町に店を開く
三日でエリーンが帰ってきた。速くなってる!その日のうちに子供たちに覚醒をかけた。
色々な特技が手に入った。
採掘、採集、農業、建築、とか。お、戦闘系の特技もある。剣技、弓技、何と! HP吸収なんてのもある、これはSSRだな。ガチャだったら。
4歳以上の子供たちはステータスの爆上げと特技に大騒ぎだ。小さい子供たちのは取りあえず母親には教えておいた。
特技に応じて仕事の割り振りを決めて、宿舎の建築と農地の開発を並行して進めた。オークたちが働いてる横で、リムとエリーンが揉めている。小声で良く聞こえないが、二日目の分を代われとか、代わらないとか。聞かなかったことにしよう。
1週間で三軒の小さな小屋が完成した。オーク三家族が感謝しながら引っ越した。リムが順番表からオーク3人を消そうとしたので止めた。
「なぜじゃ、あやつらは引っ越したではないか。」
「いや、そういう問題ではないと思います。」
俺がなんか言う前に、エリーンがぴしっと言った。あ、泣かした、俺は知らないから。
向こうから持ってくるランプを置き型から懐中電灯型に変えたので、一回に運べる量が大幅に増えた。ネットで大量に頼んでいたのを、空きがあるたびに少しづつ持ってきていたので、在庫が百になった。
「そろそろ、数が揃ったので、町で売りたいですね。」
「わらわが買ったのとは形が違うんじゃな。」
「あれは大きいので、別のものにしたんです。これは一方向に遠くまで光を届かせることができるので、迷宮ではこちらのほうが役にたつのではないでしょうか?」
「なるほど、そうかもしれんな。いくらで売るのじゃ。」
「ちょっと、メイガリアンを呼びましょう。」
「なぜじゃ、今日はあやつらの順番ではないぞ!」
「いや、そうじゃなくて、メイガリアンには商売の特技がありますから。」
俺の視線にリムは黙って飛び去った。エリーンがメイガリアンを呼びに行った。仕入れ値や店舗の賃料、人件費、販売予想を三人で議論して、ひとつ800コルで売ることにした。ぼったくりだ。値段がきまったと、リムのところに行くと拗ねていたので、頭をなでると機嫌を直した。ちょろいな。
翌日、懐中電灯を大量に積んで、久しぶりに町に向かった。三人プラスメイガリアンだ。出発の時はオークたちが全員出てきて見送ってくれた。剣技や弓技を持っている子供には剣やボウガンを持たせてるので、獣が来ても大丈夫だろう。エリーンの背中は快適だった。ステータスが上がっているので足並みは早いが安定している。エリーンも頑張って途中で疾走した。さすがに怖いので後ろから首に抱きつき、その上メイガリアンが俺に後ろから抱きついた。横を飛んでるリムがなんか怒ってたが、聞こえないふりをした。
一日で町に着いた。リムは荘園開発の報告を兼ねて、公爵の館に向かった。メイガリアンは公爵家の直接の使用人ではないので屋敷の敷地には入れない。エリーンと三人で宿に泊まろうとしたが、それもリムには不満らしい。押し切ったけど。
翌日は三人で空き店舗を探した。交渉相手は人間の俺が相手だと思っているが、オークのメイガリアンが厳しい交渉をするので、面食らっている。その日は交渉が成立しなかった。疲れて遅くに宿に戻ると、リムが待っている。
「お嬢様、お父様とのお話はいかがでしたか?」
「そうじゃな、ほんとのことも言えんし、適当にごまかしておいたわ。軌道に乗るまで数年はかかりそうだと、報告しておいた。」
「それはご苦労様でした。」
「店探しのほうは順調か?」
「なかなか値段が折り合いません。もう少し時間がかかりそうです。」
「そうか、明日はわらわも同行しよう。」
「いえ、お嬢様が一緒だと目立ちすぎます。お屋敷でぶらぶらしていてください。」
リムはなんか言いたそうだったが、そのまま俺の布団に潜り込んだ。
翌朝、早くから俺たち三人は店舗探しに出かけた。リムはぶつぶついいながら公爵邸に戻った。その日の夕方になってやっと値段が折り合った。手付を打って宿に戻った。リムが首を長くして我々の帰りを待っていた。
「お嬢様、宿の入り口でそんなに殺気を漂わせてると営業妨害ですよ。」
エリーンが容赦なく突っ込む。
「うるさいわ、わらわはひとりで寂しかったのじゃ。」
頭をなでてやると、機嫌が少し直った。部屋に戻り、手付を打ったことを報告した。
「お嬢様、お屋敷では何か面白い話はありましたか?」
「そうじゃな。面白い話ではないが、メイガリアンのいた荘園では今でも疫病が収まっていないようじゃ。そのため荘園の作物が十分採れないようじゃ。公爵家の財務状況も悪化しているらしい。使用人を少し整理するようじゃ。」
「私の夫も疫病で亡くなりました。荘園はまだ大変なんですね。回復には数年かかるかもしれません。ほんとうに私たちはお姫様に助けていただき幸運でした。ありがとうございます。」
メイガリアンが遠くを見るように言った。
「いや、みんなの働きにはこちらこそ感謝している。」
リムはこういう時はなぜかきっちり対応できるんだよね。
「それでは明日朝には北に帰るということで良いのかな。」
リムは早く帰りたがっているようだ。
「店は見つけましたが、畑の民が店員では、具合が悪いかもしれません。収支計画では数人こちらで店員を雇うことになっております。」
「なるほど、店員を見つけるまではもう少しこちらに留まるのじゃな。」
リム、怒ったり泣いたりするなよ。
「お姫様に最終的に店員を決めていただかないといけませんからね。」
俺は精一杯のフォローをした。
翌日は仮契約した店舗に向かい、内装や看板の打ち合わせをした。店の前には貼り紙をした。俺は字が書けないから、エリーンが書いた。
{店員急募 若干名 住み込み可 面接希望者は XXホテルまで}
午後は北へ持って帰る物資の買い出しで店を廻った。夕方部屋に戻ると今日は既にリムがいた。一緒に夕食にいこうかと相談しているところに、ホテルの従業員から面接希望者が来ている、との連絡があった。じゃあみんなで面接しようということになって、一階の会議室に降りていった。会議室の扉を開けると、モウルとペルカともう一人が座っていた。
「あ、お姫様!」
我々を見ると、ペルカが嬉しそうに叫んだ。モウルは視線を下げた。
「えーっと、久しぶりだな。面接に来たのは君たちで間違いないんだな。」
「はい。そうです。」
ペルカがいつものように大きな目をキラキラさせて答える。
「なんか、公爵様のところで人員整理があるらしい、と聞いたがもしかすると。」
「はい。来週末には出て行けと言われてます。」
もう少し悲しそうに言えよ。
「若手では、この三人が首になるの。左に座ってるのは霧の民のサフィアス。」
あいかわらずため口でモウルが付け加えた。さすがにペルカだけに喋らせるのはまずいと思ったのかな。
「あの、皆さま、サフィアスと言います。よろしくお願いします。」
小さい声で挨拶した。
HP 90 MP 310 知力 300 体力 140 腕力 150
素早さ 500 幸運 610 霧の民 レベル30 スキル なし 特技 なし
魔力寄りのステータスだが、幸運が凄い。背丈はペルカより更に低くて、銀髪で華奢だ。お人形さんみたい。
「あ、霧の民か。」
リムが何か思い出したように反応した。
「公爵家が迷惑をかけたかもしれないな。深層攻略に向けて、霧の民を雇ったと聞いていたんだが、財政が悪くなって,深層攻略を当面見合わせることになったらしい。」
モウルとペルカが首になった理由は想像がつくが、サフィアスはどうも公爵家側の理由らしい。可哀そうだ、退職金は割り増しがあるのかな。
「三人とも、首になっても故郷の島には帰りたくないので、この島で働くところないか探し始めたところなの。」
モウルが小さな声で説明した。
「そういうことなので、どうぞよろしくお願いします!」
ペルカが大きな声で何度も頭を下げる。こいつの行動はワンパターンだ。ひとしきり話した後、我々は三人を待たせて、隣の部屋に移動した。
「あの三人だと、店を任せるのは少し不安ですね。」
エリーンがズバリと言った。
「しかしなぁ、ふたりは知らない仲ではないし。サフィアスも頼んでこの島に来てもらってるのに、首にしてるんだからな。公爵家の一族としては責任を感じる。」
リムはこういう時は判断がしっかりしてる。たまにブレるけど。
「そうでしたら、客対応担当に明るいペルカさん、お金や在庫の管理を賢そうなサフィアスさん、交渉事は、人を良く見てそうなモウルさんという分担だったら良いのではないでしょうか。」
メイガリアンがリムの意向を汲んで提案した。さすが商人だ。三人を雇うことを決めて、隣部屋へ戻りその旨を告げると、三人は喜んでくれた。翌日三人に色々指示して我々は北の盆地に戻った。少し不安だが。
道中俺は霧の民について、リムに訊いた。
「どうして深層では、霧の民が必要なんですか?」
「低層はほぼ力技、中層は魔法と力のバランスがいるのじゃ。深層ではそれに加えていくつか必要なものがあると言われておる。霧の民がそれをカバーしているらしい。」
「具体的には、何をカバーしてるんですかね。」
「わらわは、中層にも行ったことがないのでわからん!」
逆ギレされたようだ。聞く相手を間違えた。
「危険を探知する力や生来の幸運度は少なくとも必要なんでしょうね。」
エリーンがフォローしてくれた。
「それにどうして霧の民とよぶんですかね?」
「それは、彼らが他の島とあまり交流をしないからではないかな。ほとんど向こうに行ったことのある者はいないし、外に出る者も少ない。入国を許されるのは限られた商人と霧の民に仕える者にかぎられるようじゃ。まるで霧のなかにぼんやりと見える、ということかな。」
俺の知ってる知識では、ゲームに出てくるノームに似てる感じだ。これからはノームと呼ぼう。




