犠牲
「お前が仕事やめるから〜俺が大変なんだよ。
責任者なってから上からも結果求められるし!」と不動産屋の帰りに舌打ちされる。
「私が仕事辞めたから、子供が生まれたんだよ。
あのまま働いてたら無理だったんだから!」と怜羅が言うと
「はいはい、俺の精子が少ないと言われたもんな。
悪うございました!」と一層機嫌が悪くなる。
何が原因かは分からないが、真治も一人っ子だ。でもおかげで平均的なリーマンでも三鷹に家買えたし私立にも中学から入れた。小学生時代からお受験塾にも通えた。
だが1番頭が発達する思春期に3年1度の頭の体操してなかったのが悪く影響してる気がする…そんな事あちらのご両親の前で言えないが。
建て売りの戸建てが建ってるのは都内は都内だが、三鷹レベルじゃない。大きなプールランドの近くなのだ。
おかげで最寄り駅から歩いて5分の家だ。
「電車1時間ちょっとで歩いて帰れたらスゴイよ!
おれん家なんか三鷹の駅からまたバスだぜ〜良くお袋が車で駅まで迎えに行ってたよ、オヤジが飲み会の時とか。」バスがなくなる夜は、飲み会帰りの旦那様を迎える奥さまが頭のカーラ外し忘れて迎えに来ていたのがギャグになってた時代が昔あった。
なので、真治にとっては郊外の一軒家は懐かしいし慣れているのだ。
特にプールランドは学生時代良く来てたらしい。
「仲間と夏休みに1回は来てたなあ〜懐かしい。」と喜ぶ。
「ふ〜ん、私は日本海の海で泳いでたから分かんないや。」と答える。
都内の中古マンションなら、また働きに出るのも可能だろうがココでは無理だ。実家も遠いしイザと言う時頼める相手もいない。まだまだ圭一が手を離れるまでパートすら厳しそうだ。
ほぼ不動産屋の営業と真治だけで話が進み買うことになってしまった。
外は真っ黒な家だ。中は普通に木がふんだんに使われて白っぽい壁でナチュラルな家なのだが。
でも、システムキッチンや風呂など水回りには真治が好きな黒が使われている。
「自然だけどアーバンな都会的な空気も欲しかったんだよなあ〜」と大きな開放的な窓際で真治が悦に入ってる。
いくら怜羅が「水回りは水垢飛ぶから黒っぽいのはやめて!」と言ったが聞いちゃいなかった。
「お風呂場のガラスって汚いの良く見ない?ああなるんだよ?良いの?」と言ったが、
「ええ〜?黒だし目立たないんじゃない?」とか言っていた。水垢はカルシウムやマグネシウムなどのミネラル成分だ。白いから黒背景だと余計に目立つのだ。
「毎日普通に掃除してれば大丈夫だって〜」とお気楽に抜かす。
とにかく生活の経験不足と想像力が圧倒的に低いのだ。
「都会育ちの男と結婚したのは、不正解だったかあ〜
でも、田舎育ちも帰省やらあちらの家での人間関係しんどいし…逃げ場はないか!」怜羅の実家では兄のお嫁さんが来る度、顔を引きつらせていた。
可愛そうだなと思うが、それが田舎なのだ。
だが富山は20代で自分の家を建てる人がほとんどで女性も働いてる人が多い。
今ではすっかり富山に馴染んで男の子2人の元気なお母さんだ。
「これから毎日水回りの水垢と戦う私より幸せかもなあ〜」とため息がもれる。




