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存続限界点: 朽ち行く世界と翼ある探検家 / Hard Limit: Decaying Reality and the Winged Explorer  作者: 核分裂断片
000 鉄と砂漠と: 砂に埋もれた記憶たち / Sand and Steel: Buried Memories of the Badlands
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#002A 脆く、儚く、自由な身体 / A Fragile, Transient, Unbound Flesh

ちょっと短いですが、もうそろそろセルンの次の旅が始まるので仕方ないです。

ここでするべきことを全て済ませた僕は、

来た道を戻り坑道の外を目指す。


あの黒い柱……もしあれがここの惨事の原因なのなら

長居していては僕も彼らと同じになってしまうかもしれない。

そんな不安を抱えながらも坑道の硬い地面を蹴り、上へと走る。


代わり映えしない規則的な構造の通路が視界の端を流れ、

奥には赤く光る作業員と差し込む白い光が。


彼の横をすり抜けて、さらにまっすぐ走れば外はすぐそこ。急ぐんだ!


――頭の中でいくつもの悪い考えが渦巻き、

僕の心臓は鼓動を激しくして苦痛を伝える。


ここにいる作業員たちはみなおかしくなってしまっているけど、

今ここで走っている僕は何ともない。


でももしあの状態になる条件が一定時間ここに、

もしくはあの黒い柱の周囲に留まることだったら?


時間ではなく周期的に、突然起こることだったら?

運悪くその周期が今訪れて、僕もあの状態になってしまったら?


今考えるべきではない最悪の展開の予想が僕の思考をかき回し、

恐怖と不安が知覚を鈍らせる。


前は見えているのに、確かに視界ははっきりしているのに、

僕には周囲が見えていない。


……それでも僕は、考えるよりも先に走り続けた――

今までに経験したことがないほどの速さで。


外の明かりに向けて突き進み、荒野の空の下へ。


……ああ、これを想定しておくべきだったんだ……。


右脚に何かが突き刺さり、僕はバランスを崩して地面に倒れこむ

――いや、風を操りかろうじて柔らかく接地することはできたかな。


調査キャンプなんだ、護衛くらいはついている。


そして、その護衛の誰かが赤く光っていることくらいは

簡単に予想がつくことなんだ。


でも、後悔したところで何の解決にもならない。


鈍い痛みをこらえて何とか立ち上がり、頭を上げた先には

コイルライフルを構えた護衛の連合兵が一個体。


虚ろな目で頭だけをこちらに向け、二射目を放とうとしている。


彼らを殺すべきではない。だから僕に取れる選択肢は少ない。

突風で体勢を崩し、その間に逃げるにはあまりに距離が遠く、

距離を詰めるなら次の射撃を何とか避けるしかない。


考えている間にも周りからは他のおかしくなった作業員たちが

近づいてきて、僕に向けてその手に持った凶器を振り下ろそうとしている。


困ったな…………でも、やるしかない。


むしろ、大勢ここに群がってくるなら好都合。

距離を取り後ろでライフルを構える彼からは

おかげで視線が通らなくなった。


姿勢を低くしたまま手前にいる彼らを目隠しにして飛び上がり、

武器を奪って離脱しよう。


僕はゆっくりと体を起こし、伏せるような姿勢で

こちらに集まる作業員たちの方を向き、

追い詰められたふりをして唸り、威嚇する。


……今の彼らに相手の行動の意味を読み取る能力があるのかはわからない。

でも、平然としているよりはこちらの方が

警戒を緩めてくれるかもしれない。


だから僕はそうする。


こちらへ近づいてくる不気味な生きた赤い壁。

思った通りだ。ライフルを持った護衛の彼は

相手が見えていない限り攻撃しない。


単純な行動原理で助かったよ。


早く終わらせて、ここを離れよう。


痛みに耐えながら僕は前方へと飛び上がり、

身体を傾けつつ横風を起こして軌道を逸らす。


赤く光る連合兵のライフルが火花を散らすと首のすぐ近くを

金属の針が掠め、2つの異なる破裂音がそれに続いた。

耳元で弾ける乾いた音、ライフルの発射口から伝わる鋭い音。


そのまま斜めに飛び、一度地に足を着け、

まだ無傷の左脚で地面を蹴ってさらに前へ。

同時に風を起こして砂を巻き上げ、彼の視界を遮る。


――この距離ならもう鉤爪が届く。

そのまま僕は一気に距離を詰め、コイルライフルを掴んだ。


……はぁ……これで終わりだ。


突風を起こし彼を吹き飛ばすと同時に僕は勢い良く羽ばたいて

反対方向へと加速する。


毟り取るように武器を奪い、そのまま広げた翼に風を吹き付け、

僕は空へと舞い上がった。


あぁ……右脚の出血がひどい……。

街に戻らないと……。




大量の血を失い、少しずつ意識があいまいになっていく中、

僕は無意識のうちに街とは異なる方向へ……。


ねえ、セルン? ……この先には何があるというの?


今の僕には、それすらわからなかった。


ぼんやりとする視界の中に映る砂漠らしくない灰色の景色。

僕の目がおかしくなっているのかな……。


ああ……風が……冷たい? 熱い?


……翼に力が入らない……一度……降りようか。


――衝撃で気を失う前に僕が感じた最後の感覚は、

身体を持ち上げるような柔らかい風だった。


========


ABSOLUTE TIME: +74996 200 09:00:00.000


……ここは……建物の中かな?

意識は少しはっきりしないけど、でも脚の痛みはない。


顔を上げると、そこはどこかの病室のようだった。

でも、民間の病院じゃないね。


この感じは軍事施設だ。


身体を起こして少しの間じっとしていると、

白衣を着込んだフェルツェがこちらに歩いてきた。


種族の特性上年齢が分かりにくいけどそれなりの歳に見える。


「よかった、ようやく気が付いたんですね。

ああ、先に言っておきます。後遺症の心配はありません。

体もすぐに動かせるようになるはずですし、意識の不明瞭さも

薬の影響ですので問題ありませんよ」


僕が寝かされている大きめの敷物のそばまで来た彼は、

僕が聞くよりも先に最も大事なことを話す。

それを聞いて、本当に安心した。


脚も当然僕たちにとっては陸上種族のそれと――もしかしたら

それよりも大事な部位なんだ。


切断して、義足で置き換えるというのは

翼を作りものに変えるよりはマシでも辛いことだ。


本当に、よかった。


「ありがとう。それが一番聞きたかったよ。はぁ……」


ため息ばかり出てしまう。

思えばベッドの数を確認した時、見える範囲に居る

生死問わずの個体数を確認しておけばよかったんだ。


突然消えるわけでもないんだし、今外を歩いている数と

死体の数を数えれば少しの違和感には気づけたはず。


はぁ、僕もまだ未熟だね。

こんなんじゃまたシーグに怒られるよ。


「それで、僕はどのくらい寝ていたの? それと――」


「ここはテレイルの東にある哨戒基地です。そして、

この部屋は見ての通りその病室ですね。

あなたが発見されてからの経過時間はおおよそ3日です」


ほぼ一方的に遮られた……せっかちな奴だね。


「なるほど、迷惑をかけてしまったようで、本当に申し訳ないよ」


それにしても三日か。

ケーリムにも心配をかけていなければいいけど……。


「さて、動けるようでしたら情報部のものがあなたに

聞きたいことがあるそうですので、作戦会議室へ向かわれることを

お勧めしますな。では私はこれで」


まだ状況を飲み込めていない僕のことなんて気にもかけず、

そう言い残してこのフェルツェの医師は病室を去っていった。


ああ、調子が狂うな……。


でも、意識ははっきりしてきた。

身体の様子を見てみても痛むところはないし、目につく傷もない。


包帯や点滴用チューブの類もすべて外してくれているようだし、

動いても大丈夫かな。


じゃあ、言われた通り会議室へ行こうか。

……どこだか知らないけど。

コメント:


装備を外したセルンは知識や経験はともかく

普通のワイバーンであるということを強調するパート。


シールドも装甲もない生身だと一つの不注意だけでこれです。


脚、特に大腿部への被弾は意外かもしれませんが致命傷になりかねない危険なものです。

なにせ太い血管がたくさん通っている場所なので。


ワイバーンの場合でもそれは同じで、コイルライフルの弾体が一直線に貫通しながら

衝撃波で肉をかき回したためかなりの勢いで出血することになりました。


それでも魔法薬学を適用した薬品と適切な外科手術のおかげで

後遺症もなく完治したわけですが。


軍事基地ゆえ銃創に対応できる医師もいるので

セルンがどんな目的を持っていたのであれ正解だったと言えるでしょう。


なお、飛行種族が少ない連合でも軍の医療施設では既知の知的種族すべての

輸血用血液を最低限常備することが規定されています。


そのほか:


最初はコイルライフルじゃなくて電気系呪文投射機に

しようと思っていたんですが、連合防衛軍の標準歩兵装備には含まれないので

没になりコイルライフルに変更しました。


運よく飛び道具を持たない敵が間に挟まって射線を塞いでくれたおかげで

助かりましたが、位置関係次第では詰みだったかもしれません。


このことからも分かる通り、赤く光る異常者たちは

極めて単純な行動しかとらないようです。


また、セルンの耳に届いた二つの異なる破裂音とは、

発砲音とそれとは別で弾丸が発生させる超音速衝撃波の音です。


今どきのリアル系シューターゲームだと割と再現されていたりしますね。

発砲音と別で聞こえるため遠くから撃たれると非常に混乱する。

亜音速弾の場合は発生しません。


ほか、コイルライフルの弾速は2km/sくらいかな。

以前にどこかで書いていたなら2km/sというこちら側の値で上書きです。


流光の副砲である"0.15メルハ 連装多段式磁気加速砲" (120mm 連装コイルガン)

の弾速は4km/sです。

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