高貴な方は二文字が多いですね。」

そうだったのか、リムはそんなに高貴なのね。

「私たちは母の名前の一部を引き継ぐ母系家族です。ですから弟や妹もみんなファロで始まります。」

いろいろ勉強になる。

「まだ若いのに、こんな危険な事につきあわせてすまないな。」

「いえ、私はもう6歳ですから、全然大丈夫です。畑の民は寿命が短いので、5歳で一人前です。7歳になると家族を持って子供を授かります。」

「君たちは一家で北の盆地に来てしまったから、結婚相手もいないからすまないな。」

「え、そんなことありません。こちらにも相手はいますよ。シュレンジュさんのところやメイガリアンさんのところに。」

「えーと、異父兄弟でも結婚できるということ?」

「はい、畑の民は母を同じくしていなければ結婚して問題ありません。」

三家族の子供たちが結婚して10人ずつ子供を産むと、大変なことになるな。それにだ、家族と準じるということになると、義理の孫にも覚醒が利きそうだ。マイレージも孫までいけるしな。


二日間歩き回ったが、適当な岩場は見つからなかった。しかし大理石が少しは見つかったので、可能性はありそうだ。一度戻って出直すことにした。母が違えば結婚できるという目でみると、同行しているメイガリアンの5歳の息子、メイガロマトンとファロメイリンは仲が良いように見えてきた。こいつら結婚するかもな。しかし名前が長くて覚えきれない。


山小屋に戻って、探索の状況をみんなに報告した。リムは石材が見つからなかったことにほっとしてるようだ。シュレンジュとエリーンは場所はわかったので、そこまでの道を整備して本格的に石材を探そうと主張した。二人が主流派なので、それは要らないんじゃないか、といったリムの声はかき消された。あとで頭を撫ででやろう。


10人ほどが、山の中のキャンプ地まで運搬車を通すために、道の整備を進めた。1週間で完成した。その間、エリーンとメイガリアンは追加の商品を町まで運んで、商売の状況を確認して帰ってきた。

「商売はどんな感じじゃ?」

「最初の1週間で50本売れていました。収支ラインがひと月で100本くらいなので順調ですね。これから知る人も出るでしょうし、評判が広がればもっと売れるようになるかもしれません。」

「それくらいの数だったら、安定して仕入れできそうです。」

懐中電灯だしな。ネットで買い続ければいいだろう。向こうの貯金が底をつきそうで、ちょっと心配だが。

「3人はしっかり働いているのか?」

「モウルが代金を間違ったり、ペルカが客と喧嘩になったり、いろいろあったようですが、お互いの欠点を補いながらなんとかやっているようです。」

その光景が目に浮かぶわ。

「思ったより商売が順調なので、もう少し店員を増やしても良いかもしれませんね。」

エリーンの提案が受け入れられ、次回の商品追加のタイミングで店員募集をすることになった。次はできる店員雇いたいしな。


リムは石材探索には反対なのに、翌日からの石材探索にはついて行くと言って聞かなかった。そのため今回はファロメイリンを荘園防衛に残して、メイガロマトンを護衛として連れていくことになった。十人で十日ほど探索ができるように、エリーンが運搬車を曳いて大量の食料を準備した。エリーンとリムがキャンプ地に残って、二人一組で4班にわかれて探索した。前回の探索で危険な獣はいないようだった。万が一出てもステータスの高いオークたちは持ちこたえることができるだろうという判断だった。俺はシュレンジュの娘5歳で採掘特技のシュレンビータとともに一番先頭を進んだ。採掘の特技はレア鉱物を見つける確率が高くなるらしいが、今回のような石材を見つけるのには役にたたんだろうと、思っていた。しかし地層などを参考にしながら進んでいく姿は頼もしい。三日間成果がなかった。四日目の昼すぎ、シュレンビータが指さした。

「あそこに大理石の露頭があります。」

ついに見つけた。十メートル四方くらいの露頭だったが、囲んでいる岩を取り除けば、結構大きな層がありそうだ。発見の知らせを聞いて各班が集まってきた。なぜかリムもしっかり飛んできた。

「みんな少し離れるのじゃ。」

リムが鼻息荒くして、みんなに指示を出した。もっと下がれというので、一同は露頭から百メートルほど離れた。リムから魔力の高まりを感じる。黒い矢のようなものが、露頭の端にさく裂した。岩は大きく破砕し、大理石もだいぶ飛び散った。これが闇魔法か!気のせいかもしれんが、迷宮でみたファイアボールとはけた違いの威力だ。これが見せたかったんだな。オークたちは歓声を上げている。俺は肩に止まったリムの頭を撫でてやった。

そしてだいぶ後ろでその様子を見て涙してるエリーンの姿を見逃さなかった。リムの一撃のおかげで、大理石層の隠れた部分が大きく見えるようなった。もう一発撃とうとしたのでそれはやめさせた。なにせ当たったところは粉々だからな。

「リム、よくやった。闇魔法すごいな。頼りにしてる。」

「お、おうそうじゃな。頼りにして良いぞ。」


その日の午後はシュレンビータがどのように大理石を切り出すか計測を行った。他のメンバーは大理石発見を祝して豪華な夕食の準備を進めた。


資材がネックだ。大理石の切り出しにはしっかりした足場が要る。それをくみ上げるだけの木材が必要だ。この辺りは岩場なので現地調達とはいかない。山小屋周辺には多くの木材が備蓄されつつあるが、板に加工して採石場まで運搬せねばならない。運搬で期待できるのはエリーンだけだ。

大理石発見の祝いでオークたちが騒いでいる中、リムに訊いてみた。

「リム、どこかで資材が運搬できるような家畜は調達できないのかな。例えば馬とか。」

「ウマ?それはなんじゃ。」

「四本脚で、運搬力が高い家畜だよ。」

「ほう、まるで草原の民みたいだが、そんな家畜は聞いたことがないな。まあ、牛なら少しは役に立つかもしれんな。」

馬はいないのに、牛はいるんか!

「荘園でも農作物が安定してきたら、次は家畜の放牧じゃのう。今年ではないだろうがそのうち牛も買うことになるのう。」

これでは当面、資材ネックの解決策はなさそうだ。石の切り出しにそれほど多くの労力をかける訳にはいかないから、まあ四人くらいでゆっくりやるしかないな。


翌日、シュレンビータ、メイガロマトンと後オークを二人残して、一旦山小屋に戻った。石の切り出し用の機材を買ったり、足場用の板の用意とかするべきことはたくさんあったので、先が見えなかった。リムが満足そうなのには、少しイラっとする。


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