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存続限界点: 朽ち行く世界と翼ある探検家 / Hard Limit: Decaying Reality and the Winged Explorer  作者: 核分裂断片
000 鉄と砂漠と: 砂に埋もれた記憶たち / Sand and Steel: Buried Memories of the Badlands
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#0027 懐かしい空 / Flying in Nostalgy

ちょっと腕の調子が悪くてキーボードを打つのも微妙にやりづらいので

直るまで遅れたり遅れなかったりするかもしれませんな。

激遅更新なのはいつものことなので今更ですが。

Perspective: Cernn


ケーリムが作ってくれた新しい飛行装具、"波渡"の能力を試すため、

僕がやってきたのは町からそう遠くない位置にある岩場だった。


ここの存在を知っていたというわけではないんだけどね?

でも、この地形は低空飛行や戦闘機動を試すにはうってつけの場所だと、

空から見下ろしたときにすぐわかった。


もちろん、危険な場所でもある。

亀裂の合間を吹く風はとても強く、それぞれの流れが合流することで

さらに勢いを増し、時には渦を作りかき乱す。


波立つ海面は壁面にぶつかるときに水しぶきを上げて視界を塞ぐし、

最悪の場合はその波そのものに衝突することだってあるだろう。


それでもね、この程度の地形に墜とされるようでは

どのみちこれからの旅のどこかで僕は死ぬことになる。


新しくて強力な装備を使ってすることと言えば

当然さらに危険な場所へ潜ることなんだ。


装備は持っていてうれしい蒐集品なんかじゃない。

ケーリムのためにも、もっと先に進まないといけないから。


そうして覚悟を決めた僕は

この曲がりくねった岩場に飛び込んだというわけさ。


翼を畳んで急激に高度を落とし、

海面をこすりそうなところで一気に鼻先を引き上げる。


……表皮を撫でる冷たい風。久しぶりの感覚だ。

飛行装具を身に着けているはずなのにはっきりと感じられた。


さて、天気のおかげですぐ腹の下にある海面は

まだ穏やかだけど、それもこの辺りまで。


もう少しでも近づけば海は穏やかさからかけ離れたものになる。


正面に見えるのは切り立った崖とその中へと通じる小さな裂け目。

上から見るとひび割れた大地にしか見えなかった地形も

高さを合わせてみれば立ちはだかる障害そのものだね。


でも僕はそんなことは気にしない。勢いを緩めることなく羽ばたき続け、

谷間を流れる風の激流の中へと突き進むんだ。

――そして数秒で、開かれた空は僕のそばから消え去った。


狭く曲がりくねった風の道へ入ると強風が僕をここから追い出そうと

ぶつかってきて、それは不規則に向きを変え時には壁へ叩きつけようとする。

押し返す風に抗い体を前に進め、最初の分岐に差し掛かると、

今度はひねるような歪んだ流れが僕の身体をかき乱そうとする。


でも、言ってしまえばそれだけだ。魔工エンジンも気流制御も必要ない。


これは波渡に支えられた僕の翼と飛行技術だけで打ち勝てるものに過ぎない。

今の僕なら生身でもどうにでもなるくらいだ。


そう確信して僕はさらに速度を上げる。

気流が乱れるたび、こちらもそれに合わせて羽ばたき、

姿勢を変え、適応する。


姿勢さえ整えてしまえばまるで生きているかのように

常に形を変え続ける波渡の防壁平面が風を受け流してくれるんだ。


暴れる空と戦うようなこの感覚……懐かしいね。

ラスが言っていた、空への適応という言葉を思い出したよ。


最初は乱流の中で必死になって何とか身体を安定させて、

風にあおられて彷徨う運動方向を戻すべく羽ばたくんだけど……

最後は自然と激しい気流にも乗れるようになるんだ。


これ、初めて空に上がる幼体が必ず教わる話なんだけどね。

今更になって、その意味を再び知ることになった。


長い間、僕は殻に籠っていたんだ。

貫雲はとても優秀な装備ではあったけど、

同時に僕を空から切り離す仕切りでもあったと、強く実感した。


……さて、もうこの空は僕のものだね。


岩の狭間を流れる風は、幻でも見ていたかのように穏やかなものになり、

分岐する流れの合流点を取り巻く渦も数度通り抜ける間に静まった。


あとは打ち寄せる波が立てる水しぶきと、

うねる海面をかわしながら突き進むだけ。


僕は魔工エンジンも気流制御も使わないゆっくりとした飛行で

強風の吹き荒れる岩壁の上を這い、ついにこの岩場から抜け出した。


はぁ……。

波渡の助けがあったとはいえ、こうやって純粋な飛行技術だけで

荒れた空に挑んだのは本当に久しぶりだよ。


思い返せばここ数年、僕が飛んできた空は穏やかなものか、

もしくは地の底にある小さな空洞だけだった。


今の飛行は……なんだろう? こういうのも変だけど――

僕が本当にワイバーンであることを思い出させてくれた……

そんな気がする。


いや、変だよね? 僕は間違いなくワイバーンなのに。

でも、こう表現するのが適切だと僕は思った。


よし、そろそろケーリムの元へ戻ろうかな。

この懐かしい気持ちを持って、ね。


====


帰り道は試験も兼ねて魔工エンジンを吹かして飛んで行く。

驚いたのは、音速に近いほどまで加速しても

ほとんど風の抵抗を感じなかったことだ。


僕は今荒野の砂を巻き上げながら地面すれすれを飛び、

まばらに見える小さな岩や乾いた草木を避けつつ飛んでいるわけだけど


まっすぐな気流に体が縛られるような感覚がとても薄い。

ケーリムが言っていた速度域に合わせて変形するというのは

こういう意味だったんだね。


これならもっと速度を上げても安定して飛べるかもしれない。

戻ったら聞いてみようかな?




そのまま飛んでいけば数分もしないうちにテレイルは目の前だ。


一応門の前に着地して、歩いて町の中へ。


飛んでいた時間は実際のところ1時間もないから港の様子にも特に変わりはない。

数少ない違いといえば小型の船が桟橋にとまっていることくらいだと思うね。

多分エーティルとの連絡船だ。


====


「戻ったよ、ケーリム」


倉庫に戻ってきた僕は奥の作業場で何やら弄り回している彼に声をかける。


「どうだった? よぉくできているでしょ? なにせ僕の自信作だからね。でも、何か不具合でもあったら遠慮せず言いなよ? 言ってくれれば1日あれば直すから。さ、感想を聞かせてよ」


そうすると、ケーリムは詰め寄るようにで感想を求めてきた。

……圧力が強い。

まったく、戻ってきた途端これなんだから。


「おちついてよケーリム。本当にいつも君はそうだ。

まあ、一通り試した限りでは防壁の動的変形が

かえって邪魔だと感じることはなかったし、

驚くほど最適化されていると感じたね」


実際、彼は飛行種族じゃないのにいつも文句なしの

調整を施してくれるんだ。本当に助かるよ。


「はぁ、よかった。もちろん機能自体は完璧に仕上げたつもりだけど、

結局のところ"実際に君が使ってどうか"っってのが一番大事だからねぇ。

それが聞けてほっとしたぁ」


僕が答えると、彼は大げさに胸をなでおろし、

さっきまで落ち着きなく揺れていた尻尾も穏やかになった。


「――で、波渡は一度外したほうがいいかな?

ほかの装備との統合も必要だし。……あー、あと言い忘れていたんだけど

仕事の報酬でこれをもらってね」


完全に頭から抜け落ちていたけど、

そういえばこんなものをもらったよね。


電磁強化装甲用の磁場発生器。どうせ最終調整にまだ追加で

作業がいるわけだから今のうちに相談しておこうと思うんだ。


「まあそうだねー、まだ作業が残ってるから

一旦外してもらわないと。……で、それは?」


僕が差し出した装置をケーリムは手に取り、目の前に掲げて観察する。


「ああ、なぁんだ電磁装甲の中核部品ねー。ふむ、ただこのタイプは

物理装甲の強化用だから刻印盤を何枚か外して書き直さないとだなぁ」


……当たり前のように言うけど、それってかなり手間のかかる作業だよね?

少しだるそうに話すケーリムではあるけど、

その声にはかなりの余裕が感じられる。


「えっ、書き直すってそれ結構時間がかかるんじゃない?」


「ふふふ、僕の刻印技術だって昔と比べればはるかに上達してるからねー。

2日時間をくれれば仕上げられるかな。内訳で言うと

電磁装甲の改造に1日、波渡の最終調整と鋼烏の統合に1日ってところ。

鋼烏に関しては配送待ちになるけどね。

……ああ、貫雲の方の修理もあったか。でもこっちはすぐできるから」


それだけの作業量で2日ね……。

疑問を投げかける僕に対して、ケーリムの答えは真っすぐだ。


「まあ、見ない間に君の方もずっと開発を続けていたんだから当たり前か。

それじゃああとは任せようかな」


「ほいほい、んじゃ悪いけど装備を外させてもらうよ」


====


――そうして僕は整備のためにすべての装備を外し、

数年ぶりの完全な生身となった。


彼の邪魔をしないように作業場と化した貸し倉庫を後にして……

今日はこの町で泊まっていくかな。


いや、外で寝るのもいいかも?

せっかく久しぶりにごく普通のワイバーンに戻ったわけだしね。

昔ながらの生き方を短い間でも思い出してみるのも悪くないと思う。


まあ、今はまだ昼間だし少し街を歩いてみようか。

[人物情報: セルン (生身)]


ワイバーンは個体ごとの明確な外見の違いが少ないため、装備を外した状態の

セルンをそれと認識できるものは限られる。


彼の外見は一般的な山岳、都市部に住む同族とほぼ変わりがなく、

身体の色は背中側が灰色、腹側が白である。


[種族情報: ワイバーンの身体構造]


ワイバーンはしなやかな細い胴体に1対の翼、2つの脚と尻尾を持ち

頭は胴体から伸びる長い首の先にある。表皮は非常に滑らかであり

流体抵抗が少なく、棘やひれといった抵抗を増大させるような突起状の部位も持たない。


また、頭部には長く尖った大きな耳があり、これは優れた聴覚を提供するのに加え

限られた範囲で動かすことで空力バランスの微調整にも使用される。


目はスピニアを除く他の種族と同様2つで、グリフォンに次いで

2番目の視力を有していることが研究により確認済み。

また、色は遺伝状態により水色と黄色の二つに分かれているようだ。


コメント:


前も書いたような気がしますが、ワイバーンの身体の大きさは

全長6mから7mほどで体は非常にスリムなため普通に室内でも行動できます。


足の指は前に3本、後ろに1本で鳥と同じ。


地上、空中を問わず足の爪は彼らの主要な武器となっています。


そのほか:


セルンは灰色の身体に水色の目ですね。

装備を外していると他のワイバーンと全く区別がつかないので

意外と目立ちません。


ワイバーン同士でも実際にあったことのない個体を一目で区別するのは無理です。

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