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存続限界点: 朽ち行く世界と翼ある探検家 / Hard Limit: Decaying Reality and the Winged Explorer  作者: 核分裂断片
000 鉄と砂漠と: 砂に埋もれた記憶たち / Sand and Steel: Buried Memories of the Badlands
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#0029 "個" の在るところ: 後半 / The Where "Identity" Lies: Lower Half

Perspective: Cernn


周囲をそれほど高くはない山に囲まれたこの場所で、

僕は山頂から斜面の下を見下ろす。

……一体、彼らに何が起こったの?


作業員だっただろう人間やフェルツェたちは焦点の合っていない目で

虚空を見上げながらただその場を徘徊していて

そこら中に血痕が残り、なんなら他の作業員の死体だって転がっている。

でも、そんなことはまだいいんだ。僕が気になるのはあの赤い光。


彷徨い歩く作業員たちの身体は奇妙な赤い光の……

なんといえばいいかな――オーラのようなものを纏っていて、

遠くから見てもその姿は明らかに異常だった。

しかも、おかしなことにその赤い光は実際には光っていない? ようなんだ。


何故なら周囲をまったく照らしていないから。


あれだけ明るいのに周囲がその色に染まらないというのはおかしいよ。

今が昼間であることを考慮してもね。それに、外よりも暗いテントの下や

坑道の入り口近くにいる者も同じ。


……間違いなく、ここで良くないことが起こった。

これだけは言えるね。


そして、ここから見下ろしていてわかることはこのくらい。


作業員たちは僕の存在にまだ気づいていないようだけど、

果たして降りたらどうなるやら。

こんな明らかにおかしな状況では警戒するに越したことはないよ。




群れの偵察隊に居た頃、リーダーや先輩たちから

何度もこう言われたのを思い出すね。


"異変を見たら、まずは近づかずに観察しろ" と。

この言葉の意味はいたって単純。


僕の口から説明するなら、"そこに死体があるということは、

それが死体になった原因もそばにある"


……どう? こういえばわかりやすいでしょ?

もちろん常にそうというわけではないにせよ、

このことはどんな時でも頭に入れておかないといけない。


目の前の状況――つまり赤い光を纏って虚ろな目で

彷徨い続けるというあの状態に、下に降りて近付けば

僕もそうなる可能性があるということ。

罠に飛び込むようなものなんだ。


すぐに連合防衛軍の基地にでも通報しに行くか、

それともそう少し良く調べるか。


通報するにしても情報は多く正確な方がいいけど、

その情報を得る過程で僕がああなったら意味がない。


あぁ……どうするべきなの?


両翼で頭を抱えたまま、僕は少しの間この場で悩んでいた。




…………よし、決めたよ。

降りて少し様子を見よう。最低限、作業員たちがどういう状態にあるか、

そして正常な状態のものは残っているか。


僕は急な斜面へ向けて身体を投げ出し緩やかに滑空して下へ降り、

て翼を大きく広げて減速し、しっかりと地面に足を着けた。


――その瞬間、赤く染まった者たちの様子が変わる。

制御された魔術機械のように皆が一斉にこちらを向き、

いままでは力なくさまようだけだった彼らは

気味が悪いほど整った姿勢で真っすぐ立ち上がってこちらを向いた。


明らかにおかしいというのは分かっていたけど――

これはおかしいどころの話じゃない。


作業員たちは手に凶器を持ったままただ無言で、

表情一つ変えず統制された無機質な動きでこちらへ歩いてくる。


……周囲にいる作業員たちの数は見える範囲で12個体。

今僕がここですべきことは……?


そうだ。彼らを傷つけないように距離を取りつつ

上からでは確認できない場所を探ることだ。


目的を確認した僕はすぐに翼を広げ、勢いよく飛び上がって

作業員たちの列をを飛び越え未調査の地点の一つ――テントの方へ向かう。


そして姿勢を低くして中へ……。


はぁ……まず、死体が2個体分。

傷跡から見てつるはしやシャベルによるものだね。


他はこの採掘現場? 周辺の地図と指示書の類だ。


時折後ろを振り返り、距離を確認しつつ僕は調査を続ける。


彼らが走ろうとしない理由は不明だけど……少なくとも

そのおかげで少しは落ち着いて調査ができるかな。


……全員が同じ姿勢で動き、同じ速度で歩いて

ゆっくりと近づいてくるんだ……気味が悪いよ……。


ああ……とにかく役に立つ情報を集めよう。


まずはこの地図と指示書。ここに留まって読むことはできないから、

安全な場所までもっていこうか。


こういう時せめてポーチくらい身につけていればね……。


後の様子は今はまだ大丈夫。口に咥えて持っていこう。


翼の指で必要なものだけをまとめ、

ひとまず僕はそれを回収して周囲を囲む山の上へと撤退した。


上から改めて見下ろしてみると、

赤く染まった作業員たちは標的を見失った――というよりは

近くに追いかけるべきものが無くなったからかな。

最初に僕が見たときと同じような徘徊行動に戻っている。


それを見て、彼らの行動について時間さえかければ

もう少し詳しく調査できそうだと、そう思ってしまったよ。

でも、当たり前だけどここには長居すべきではない。


もう一度だけ降りてもう一つのテントと坑道内の様子を見たら

ここを離れて連合軍に通報しよう。


ただ、まずは地図と指示書の確認だね。


口に咥えたそれを一度地面に落とし、

包み込むように翼を広げて風を遮る。


そして軽く足で押さえながらその内容に目を通してみる。


……ふむ……"落下地点の調査"か。

書かれていたのは、はるか昔この場所に落下した

未知の物体の調査についてだった。


情報源は回収された第二の文明の記憶媒体からだね。


今から4998年前、はるか上空から何かがここに落ちて、

そのまま地中深くに突き刺さった。

当時の第二の文明にはそれを調査する余裕はなかったことが分かっていて、

だからみんなはそれを掘り出そうとしていた、と。


その未知の物体というのが彼らをあんな状態にしてしまったのかな……?

もしそうだとしたら僕もできるだけ早くここを離れたほうがいいね。


地図の方はというと、発掘地点の厳密な位置とキャンプ設営時の

施設配置、そして坑道の掘削計画。

坑道内の見取り図だけ頭に入れておこうか。


よし、それじゃあ行こう。


要点を頭の中でまとめ、僕はもう一度発掘キャンプへと降りる。


斜面を這うようにして降下し、まずはさっき調べたテントへ。

地図や指示書は持ったまま飛ぶには邪魔だし、連合の各政府や

軍ではこれの原本が保管されているだろうから

わざわざ持ち帰る必要はないはずだ。

だからここへ置いて行く。


そしてまた同じようにこちらへ歩いてくる作業員たちを十分に引きつけたら、

それを飛び越えて隣にある宿舎へ。

こちらもテントではあるけど出入り口を閉じられる作りだね。

中からははっきりと血と肉の匂いがする。


この中にも赤く光っている者がいるかもしれないし、

警戒しつつ少しだけ中を覗こう。


翼を畳み、姿勢を落として中へ。

そっと首を伸ばしてゆっくりと入口に垂らされた膜をくぐる。


……ああ、やっぱりだ。

入ったそばからまず人間の死体が1つ。


目から血を流しているね、刺し傷自体は――はっ!!


死体を観察しつつゆっくりと歩を進める僕をめがけ、

右側から何かが振り下ろされた。


でも、遅いね。僕は緩やかに前進する身体を

そのままテントの中へと放り出し、同時に

攻撃者の脚に尻尾をひっかけて転ばせる。


そしてすぐに振り向いて宿舎の中をすばやく見渡した。


死体が最初に見たものを含め3、転倒して起き上がろうとする

赤くなったフェルツェが1。ベッドの数は24。指揮所らしき、

僕が最初に見たテントにベッドはなかったから、

おそらく作業員は最大で24個体。交代制かもしれないけど今は重要じゃない。


よし、十分だ。外に出よう。


ゆっくりと、格納姿勢から通常姿勢に戻るゴーレムのような

機械的な動きで起き上がろうとする彼のことは気にせず、

ここに飛び込んだ時と同じ動きで外へと飛び出す。

外に出てすぐ右、そして正面には敵。飛び越えて次は坑道へ。


ああ、しまった。先に追灯を出しておけばよかった。


僕が今から突入しようとしている坑道は決して明るくはなくて、

魔法で照らさないと索敵に遅れが出るかもしれない。

……仕方ない、急いで呪文を組もう。

苦手なんだよね……急ぐの。


> BEGIN CONTROL


> TIMER = "10m"

> execute FloatingTorch(2.5, 20, 200, [255,255,255])


> END CONTROL(TIMER)


よし、これでいい。


坑道は入って直進、突き当りで右に曲がると下り坂があって、

道なりに進んだら最初のT字路を左。

薄暗い行動に向けてまっすぐ走り、記憶した通りに先へ進む。


中には死体がいくつか、そして誰かに持ち出され

空きができた採掘道具の棚もある。

それ以外は――おっと、光っているのがいたね。でも構っている暇はない。


直進しつつ横1歩分だけ軌道を逸らし、脇を通り抜けて僕はさらに奥へ進んだ。


はぁ……思えば全力で地上を走るのも久しぶりだ……少し疲れるね。


でも、往路はあと少し。


ここが最奥のはず――は?


これは……なんだろう。


入口から一直線に走り、たどり着いた終点にあったのは……

どこか見覚えのある黒い柱だった。でも、見覚えがあるはずなのに

それがいつ、どこなのかははっきりとしない。

何故?


その柱の高さはおよそ12.5メルハ。

部屋の床に対して垂直に立っていて、表面には傷一つない。

直線と平面を組み合わせた無機質な作りで、

垂直方向に延びる溝がいくつか走っている。


あまりに異質な物体。

今まで僕が見てきたどの遺物とも、どの文明の建築様式とも違う。


資料で見た第一の文明の建築や機械類に似ている部分はあるけど、

それでもどこか雰囲気が違う。


わからない……でも、感じるんだ――とても強い不安を――何か、

悪い予感のようなものを。




――ああああダメだ! 今これが何かを考えるのは良くない。

情報収集は十分、すぐに撤退しよう。



コメント:


慎重に観察すべきだが、同時にそれだけでは十分な情報が得られない。

と言っても上空から見たものを伝えれば、セルンが今まで得てきた信頼もあり

軍は動くでしょうが、彼はより詳細な情報を掴むことを優先しました。


出来る限り役に立ちたい、世のためになることをしたいという自由とは正反対の感情も

セルンの中にはあります。不安や恐れがあっても、時にはこういった気持ちから

無理をすることもある、そんな性格ですね。


そのほか:


セルンが明らかに異常な作業員たちを殺さず、誘導してその隙に

必要なものを回収することを選んだのは、常識的に考えていくらこんな状態でも

問答無用はまずいからです。


彼らをどうするかの判断は通報した後現場の処理のため派遣されるであろう

軍の即応部隊に任せるという方針。


この世界は都市部と街道沿い以外はほぼ無人、未開の地だったりするので

そういう辺境での事件の対応は基本的に軍隊の仕事です。


車両や飛行機械が配備されていないような場所だと町の守備隊の一部を引っ張ってきて

徒歩や馬での移動で対応ということも。どうしようもない場合は

飛行種族を傭兵として雇って向かわせるという手もありますね。

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