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第29話 理科室

美優は話をしてくれたと思ったら、僕の疑問をただ単に解消させただけで、僕に対する不安は消えていなかった。

いや、さらに僕と美優の仲が悪くなった。


「はぁ......一体どうしたらいいんだ」

ため息を吐きながら学校へ向かってると、目の前が真っ暗になった。でも、目の部分が少し暖かい。

「だーれだ?」

後ろの人が僕の目を塞いで、その目を塞いでいる人を当てゲームが突如始まった。

記憶が失っていてもこのゲームのことを覚えていたのは少し自分でも意外だったが、その人物を当てることは簡単だった。

「沙耶香だよね?」

「正解です、秋紗先輩っ」

沙耶香はニコッと笑って、僕の前へ来る。

カバンを体の後ろで持ち、一緒に学校へ行こうという話になった。


学校へ着くと、他の生徒から視線が集まっているのが、すぐにわかった。

僕は男子ランキングというやらで、上位だったため新聞部の事件が大きくなったのだが、それのせいか僕に恋人が出来たことがいろんな人の興味を惹いたらしい。

「あれが副会長の恋人さんかー!」

「結構かわいいねー!」

「意外とお似合いだなあ......」

「いいなー!私も彼氏ほしー!」


僕自身の力じゃなく、記憶を失う前がモテていただけで、僕が人気なのは少し複雑な気持ちだが、みんなからこんなこと言われるのは嫌じゃなかった。

沙耶香は隣を歩いていて、顔を真っ赤にしていた。多分他の人からの視線に慣れていなく、緊張しているのだろう。

「沙耶香、また放課後ね?」

「はい、秋紗先輩」


僕たちは分かれ、教室に向かった。

教室に入ると、クラスメイトからいろいろと茶化されるが、その茶化しが嫌だと感じることはなかった。

でも、純恋と佳織は顔が少し不機嫌で、今日1日話すことはなかった。

「なあ、秋紗」

放課後になって生徒会室へ向かおうとすると雅也に声をかけられた。

「どうしたの?雅也」

雅也の顔を見ると少し複雑そうな、悲しそうな顔をしていた。雅也はいつもチャらく、でも本当は頭がいいが今の雅也はらしくなかった。

「お前の妹の美優ちゃんがさ......ある男子生徒と喧嘩したらしい」

その言葉を聞いて、僕は言葉を失った。

また美優が問題を起こした......?

そして、男子生徒と。やっぱり、美優は......

「それで、どうなったの?」

「男子生徒の方は鼻の骨が折れていたんだとさ。そして、美優は制服が少しボロボロになっているだけで、怪我などは無いそうだ」

その雅也の言葉に僕は少し違和感を感じた。

「待ってよ!美優が男子生徒に喧嘩でかつなんて......有り得ないと思わないか?」

「俺もそう思ったさ。でもな、それが真実なんだ。2人に何があったかはわからない。でも、美優ちゃんが何かで悩んでいるのなら、解決できるのはきっとお前しかいない!」

雅也の言葉が僕の背中を押してくれた。雅也はやっぱりいい友達だ。

「そうだよね......いつまでも美優から逃げていてはダメだ。今度こそ美優と話をしないと」


今度こそ美優と話をする......この言葉は何回僕の心の中で出てきたのだろう。

今までそう思っていても、少し怖く踏み出すことはできなかった。でも、このまま美優を放っておくことはできない。

僕はもう美優に嫌われてもいい、でもこのままだと他の生徒も犠牲になるかもしれない!

僕は教室から走って出た。


「美優、そこにいたんだね」

美優は委員会の仕事をしていたらしく、理科室の掃除をしていた。

「兄さん......私に何かようなの?」

理科室は大きい机が6個しかなく、実験する教室は他のあるため狭い。

だから、美優との距離も近くなる。つまり、話し合うには結構いい環境だ。

「美優はまた男子生徒を傷つけたんだね?」

「そ、それは!あの人が私に!」

「そういう言い訳はダメだ。美優は事件から男の人が苦手になったんだろ?」

そういうと、美優の顔色が変わった。

まるで図星だというような顔をし、少し焦っていた。

「だから、これから美優に近づく男子は傷つけられるかもしれない。美優も悪いことをしようと思っていない男子生徒を傷つけたく無いだろ?」

美優に対してこのような事を言っていうのは無理だというのは承知だ。

でも、少しでもいいから考えてほしい。

ゆっくりでいい、そうゆっくりでいいからあの事件から心を強くしてほしい。

「兄さんは何もわかってないんだね......兄さんなら少しは大丈夫かと思ったけど」

美優が小さい声でつぶやいた。

そして、理科室から走って出ようとした。


「待って!美優!」

僕はとっさに美優の腕を掴んだ。いや、掴んでしまった。

今の美優には異性と触れ合うことすら嫌なはずだ。たとえ兄でも......

でも、とっさに腕を掴んでしまったため、その地雷は爆発してしまう。

「い、いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」

美優は大声を出し、僕をものすごい力で突き飛ばした。

僕は美優の予想外の力の強さに、足を滑らせ頭を理科室の机にぶつけ、倒れた。


「兄さん......ごめんなさい」


朦朧とする意識の中で、少し涙目な美優が理科室から走って逃げたのが見えた。

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